勇者神想
マグナセイバー
Mission 3 『煌めく祈り 惑星ほしを護る者』 〜後編〜








日本国内某所。ここ、小春日町では現在怪物と二体の巨大なロボットによる激しい戦闘が行われていた。

「であぁっ!!」

巨大ロボットのうちの一体、赤い方が剣を振るうと、怪物も長い腕を使ってそれを薙ぎ払う。そしてもう一方のロボット、こちらは前者に比べやや小さめだが、銀色の方もボウガンのような武器によって攻撃を試みていた。

「グォォォオゥ!」

怨恨の言葉とも苦痛の叫びともとれる咆吼をあげながら暴れまわる怪物。ロボット達も懸命に攻撃を繰り返してはいたが、怪物を倒すには至っていなかった。

「くっ、ダメだ、装甲が厚すぎる!」

口惜しげに赤いロボット、『マグナセイバー』は言う。それを受けて銀のロボット、『ヴィクトール』は呟くように言った。

「どうやら……僕が『このまま』で勝てる相手じゃなさそうだな。」
「確かに、今のままでヤツの装甲を崩すのは難しいだろう。」

二人はそう言うと互いに頷いた。

「何のことだ?」

マグナセイバーの中の勇斗は、二人が何のことを話しているのか分からず訊ねる。

「すぐに分かるさ。」

ヴィクトールはそう言うと、「しばらく任せる。」と言って、飛んでいってしまった。

「え? どこ行ったんだ?」
「彼のパートナーのところだ。」

勇斗はヴィクトールの飛んでいった方を見た。

「あっちって、もしかして……?」
「来るぞ!」
「えっ? ぉわっ!?」

突如再開される戦闘。結局どういう事か分からないまま、勇斗の意識は戦闘へと引き戻された。




小春日町内にある小学校、『麻帆呂まほろ小学校』。
戦闘を離脱したヴィクトールはここのグラウンドに来ていた。

「宇美、僕に力を貸して欲しい。」

片膝をついた彼の目線の先には、つい先刻彼のパートナーとなった少女、星野宇美が居た。彼の言っている意味が分からず、少し戸惑っているようだ。

「宇美が協力してくれれば、僕は『合体』することが出来るんだ。」
「『合体』………?」

彼らは今だからこそロボットのような姿をしているが、元はこの地球に存在する様々な要素を司る『精霊』なのだ。そして彼らは生命体の中の『感情』、『心』を力の源として、更なる力を得ることが出来る。
つまり今ヴィクトールが言っているのはそう言うことなのだ。

「ん……よく分かんないけど、どうすればいいのかな?」

完全に理解してはいないが、やらなければいけないらしい。雰囲気からそう察した宇美は、逆にヴィクトールに問いかける。

「君のペンダントを貸してくれないか。」
「え? これ?」

母からもらった、そしてヴィクトールの眠っていた石のついたペンダント。言われるままにペンダントを手渡すと、彼の掌の上でそれはみるまに姿形を変えていった。装飾が増えて前より少し大きめになり、中央には小さな銀の星が描かれている。

「僕と宇美の『契約』の証、『スターアミュレット』だ。」
「スター…………アミュレット?」
「ああ、それを空へ掲げて唱えてくれ。『スターライトクロス』と。」
「…………」

