勇者神想
マグナセイバー
Mission 2 『煌めく祈り 惑星ほしを護る者』 〜前編〜








今、東名高速を駆け抜けて行く赤い車がいる。一見すると何処にでもありそうな普通の乗用車である。しかしその車は『普通』ではなかった。

「ふぅん……じゃ、マグナにも『仲間』がいるのか。」

車の運転席に座る少年は、自分の左手首に着けた腕時計のようなものと正面の景色とを交互に見ながら頭の中の疑問を口にした。
運転席にいる、といっても彼は小学生で、無論自分で運転が出来るわけはない。
ならば何故車が走っているのか、という疑問が浮かぶわけだが、それは普通に説明するとかなり時間がかかる。
まぁ、簡単に説明すると、「修学旅行中の彼らがいた近くに突如怪物が出現し、近くに眠っていた『精霊』と呼ばれるものがこの車に乗り移り怪物を撃破して、現在は家へ帰宅中。」ということなのだ。
旅行先だった奈良・東大寺を離れ、もうかれこれ二時間になるだろうか。車に乗り移ったその『精霊』は「ひとまず詳しいことは自宅に帰りながら話す」と言うので、車に変形してもらい、高速に乗って家路を急いでいた。

「そうだ。私たち精霊はこの世界に存在するいろいろな『要素エレメンツ』を司っていて、それぞれの『要素』に対しそれぞれの『守護精霊ガーディアルスピリット』が存在している。そして私はその中の『火』の精霊なのだ。」

運転席の少年、もとい紅焔寺勇斗は、話を聞く度に浮かぶ疑問を次々と車、つまり彼の精霊である『マグナ』へと投げかける。

「へぇ〜。じゃぁ、どうすればマグナみたいに復活できるわけ?」
「我々は、世界に危機が近づくとき、その心が通じあった者と契約を結ぶことでこの世界に現れることが出来る。つまり、君のような人間が他にもいると言う事だ。」

その言葉に、勇斗はもう一度左手首の腕輪を見る。

「しかしこの世界で活動するためには、一時的に魂を宿す『器』を必要とするのだ。」
「つまり『体』が必要なのか。 ……で、マグナは『この車』にした、ってわけね。」
「そういうことだ。」
「じゃ、あの大きなトレーラーみたいなのは? 合体してたヤツ。」

勇斗は相変わらず疑問が絶えないようで、さっきから出てくる言葉は質問ばかりである。受け答えるマグナも、慣れない運転と説明の同時進行に苦しんでいるようだ。

「あれは私のサポートメカ『セイバーローダー』だ。普段はこちらとは違う空間内に格納されている。」
「ここと違う空間……さっき俺が居たみたいな?」
「いや、あれともまた違う場所だ。」
「ふぅん。」

一応納得したような返事をしたので、マグナは少し安心した。しかし育ち盛りの好奇心を満足させるには足りなかったらしく、またすぐに元の状況に逆戻りする。

「じゃ、あの変な青い鳥みたいなヤツは?」
「アレは……」

そしてその後も一方的な問答を繰り返しながら、自宅へ向けてその速度を速めた。




そしてその日の夜。8時56分頃、ようやく彼らは自宅である紅焔寺家へとたどり着いた。
長い間高速や一般道を走り続けていたマグナは大分疲れているようだ。
しかし一方の勇斗はというと、運転席のシートに体を預け、安らかな寝息を立てている。すれ違う車のドライバーのほぼ全てが『運転席に座っている小学生』と『勝手に走る車』という組み合わせに驚いていたことに、彼らは気付いていなかった。

「着いたぞ、勇斗。」
「んん、ふぁぁぁ〜。」

間の抜けた大あくびをしながら身体を伸ばし、目をこする勇斗。周りを見渡しているその様子から察するに、まだ自分の置かれている状況が把握できていないようだ。

「あ、ホントだぁ〜……」

まだ意識がハッキリしない勇斗は、まるではいずるようにマグナから出てくる。

「それじゃ早く家に……」

そう言って勇斗が歩き出したときだった。

「待ってくれ、勇斗。」
「ん、何だ?」
「私はどうすればいい?」
「え?」

唐突な質問に目を丸くする勇斗。質問の意味があまり分かってないようで、少し間が空く。

「『どう』って、何が?」
「私のこの体は君の家族が所有するものではない。私は何処にいればいい?」

どうやら身を隠す場所のことが聞きたいらしい。確かにこの車は東大寺の近くの駐車場にたまたまあった、というだけのシロモノだ。それがこんなところにあると知れれば、騒ぎが起こるのは目に見えている。
悩みに悩んだあげく、勇斗は一つの提案をしてみることにした。

