勇者神想 マグナセイバー Mission 2 『煌めく祈り
「ふぅん……じゃ、マグナにも『仲間』がいるのか。」
車の運転席に座る少年は、自分の左手首に着けた腕時計のようなものと正面の景色とを交互に見ながら頭の中の疑問を口にした。
「そうだ。私たち精霊はこの世界に存在するいろいろな『
運転席の少年、もとい紅焔寺勇斗は、話を聞く度に浮かぶ疑問を次々と車、つまり彼の精霊である『マグナ』へと投げかける。
「へぇ〜。じゃぁ、どうすればマグナみたいに復活できるわけ?」
その言葉に、勇斗はもう一度左手首の腕輪を見る。
「しかしこの世界で活動するためには、一時的に魂を宿す『器』を必要とするのだ。」
勇斗は相変わらず疑問が絶えないようで、さっきから出てくる言葉は質問ばかりである。受け答えるマグナも、慣れない運転と説明の同時進行に苦しんでいるようだ。
「あれは私のサポートメカ『セイバーローダー』だ。普段はこちらとは違う空間内に格納されている。」
一応納得したような返事をしたので、マグナは少し安心した。しかし育ち盛りの好奇心を満足させるには足りなかったらしく、またすぐに元の状況に逆戻りする。
「じゃ、あの変な青い鳥みたいなヤツは?」
そしてその後も一方的な問答を繰り返しながら、自宅へ向けてその速度を速めた。
「着いたぞ、勇斗。」
間の抜けた大あくびをしながら身体を伸ばし、目をこする勇斗。周りを見渡しているその様子から察するに、まだ自分の置かれている状況が把握できていないようだ。
「あ、ホントだぁ〜……」
まだ意識がハッキリしない勇斗は、まるではいずるようにマグナから出てくる。
「それじゃ早く家に……」
そう言って勇斗が歩き出したときだった。
「待ってくれ、勇斗。」
唐突な質問に目を丸くする勇斗。質問の意味があまり分かってないようで、少し間が空く。
「『どう』って、何が?」
どうやら身を隠す場所のことが聞きたいらしい。確かにこの車は東大寺の近くの駐車場にたまたまあった、というだけのシロモノだ。それがこんなところにあると知れれば、騒ぎが起こるのは目に見えている。
「なぁ、何か『小さなものになる』とか出来ないか? それがムリならこのコマンダーの中に入るとか………ダメ?」
ダメもとで言ってみたことなだけに、言った本人はびっくりしている。だが、マグナの方はそんなことはお構いなしのようだ。
「基本的に私たちに出来ないことはない。 ……ただし、それに見合うだけのマスターの力があってのことだがな。」
すると突然マグナの体、もとい赤い車が光を発し、小さな赤い光の球に姿を変えた。まるで車に宿る前の姿のようだ。そして勇斗の左手首の『マグナコマンダー』に吸い込まれていった。
「え? え? ど、どうなったんだ??」
コマンダーをよく見ると、確かにカバーの上部に金の枠に囲まれた赤いマークの入った部分が赤く光っていた。恐らくそれがマグナの存在の証なのだろう。
「うん、分かったよ。それじゃ、今日はこれでおやすみ。」
勇斗がそう声をかけると、マークから光が消えた。
「ゆ、勇斗くん……い、今のって……」
勇斗は内心かなり焦っていた。もしこのことを追求されたら、自分には上手い言い訳は思いつかない。
「今のってもしかして……」
どうやってこの場を乗り切るか。そんなことを勇斗が一生懸命考えていたときだった。
『ん、どうした、勇斗?』
突然のマグナの声に、異なるリアクションで驚く二人。
「今の声は……?」
笑ってごまかそうと思ったが、もう遅かった。
『何かあったのか!? はぁっ!』
すると赤い光と共に車形態のマグナがその場に現れる。もうこうなっては言い逃れは出来ない。
「…………」
驚きのあまり声も出ない宇美と、額に手を当てて呆れたようにため息をつく勇斗。コマンダーの中に居たせいで状況を見ていなかったマグナには、何が起きているのか全く理解できず、目のかわりとなるライトを不思議そうに明滅させるのみだった。