渡されたアミュレットを見つめる宇美。だがすぐに顔を上げ、決意に満ちた声で言った。

「……わかった。」
「よし、行こう!」
「うん!」

自分も勇斗の力になれる。そのことが、宇美にはとても嬉しかった。
顔いっぱいに笑顔を浮かべ、手の中のそれを空に向ける。そして精一杯叫んだ。

「『スターライト・クロ――ス』!!」




「くっ!」

ヴィクトールが戦線を離脱し、再度一人で戦うマグナセイバー。だがやはり最初と同じように苦戦していた。

「ヴィクトールはまだなのか?!」

なかなか戻らない『仲間』に不安を募らせる勇斗。そんな彼にマグナセイバーは励ますように言う。

「もう少しだ。きっと来る!」

しかしそう言ったはいいが、彼も全く不安がないといえば嘘になるだろう。
それでも仲間を信じるため、その気持ちを振り払うように彼はまた剣を振るう。



そして戦い続けること五分、ついにその時は来た。
学校の校庭から光の柱が上がった。
そしてその光が空けた雲の切れ間から、こちらに迫る物が見える。遙か上空、成層圏の外から摩擦の炎をあげこちらに降りてくる。大気圏を抜けると『それ』は五つのパーツに分解した。
地上から飛び上がったヴィクトールが広がったパーツの中央に位置すると、上下逆さまになって中央から腰を割き下半身を左右に開いて両腕に。腕は肩が頭部のあったあたりで合わさり、肘から先はその左右に位置してサイドアーマーとなる。
変形が終わるとパーツがヴィクトールへ近づき、両足、肩鎧、そして胴体前面から背中までを覆う装甲として装着された。
頭部が飛び出してマスクが閉じると、目に光が灯る。
そして、白銀の巨人が天空より降臨する。

「天神合体! ヴィク、トリッ、アァァァァスッ!!」

新たに生まれた巨人はさっきまで居た学校のグラウンドに再度降り立ち、自分の『主』をその中へと招き入れた。
当の『主』、星野宇美は何が起こったのか全く理解できていないようで、ただオロオロとしている。

「宇美、行くよ。」
「えっ? あ、あの、何がどうなってるのか……」
「今は説明してる時間がない。説明はあとでちゃんとするから、とにかく今は『アイツ』を倒すことに専念するんだ。」
「う……うん。」

相変わらず混乱している宇美は、ヴィクトリアスのその勢いに押されてつい頷いてしまう。
そして彼らも目の前の『敵』を倒すべく、戦場へと赴いていった。




「数が増えたか………」

薄暗い西洋風の城の中の、真っ暗な一室に声が響く。冷徹でトーンの低い声の主はレイヴンだ。
彼も自分の住処へと戻った後、クロコダイルの邪心獣と勇斗達の戦いの映像を、自室の窓辺で眺めていた。と、そこへ女性の声が掛かる。

「気になるの?」
「…………お前か。」

声を掛けたのはアバローネ。

「そんなに冷たくしないでちょうだいよ。別に何かしようってワケじゃないんだからぁ。」
「お前が来るとろくな事がない。」
「そんな言いぐさ無いんじゃなぁい?」
「事実だろう。」

レイヴンは冷たくそう言い放つ。彼のその口調には相手への優しさなど微塵も感じられない。
もっとも、この場にいないクロコダイルも含め、彼らの間には昔から『信頼』などというモノは存在していない。あるのは、自分達の創造主への絶対的な『忠誠心』のみだ。

「失礼しちゃうわね。折角イイ『情報』持ってきてあげたのに。」
「……『情報』だと?」
「そうよ。例の『アレ』について。」

その言葉を聞いた途端、レイヴンの目の色が変わる。

「まさか……見つけたのか?!」
「まだそれらしい場所が分かっただけだけどね。」

しかしとっさに立ち上がったレイヴンも、はっと思いとどまる。

「どうしたのぉ?」

相変わらずのアバローネにレイヴンは問いかけた。

「………何故その情報を俺に?」
「あたしに行かせる気? あたしが肉体労働するの嫌いだって知ってるでしょ?」
「俺が行って確認してこい、ということか?」
「そゆこと。飲み込み早いじゃない、どこかの誰かさんと違って。」

ケラケラと笑うアバローネに、レイヴンは冷たい視線を向ける。
簡単に言うと、用は『使いっ走りをしろ』ということだ。

「フン、俺にはお前に使われる理由など無い。」

レイヴンは背を向けてあっさり断る。しかし彼女の方も付け加えるように言った。

「じゃぁ、『あの女』が関わってる場所だとしたら………?」
「何?」

その言葉でレイヴンの足が止まる。

「そう、十数年前にアンタを裏切った『あの女』よ。探してたんでしょ?」
「知っているのか?!」

レイヴンはそう叫ぶと、いきなりアバローネの腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと! 痛いじゃないのよ!!」
「知っているのかと聞いているのだ!!」