「なぁ、何か『小さなものになる』とか出来ないか? それがムリならこのコマンダーの中に入るとか………ダメ?」
「ふむ……よし、後者の線でやってみよう。」
「できるのか?!」

ダメもとで言ってみたことなだけに、言った本人はびっくりしている。だが、マグナの方はそんなことはお構いなしのようだ。

「基本的に私たちに出来ないことはない。 ……ただし、それに見合うだけのマスターの力があってのことだがな。」
「へぇ……」
「ではいくぞ!」
「えぇっ!? わ、のわっ!」

すると突然マグナの体、もとい赤い車が光を発し、小さな赤い光の球に姿を変えた。まるで車に宿る前の姿のようだ。そして勇斗の左手首の『マグナコマンダー』に吸い込まれていった。
その光景をただ呆然と眺める勇斗。しかしふと我に返ると、コマンダーに向かって呼びかけるように言った。

「え? え? ど、どうなったんだ??」
『今、私はこのコマンダーの中にいる。この方法なら勇斗と離れる危険性もないだろう。』

コマンダーをよく見ると、確かにカバーの上部に金の枠に囲まれた赤いマークの入った部分が赤く光っていた。恐らくそれがマグナの存在の証なのだろう。

「うん、分かったよ。それじゃ、今日はこれでおやすみ。」

勇斗がそう声をかけると、マークから光が消えた。
内心で「精霊も眠るのかな?」などと考えながらも、家に向かうために踵を返す。
だが、そこで勇斗はある失敗に気付かされた。すぐ100m程先、自宅の門の前に人影があったのだ。
しかもその人影には見覚えがあった。それは紅焔寺家の同居人、『星野 宇美ほしの うみ』だった。
正確には『同居人』というよりは『一時的に預けられている』と言う方が正しいだろうか。彼女の両親はかなり高名な科学者で、とある研究のため遠くへ引っ越さねばならなくなった。しかし『娘は連れて行けない』ということで、古くからの友人であった紅焔寺家に預けていったのだ。彼女は勇斗とは幼なじみであったため、今の生活でも何ら違和感はないという。
どうやら勇斗の声に気付き、出迎えに来たところだったらしい。

「ゆ、勇斗くん……い、今のって……」

勇斗は内心かなり焦っていた。もしこのことを追求されたら、自分には上手い言い訳は思いつかない。

「今のってもしかして……」
「あ、いや、これは……その…」

どうやってこの場を乗り切るか。そんなことを勇斗が一生懸命考えていたときだった。

『ん、どうした、勇斗?』
「え?」
「わーーーっ、わぁーーーーっ!」

突然のマグナの声に、異なるリアクションで驚く二人。

「今の声は……?」
「な、何でもない! あは、あはははは……」

笑ってごまかそうと思ったが、もう遅かった。

『何かあったのか!? はぁっ!』
「え゛!」
「?!」

すると赤い光と共に車形態のマグナがその場に現れる。もうこうなっては言い逃れは出来ない。

「…………」
「はぁ……」
「????」

驚きのあまり声も出ない宇美と、額に手を当てて呆れたようにため息をつく勇斗。コマンダーの中に居たせいで状況を見ていなかったマグナには、何が起きているのか全く理解できず、目のかわりとなるライトを不思議そうに明滅させるのみだった。




その後家に帰った勇斗は、ことの全てを宇美に話した。最初はよく分からず黙っていた宇美も、『このことは自分達だけの秘密』と言うことでとりあえず納得してくれた。
ちなみに、奈良周辺での事件の事を耳にしていた両親からいろいろと問いつめられたが、「疲れてるから」と言ってなんとか誤魔化すことには成功した。
そしてその日の夜はとりあえず何事もなく過ぎ去ったのだった。





「これがおめぇの邪心獣をツブした野郎か。」
「ああ。詳しいところは未だわからんが、我らの妨げとなることは間違いあるまい。」

漆黒の空間に話す声が響く。視界はほぼゼロに近く、その姿は確認できない。

「それにしても、ずいぶんあっさりと殺られたモンだねぇ。『レイヴン』?」
「ふん、あれはほんの小手調べ程度に過ぎん。次の機会には必ず倒してみせる。」

聞く限りでは、声の主は3人。荒々しく野太い声の男、『レイヴン』と呼ばれた堅苦しい口調の男に、軽い感じの口調の女性。3人は光と共に映像を映し出している水晶球のようなものを囲みお互いに言葉を交わしている。