漆黒の空間に話す声が響く。視界はほぼゼロに近く、その姿は確認できない。
「それにしても、ずいぶんあっさりと殺られたモンだねぇ。『レイヴン』?」
聞く限りでは、声の主は3人。荒々しく野太い声の男、『レイヴン』と呼ばれた堅苦しい口調の男に、軽い感じの口調の女性。3人は光と共に映像を映し出している水晶球のようなものを囲みお互いに言葉を交わしている。
「『小手調べ』たァよく言ったモンだぜ。結局は負けたんじゃねェか。」
『クロコダイル』と呼ばれた野太い声の主は、鼻で笑うと、自信ありげに言った。
「ヘッ! 俺はテメェとは違うぜ。あの程度の野郎に、俺の邪心獣が負けるかよ!」
嬉々とした声を出す『クロコダイル』に、『レイヴン』吐き捨てるように言う。
「フン、目ざといヤツめ。」
二人にとってはこれもいつものことらしいが、暗闇の中、二人はお互いを睨み付けた。
「およしよ、二人とも。」
女声の名は『アバローネ』と言うらしい。とそこで音を立てて映像が消える。3人ははっと我に返りその方向を見た。
「チッ、気分が悪ィ。俺はいくぜ。」
黙りはゴメンだ、と言わんばかりのクロコダイルは、その場に背を向けて立ち去る。それと時を同じくし、他の二人も無言でその場を去っていった。そしてあとには静寂だけが残った。
扉を開けて勇斗が出てくる。しかしその足取りは重い。
「大丈夫、勇斗くん?」
勇斗は少しガックリ来た。なんとなくどこかズレているのは知っているが、この発言にはため息も出る。
「いや、間違ってない気もするけど、まぁ平気……とりあえず、教室戻ろう…」
そして二人は、教室へ続く廊下を並んで歩いて行った。
「お前があの『赤いヤツ』と一緒にいた人間か。」
聞き覚えのない声に振り向いた勇斗は、奇妙な光景を目にする。
「……だったら、どうだって言うんだよ。」
歴然とした体格差と全身から溢れる殺気に気押されながらも、勇斗はありったけの気持ちで虚勢を張った。が、当の男はお構いなしに続ける。
「そうか……… なら話は早ぇ!! 出ろ、
途端に口調を荒くした男は、どこからともなく黒い光球を取り出し、それを宙に向かって放り投げた。そして鉛直に投げ出された黒球は、何処かへと飛び去っていった。
「な、何、今の……?」
そう言うのと同時に、付近の街に突如巨大な怪物が現れ破壊活動を開始した。
「え?!」
たった今目の前で起きた光景に、勇斗は我が目を疑った。どう考えてもあの男は敵だと思った。しかしその男は、まるで人間のように見えた。大体のいきさつは、先日に聞いてはいたが、こんなことは聞いていない。
「勇斗くん!!」
訳も分からず立ちつくしていた勇斗は、宇美の呼びかけではっと我に返った。
「そ、そうだ。マグナ!」
思い出したように左手首のコマンダーに声をかけて、パートナーを呼び出す。
『どうした、勇斗!?』
先日と同じようにマグナが赤い光と共に現れる。
「乗れ、勇斗!」
出現と同時に勢いよく運転席のドアを開く。そこに飛び込もうと足を踏み出したが、ふと思い出したようにもう一度校庭を振り返る。しかしそこには先程までいた『あの男』はいなかった。
「どうした?」
マグナが心配そうに言うので、勇斗は自分の不安を払拭するように答えた。
「何があるか分からないから、宇美はここに居てくれ。」
不安げな表情の宇美にそう言うと、マグナの運転席に乗り込み勇斗は戦いの舞台となる街へと飛び出していった。
「くっ、さすがに大きいな。勇斗!」
そう言うと左腕のコマンダーを空に向けて掲げる。
「バ――――ン、アァァァァップ!」
大きく息を吸い込んでキーワードを叫ぶと、それに呼応したマグナは大きくジャンプした。
「炎神合体! マグナッセイッバァァァァッ!!」
立ち上がった紅き巨人は雄々しく名乗りを上げる。
「行くぞっ!」