問いつめるレイヴンの顔は、先程の冷徹な顔とはうってかわって感情をむき出しにしている。

「……っ、人の話は最後まで聞きなさい!!」
「?! ………すまん。」

彼女の声で我に返ったレイヴンは、少しの間をおいて再度口を開いた。

「………聞かせてもらおうか。」
「ふふっ、そうこなくっちゃ。」

アバローネはそう言うと、怪しい笑みを浮かべながら未だ開け放たれたままだった扉を閉めた。





相変わらず戦闘が行われている市街。
しかし合体を終えたヴィクトリアスの参戦によってその戦況は幾分勇者達に傾きはじめていた。

「はぁっ!」

散弾銃のような長い銃・スターリットライフルで敵の注意を引き、その隙をついてマグナセイバーの接近しての斬撃。息の合った連携攻撃が繰り広げられている。
だが敵も存外しぶとかった。もう既に十数回も攻撃を浴びせているにもかかわらず、未だ倒れる気配はない。
そんな中ヴィクトリアスは何かのタイミングを見計らっていた。

「そろそろいいか……マグナセイバー!!」

これまで無言で支援を行っていたヴィクトリアスが、ふいにマグナセイバーに声をかける。

「どうした?」
「私が必殺技でヤツの装甲を叩く。しかしこの技は隙が大きいから、その間ヤツを引きつけておいてくれ。」
「分かった……おぉぉっ!」

背のバーニアを噴かし、敵へと向かっていくマグナセイバー。
その背中を見送りながら、ヴィクトリアスは天を仰ぐ。
日は既に暮れ、眼前には夜の闇が広がっている。そして、その中に散らばる星々が輝き、彼の身体を淡く照らしている。

「ここは星が綺麗だな……」

そう呟くと、手に持った銃を正面の、未だ暴れ続ける怪物に向けて照準する。

「星々の光よ、私に力を貸してくれ……」

彼の言葉と共に、背中の一対のスタビライザーが付け根から先端にかけて割れ、まるで鳥の翼のように広がる。

「え、え、え……?」

突然の変化に、何が始まるのか分からない宇美はただオロオロとするばかり。
それなのに、穏やかな彼の声はただ一言だけで宇美の中にある不安を拭い去ってしまう。

「大丈夫だよ、宇美……気持ちを集中させるんだ。」
「………うん、分かった。」

自分でも何故だか分からないけれど、宇美は何故か出逢ったばかりの彼に懐かしい暖かさのようなモノを感じたような気がした。
開かれた背の翼は小さく羽ばたき、その羽根の一枚一枚から少しずつ、自身に降り注ぐ小さな光たちを集め始める。その様子はまるで、翼自身が発光しているかのようだ。

「……チャージ完了!」

両の足を地に踏ん張り、銃口を固定させる。

「『レイ・マキシマ』……発射ファイア!」

声と共に思い切りトリガーを引くと、翼から取り込んだ星たちの光が奔流となって銃口から溢れ出す。渦のように噴きだしたエネルギーは敵に向けて一直線に突き進んでいった。

「マグナセイバー、今だ!」
「了解!」

それまで力比べのように相手と競り合っていたマグナセイバーが、合図と共に横に飛び退く。
その横をすり抜けるように銀の閃光が駆け抜け、敵の胸部を捉える。
が、やはりそれだけではその装甲は砕けない。敵も負けじと脚に力を込め、自慢の装甲でそれに逆らっている。
そうして暫くの応酬が続くかと思われた矢先、その兆しは訪れた。
堅固を誇っていた敵の装甲に、僅かずつヒビが入り始めたのだ。
その亀裂は徐々に深まり、ついにはその装甲を粉砕する。
装甲を突き破った閃光はそのまま敵の体内へと入り込むが、出口となる背中にある装甲に阻まれて行く先を失い、敵の全身を駆けめぐっていく。
内部をのたうち回るエネルギーはやがて装甲の隙間から噴きだし、それによって全身に穴をあけられた敵は、耐えきれず地に伏し、そして爆散した。


「スッゲェ……」

マグナセイバーの内部からその様子を見ていた勇斗も、閃光の威力に感嘆の溜息を漏らす。
だが、マグナセイバーはまた違うことに感心していた。

「流石はヴィクトリアスだな。これまでの攻撃は全てこのためのものだったのか。」
「どういう事だ?」
「思い返してみれば、彼の射撃は常に敵の胸部を捉えていた。つまり、最大の一撃が最高の威力を発揮するように、一点の装甲を集中的に削っていたんだ。」