「『小手調べ』たァよく言ったモンだぜ。結局は負けたんじゃねェか。」
「ならば今度はお前がいくか? 『クロコダイル』よ。」

『クロコダイル』と呼ばれた野太い声の主は、鼻で笑うと、自信ありげに言った。

「ヘッ! 俺はテメェとは違うぜ。あの程度の野郎に、俺の邪心獣が負けるかよ!」
「やけに自信満々だねぇ、イイ『種子たね』でも見付けたかい?」
「おうよ! ちょうどいいヤツを、ついさっきなァ。」

嬉々とした声を出す『クロコダイル』に、『レイヴン』吐き捨てるように言う。

「フン、目ざといヤツめ。」
「ンだとォ!」

二人にとってはこれもいつものことらしいが、暗闇の中、二人はお互いを睨み付けた。

「およしよ、二人とも。」
「うるせェな、おめぇは引っ込んでろよ! 『アバローネ』!」

女声の名は『アバローネ』と言うらしい。とそこで音を立てて映像が消える。3人ははっと我に返りその方向を見た。
それによって少しの沈黙が流れた。誰もが押し黙り、口を開こうとしない。しかしそれに耐えきれなかった一人が、言葉を発する。

「チッ、気分が悪ィ。俺はいくぜ。」

黙りはゴメンだ、と言わんばかりのクロコダイルは、その場に背を向けて立ち去る。それと時を同じくし、他の二人も無言でその場を去っていった。そしてあとには静寂だけが残った。




「失礼しました〜」

扉を開けて勇斗が出てくる。しかしその足取りは重い。
それもそのはず、先日の修学旅行で一人だけ行方不明になった言い訳と、その後どうやって家に帰ったかの説明をしてきたのだ。さすがに本当のことを話す訳にもいかなかったので、何とか適当な理由を話した。かなりムリのあるまさに取り繕ったような弁明だったが、ひとまず無事が確認できた、と言うことで許してもらったのである。少し慌てていたので、上手く誤魔化せたかどうかは謎だ。

「大丈夫、勇斗くん?」
「ん? ああ、大丈夫だって。 ……はぁ……」
「やっぱり辛そう。頭が痛いの?」

勇斗は少しガックリ来た。なんとなくどこかズレているのは知っているが、この発言にはため息も出る。
昨日あれだけ説明したのに、と内心落ち込みながらも気を取り直して廊下を歩く。

「いや、間違ってない気もするけど、まぁ平気……とりあえず、教室戻ろう…」
「うん。」

そして二人は、教室へ続く廊下を並んで歩いて行った。




ここは勇斗達の暮らす小春日町(こはるびちょう)にある『麻帆呂まほろ小学校』。ご町内では「まほ小」という愛称で親しまれている。
長さの違う二つの校舎を中央部の渡り廊下で繋いでおり、上から見るとちょうどカタカナの「エ」のように見えるのが特徴だ。ちなみに、グラウンドに面した長い方は4階建て、もう一方は3階建てとなっている。




今はもう放課後で、勇斗達が教室に辿り着いた頃には殆どの生徒が下校したあとだった。傾きかけた日の差し込んでくる教室は少し寂しげな気さえする。
勇斗はあまり長居する気にはならなかったので、足早に教室をあとにする。もちろん後ろには宇美も一緒だ。まだ日没には早いが、空はもう赤みを帯び始めている。
グラウンドを横切り、校門を目指していたその時だった。勇斗の背に声がかかる。

「お前があの『赤いヤツ』と一緒にいた人間か。」

聞き覚えのない声に振り向いた勇斗は、奇妙な光景を目にする。
そこにいたのは一人の男だった。
体格は良く、まるで格闘技でもやっていそうな感じだ。しかし、着ている服は明らかにこの世界のものにはないデザインだった。そしてその鋭い目で、まるで獲物を狩る直前の飢えた獣のようにこちらを睨み付けている。
普段あまり他人とケンカはしないせいもあってそう言ったことに疎い勇斗でさえ、その男からはハッキリとした『敵意』を感じられた。そして何より、この男はマグナのことを知っている。名前こそ出していないものの、「赤いヤツ」と言う言葉で勇斗には他に思い当たる節はない。となると、この男はマグナの言っていた『敵』と言うことになる。