そう言って巨人、もといマグナセイバーは目の前の敵へと攻撃を開始した。
巨大な2体が戦っているすぐ傍のビルの屋上に彼は居た。先刻勇斗に声をかけた男、そして闇の中でしていた声の一つ。そう、この男こそが敵の一人、『クロコダイル』なのだ。
「随分と楽しそうだな?」
その後ろから声がかかる。冷徹で、かつ無表情な声の主は『レイヴン』だ。
「おうよ、てめぇのとは『格』が違うからな。用が無ェんならとっとと失せな。」
そう冷たく言い放つと、レイヴンの姿は陽炎のように掻き消えていった。
「ケッ、余計なお世話だ。」
憎々しげに呟くクロコダイルの顔は嫌悪に満ちていた。
意気込んで臨んだ戦いだったが、相手の予期せぬ戦法にマグナセイバーは苦戦を強いられていた。
「腕が邪魔で近づけない!」
その敵は右腕がクレーン、左腕がショベルという姿をしており、その両腕を振り回して接近できないようにしてきた。そして間合いが離れると頭部に付いたライトのような部分からビームを放ち、じわじわとこちらの装甲を削ってくる。主に接近戦を得意とし、火力の高い遠距離武器の少ないマグナセイバーでは、このまま長期戦になれば間違いなく不利だ。
「何とかしてヤツの懐に入れれば………」
距離をとれば敵の思うツボ、しかし下手に間合いを詰めればあのアームで滅多打ちにされるだろう。これでは対抗しようにも手段がない。
「ぐっ、ぐおぁぁぁぁッ!!」
異空間にいる勇斗は電撃の影響は受けない。しかしここで自分達が負けたら街は壊滅してしまうだろう。そんな光景が一瞬目に浮かんだ勇斗は、どうにも出来ない自分がとても歯がゆい、そんな気持ちになった。
「あのロボットには勇斗くんが………」
破壊された街のことなど彼女の頭には無かった。彼女の不安はただ一点、『勇斗の無事』だけだ。
「どうしよう……なんか、負けちゃいそうだよ………」
不安と祈りが心を支配している。何もしてあげられない自分がとても悔しかった。
“お父さん、お母さん……私、どうしたらいいの………?”
膝をつき、瞳を閉じて、両親との別れ際にもらった十字架のペンダントを両手で握りしめ、ただひたすらに祈り続ける。
『“友を助けたい”、その祈りは汝の本心か?』
無表情な、しかし生物的な声。
『その祈りは本心か?』
周りを見ても人のいる気配はない。
『我が名は『ヴィクトール』、星を守護する者なり。』
宇美の恐る恐るの問いかけを、声はハッキリと肯定した。
「じゃあ、勇斗くんを助けて! お願い!」
『ヴィクトール』と名乗る声がそう叫ぶと同時に光は一旦弱まり、次の瞬間天へと昇っていった。
「あれは?!」
上空から接近する光に気付いた両者はその方向を見上げた。接近する光は地面に激突する寸前で突如方向を変え、近くのビルの上に降り立った。
「グォォォォォォゥ………」
せっかくの獲物を取り逃がしたことで、敵は低く唸った。
「我が同胞の受けた痛みは、数倍にして返すのが私の流儀。」
煌々と輝いていた光が失せると、その中からは白銀のボディを持つロボットが現れる。それの持つ雰囲気は、例えるならばまるで『騎士』のようであった。
「何モンだテメェは!!」
近くのビルの屋上から様子を窺っていたクロコダイルが大声を上げる。
「フン、悪党に名乗る名など無い。」
怒鳴りつけるように指示を出すクロコダイル。それを受けて建設機の化け物もさっきと同じ戦法で攻撃を再開する。
「フッ、『バカの一つ覚え』もいいところだな。」
呼ばれて振り返ると、彼にとってよく知った友人が目に映った。
「久しぶりだな、マグナセイバー。以前の大戦以来か。」
懐かしさを噛み締めるような口調の彼を窘めるように言うマグナセイバー。
「わかっている。」
そして彼らは、改めて迎撃体制に入った。
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