マグナセイバーは、銃を下げて戦闘態勢をといた銀の騎士ヴィクトリアスを見る。
確かに彼は『その瞬間』を狙って戦っていた。だが、それでも言葉で言うほど簡単ではないこの戦法を彼は完璧に成し遂げた。その射撃能力はまさに脅威と言っても過言ではないだろう。
そして勇斗にも相棒の言わんとすることは通じたようで、ヴィクトリアスのその実力に冷や汗をたらしつつも、内心では安堵していた。
なぜなら銀の鎧を纏う彼は、自分達の『味方』なのだから。




同じ頃ヴィクトリアスの中の宇美は足に力が入らずその場にへたり込んでいた。

「何だか、すっごい疲れた気分だね。」
「大丈夫か? やはりいきなりであの技は無理があったか……」

ヴィクトリアスも心配そうに言う。

「うん、大丈夫〜……ぅにゅ。」

そう言うと宇美は後ろにぽてりと倒れた。しかもそれから全く動かない。

「宇美!? どうした、宇美!?」

焦ったヴィクトリアスは自分の中に居る宇美に声をかけ続けた。しかしその声はすぐに溜息へと変わる。

「すぅ……すぅ………」

戦闘が終わった安堵感からか、宇美はその場で眠り込んでしまったのだ。その微笑ましい様子を見ながらヴィクトリアスも心の中で軽く苦笑いをする。

「このままここにいては目立つ。ひとまずこの場を離れよう。」
「そうだな。」

マグナセイバーの提案にヴィクトリアスも頷く。そして二人の勇者はその場を後にした。




「フフ、やっぱりね……」

先程までレイヴンのいた部屋で、アバローネは事の終わりを見つめていた。
彼女の見つめる水晶球に映るのは、マグナセイバーたちによって邪心獣が倒される様子と、その光景に驚愕するクロコダイルの姿。
クスリと嗤うと、水晶球の表面をなぞるように指を這わせる。

「ホントに、おバカさんなんだから……」

溜息のような言葉を吐き出すと、水晶球を乗せた掌に僅かに力を込める。
物理的な力は一切かけていない。それなのに、掌の上の水晶はあっけなく砕け散った。

「ウフフ……あの子たち、どれだけ私を楽しませてくれるかしら……」

顔にかかる長い髪をふわりと梳き上げ、妖艶な笑みを浮かべながらも、彼女はその部屋をあとにした。






「うう〜ん、あれぇ………」
「目、覚めたか?」

目をこすりながら体を起こした宇美は、自分の置かれている状況がよく分かっていないらしく首をかしげた。ベッドのすぐ横には勇斗がおり、自分の首には今までとは違うペンダントがかかっている。
しばしの思案の後、宇美はつい先程の不可思議な事件のことを思い出した。

「あ、そっか……あのあと私、寝ちゃったんだ……… そうだ、ヴィクトールは?」

宇美があたりを見渡すと、突然胸元のあたりから声が聞こえた。

『僕ならここだよ、宇美。』

戦闘を終え勇斗の家に戻ってきた後、マグナとヴィクトールはそれぞれの主の持つアクセサリーの中に身を隠したのだ。

「この中にいるの?」

ヴィクトールが入っているとおぼしきペンダントを、手のひらでちょっと持ち上げてみる。

『うん、マグナの真似をしてみたんだけど、どうかな?』
「うーん、いいんじゃないかな? コレも前よりちょっと大きいけど、別に気になる程でもないし。」

宇美は特に気にした様子もなく笑顔で言った。

「宇美って………意外に順応性高いな。」

勇斗の言うとおり、余り驚いた様子を見せない宇美。ヴィクトールに聞いたところによると『事情はまだ何も話していない』と言っていたが、存外あっけらかんとしている。

「はぁ……」
「???」

半ば呆れたようにため息をつく勇斗。だが宇美にはその意味するところが分からず、頭の上に幾つもの『?』を浮かべるだけだった。



そしてその日の夜は、なかなか上手く理解してくれない宇美に事の次第を説明するヴィクトールのため息が何度も聞こえたという。



To be continued