「……だったら、どうだって言うんだよ。」

歴然とした体格差と全身から溢れる殺気に気押されながらも、勇斗はありったけの気持ちで虚勢を張った。が、当の男はお構いなしに続ける。

「そうか……… なら話は早ぇ!! 出ろ、邪心獣じゃしんじゅう!!」

途端に口調を荒くした男は、どこからともなく黒い光球を取り出し、それを宙に向かって放り投げた。そして鉛直に投げ出された黒球は、何処かへと飛び去っていった。

「な、何、今の……?」
「フン、すぐに分からぁ。」

そう言うのと同時に、付近の街に突如巨大な怪物が現れ破壊活動を開始した。

「え?!」
「さぁ、出して来いよ、お前の相棒を! 俺の邪心獣はこの間のヤツとはワケが違うぜ?!」

たった今目の前で起きた光景に、勇斗は我が目を疑った。どう考えてもあの男は敵だと思った。しかしその男は、まるで人間のように見えた。大体のいきさつは、先日に聞いてはいたが、こんなことは聞いていない。
突然の出来事に、勇斗は頭の中がパニックに陥りそうだった。

「勇斗くん!!」

訳も分からず立ちつくしていた勇斗は、宇美の呼びかけではっと我に返った。

「そ、そうだ。マグナ!」

思い出したように左手首のコマンダーに声をかけて、パートナーを呼び出す。

『どうした、勇斗!?』
「またこの間みたいな怪物が現れた!」
『何!?』

先日と同じようにマグナが赤い光と共に現れる。

「乗れ、勇斗!」

出現と同時に勢いよく運転席のドアを開く。そこに飛び込もうと足を踏み出したが、ふと思い出したようにもう一度校庭を振り返る。しかしそこには先程までいた『あの男』はいなかった。

「どうした?」
「え? いや、何でもない。」

マグナが心配そうに言うので、勇斗は自分の不安を払拭するように答えた。

「何があるか分からないから、宇美はここに居てくれ。」
「う、うん……」

不安げな表情の宇美にそう言うと、マグナの運転席に乗り込み勇斗は戦いの舞台となる街へと飛び出していった。




今回現れた怪物は前回とはまた違った形をしていた。まるで工事現場の建設重機を寄せ集めたようなそれは、何となく違うような気がするが、「ロボット」と呼んでも差し支えない感じだ。
その怪物を目指して街を疾走するマグナ。戦場にたどり着くと、運転席の勇斗を降ろし、ドアを閉めて敵へと走り出す。そして器用にジャンプすると、空中で人型へとその姿を変えた。

「くっ、さすがに大きいな。勇斗!」
「分かってる! 合体だ!」

そう言うと左腕のコマンダーを空に向けて掲げる。

「バ――――ン、アァァァァップ!」

大きく息を吸い込んでキーワードを叫ぶと、それに呼応したマグナは大きくジャンプした。
炎の渦の中から現れたセイバーローダーが人型に姿を変え、その中にマグナが収まり、炎の巨人が誕生する。

「炎神合体! マグナッセイッバァァァァッ!!」

立ち上がった紅き巨人は雄々しく名乗りを上げる。
前回は手動で行われていた勇斗の収納も、今回は光の道のようなもので自動的に収納された。

「行くぞっ!」

そう言って巨人、もといマグナセイバーは目の前の敵へと攻撃を開始した。




「ヘッヘッヘ、そうだ、戦え! 俺の方がアイツより上だってことを思い知らせてやれ!!」

巨大な2体が戦っているすぐ傍のビルの屋上に彼は居た。先刻勇斗に声をかけた男、そして闇の中でしていた声の一つ。そう、この男こそが敵の一人、『クロコダイル』なのだ。

「随分と楽しそうだな?」

その後ろから声がかかる。冷徹で、かつ無表情な声の主は『レイヴン』だ。

「おうよ、てめぇのとは『格』が違うからな。用が無ェんならとっとと失せな。」
「ふっ。期待して待っているとしよう。せいぜい頑張るがいい。」

そう冷たく言い放つと、レイヴンの姿は陽炎のように掻き消えていった。

「ケッ、余計なお世話だ。」

憎々しげに呟くクロコダイルの顔は嫌悪に満ちていた。




「くっ!」

意気込んで臨んだ戦いだったが、相手の予期せぬ戦法にマグナセイバーは苦戦を強いられていた。

「腕が邪魔で近づけない!」
「リーチの差があり過ぎるんだ!」

その敵は右腕がクレーン、左腕がショベルという姿をしており、その両腕を振り回して接近できないようにしてきた。そして間合いが離れると頭部に付いたライトのような部分からビームを放ち、じわじわとこちらの装甲を削ってくる。主に接近戦を得意とし、火力の高い遠距離武器の少ないマグナセイバーでは、このまま長期戦になれば間違いなく不利だ。

「何とかしてヤツの懐に入れれば………」

距離をとれば敵の思うツボ、しかし下手に間合いを詰めればあのアームで滅多打ちにされるだろう。これでは対抗しようにも手段がない。
しかし攻撃が出来ずにいたその時、敵が右腕のクレーンからワイヤーをのばしてきた。突然の出来事に不意をつかれたマグナセイバーはいとも簡単に捕まってしまった。そしてそのワイヤーから高圧の電流が奔る。

「ぐっ、ぐおぁぁぁぁッ!!」
「マグナーッ!!」

異空間にいる勇斗は電撃の影響は受けない。しかしここで自分達が負けたら街は壊滅してしまうだろう。そんな光景が一瞬目に浮かんだ勇斗は、どうにも出来ない自分がとても歯がゆい、そんな気持ちになった。




学校の校庭では先程勇斗と共に敵の出現を目撃した宇美が立ち尽くしていた。彼女にとって信じられない光景が今、目の前で繰り広げられていたからだ。
今も巨大な敵が、勇斗と共に戦場に向かっていった『彼』を倒そうと猛攻を仕掛けている。戦況はマグナの方が目に見えて不利だった。

「あのロボットには勇斗くんが………」

破壊された街のことなど彼女の頭には無かった。彼女の不安はただ一点、『勇斗の無事』だけだ。

「どうしよう……なんか、負けちゃいそうだよ………」

不安と祈りが心を支配している。何もしてあげられない自分がとても悔しかった。

“お父さん、お母さん……私、どうしたらいいの………?”

膝をつき、瞳を閉じて、両親との別れ際にもらった十字架のペンダントを両手で握りしめ、ただひたすらに祈り続ける。
そんな純粋な祈りが、夜空に小さな奇跡を呼び起こした。
白銀のペンダントに埋め込まれた一つの石が突如光を発し始めたのだ。その光は宇美を優しく包み込んだ。
そしてそれに気づいて目を開けた宇美の頭の中に、ある『声』が響く。

『“友を助けたい”、その祈りは汝の本心か?』
「え? この声………」

無表情な、しかし生物的な声。

『その祈りは本心か?』
「誰?! 誰なの?!」

周りを見ても人のいる気配はない。

『我が名は『ヴィクトール』、星を守護する者なり。』
「あなたも………精霊さんなの?」
『そうだ』

宇美の恐る恐るの問いかけを、声はハッキリと肯定した。

「じゃあ、勇斗くんを助けて! お願い!」
『了解! その祈り、願い、確かに受け取った!!』

『ヴィクトール』と名乗る声がそう叫ぶと同時に光は一旦弱まり、次の瞬間天へと昇っていった。



同時刻。日本上空。
つい先月打ち上げられたばかりのスペースシャトルの乗組員全員は、奇妙な声を聞いたという。
『申し訳ないが、この機体をお借りする』と。
そしてその直後光に包まれた彼らは、いつの間にか地上にいた。



光が天に昇って数秒後、空から一筋の流星が舞い落ちた。雲を突き抜け、今戦闘の行われている場所を一直線に目指す。

「あれは?!」

上空から接近する光に気付いた両者はその方向を見上げた。接近する光は地面に激突する寸前で突如方向を変え、近くのビルの上に降り立った。
その旋回によって巻き起こされた風と衝撃に気をとられたのか、敵のワイヤーが一瞬緩む。マグナセイバーはその隙を逃さず、ワイヤーを引きちぎって脱出した。

「グォォォォォォゥ………」

せっかくの獲物を取り逃がしたことで、敵は低く唸った。

「我が同胞の受けた痛みは、数倍にして返すのが私の流儀。」

煌々と輝いていた光が失せると、その中からは白銀のボディを持つロボットが現れる。それの持つ雰囲気は、例えるならばまるで『騎士』のようであった。

「何モンだテメェは!!」

近くのビルの屋上から様子を窺っていたクロコダイルが大声を上げる。

「フン、悪党に名乗る名など無い。」
「ンだとぉ、カッコつけやがって! ムカつくんだよ、テメェみてぇなスカした野郎は! オイ、アイツら纏めて殺っちまえ!!」

怒鳴りつけるように指示を出すクロコダイル。それを受けて建設機の化け物もさっきと同じ戦法で攻撃を再開する。

「フッ、『バカの一つ覚え』もいいところだな。」
「ヴィクトール!!」

呼ばれて振り返ると、彼にとってよく知った友人が目に映った。

「久しぶりだな、マグナセイバー。以前の大戦以来か。」
「つもる話は後だ、今はヤツを!」

懐かしさを噛み締めるような口調の彼を窘めるように言うマグナセイバー。

「わかっている。」
「行くぞ!!」

そして彼らは、改めて迎撃体制に入った。



To be continued