勇者神想 マグナセイバー Mission 3 『煌めく祈り
「であぁっ!!」
巨大ロボットのうちの一体、赤い方が剣を振るうと、怪物も長い腕を使ってそれを薙ぎ払う。そしてもう一方のロボット、こちらは前者に比べやや小さめだが、銀色の方もボウガンのような武器によって攻撃を試みていた。
「グォォォオゥ!」
怨恨の言葉とも苦痛の叫びともとれる咆吼をあげながら暴れまわる怪物。ロボット達も懸命に攻撃を繰り返してはいたが、怪物を倒すには至っていなかった。
「くっ、ダメだ、装甲が厚すぎる!」
口惜しげに赤いロボット、『マグナセイバー』は言う。それを受けて銀のロボット、『ヴィクトール』は呟くように言った。
「どうやら……僕が『このまま』で勝てる相手じゃなさそうだな。」
二人はそう言うと互いに頷いた。
「何のことだ?」
マグナセイバーの中の勇斗は、二人が何のことを話しているのか分からず訊ねる。
「すぐに分かるさ。」
ヴィクトールはそう言うと、「しばらく任せる。」と言って、飛んでいってしまった。
「え? どこ行ったんだ?」
勇斗はヴィクトールの飛んでいった方を見た。
「あっちって、もしかして……?」
突如再開される戦闘。結局どういう事か分からないまま、勇斗の意識は戦闘へと引き戻された。
「宇美、僕に力を貸して欲しい。」
片膝をついた彼の目線の先には、つい先刻彼のパートナーとなった少女、星野宇美が居た。彼の言っている意味が分からず、少し戸惑っているようだ。
「宇美が協力してくれれば、僕は『合体』することが出来るんだ。」
彼らは今だからこそロボットのような姿をしているが、元はこの地球に存在する様々な要素を司る『精霊』なのだ。そして彼らは生命体の中の『感情』、『心』を力の源として、更なる力を得ることが出来る。
「ん……よく分かんないけど、どうすればいいのかな?」
完全に理解してはいないが、やらなければいけないらしい。雰囲気からそう察した宇美は、逆にヴィクトールに問いかける。
「君のペンダントを貸してくれないか。」
母からもらった、そしてヴィクトールの眠っていた石のついたペンダント。言われるままにペンダントを手渡すと、彼の掌の上でそれはみるまに姿形を変えていった。装飾が増えて前より少し大きめになり、中央には小さな銀の星が描かれている。
「僕と宇美の『契約』の証、『スターアミュレット』だ。」
渡されたアミュレットを見つめる宇美。だがすぐに顔を上げ、決意に満ちた声で言った。
「……わかった。」
自分も勇斗の力になれる。そのことが、宇美にはとても嬉しかった。
「『スターライト・クロ――ス』!!」
ヴィクトールが戦線を離脱し、再度一人で戦うマグナセイバー。だがやはり最初と同じように苦戦していた。
「ヴィクトールはまだなのか?!」
なかなか戻らない『仲間』に不安を募らせる勇斗。そんな彼にマグナセイバーは励ますように言う。
「もう少しだ。きっと来る!」
しかしそう言ったはいいが、彼も全く不安がないといえば嘘になるだろう。
「天神合体! ヴィク、トリッ、アァァァァスッ!!」
新たに生まれた巨人はさっきまで居た学校のグラウンドに再度降り立ち、自分の『主』をその中へと招き入れた。
「宇美、行くよ。」
相変わらず混乱している宇美は、ヴィクトリアスのその勢いに押されてつい頷いてしまう。
薄暗い西洋風の城の中の、真っ暗な一室に声が響く。冷徹でトーンの低い声の主はレイヴンだ。
「気になるの?」
声を掛けたのはアバローネ。
「そんなに冷たくしないでちょうだいよ。別に何かしようってワケじゃないんだからぁ。」
レイヴンは冷たくそう言い放つ。彼のその口調には相手への優しさなど微塵も感じられない。
「失礼しちゃうわね。折角イイ『情報』持ってきてあげたのに。」
その言葉を聞いた途端、レイヴンの目の色が変わる。
「まさか……見つけたのか?!」
しかしとっさに立ち上がったレイヴンも、はっと思いとどまる。
「どうしたのぉ?」
相変わらずのアバローネにレイヴンは問いかけた。
「………何故その情報を俺に?」
ケラケラと笑うアバローネに、レイヴンは冷たい視線を向ける。
「フン、俺にはお前に使われる理由など無い。」
レイヴンは背を向けてあっさり断る。しかし彼女の方も付け加えるように言った。
「じゃぁ、『あの女』が関わってる場所だとしたら………?」
その言葉でレイヴンの足が止まる。
「そう、十数年前にアンタを裏切った『あの女』よ。探してたんでしょ?」
レイヴンはそう叫ぶと、いきなりアバローネの腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと! 痛いじゃないのよ!!」
問いつめるレイヴンの顔は、先程の冷徹な顔とはうってかわって感情をむき出しにしている。
「……っ、人の話は最後まで聞きなさい!!」
彼女の声で我に返ったレイヴンは、少しの間をおいて再度口を開いた。
「………聞かせてもらおうか。」
アバローネはそう言うと、怪しい笑みを浮かべながら未だ開け放たれたままだった扉を閉めた。
「はぁっ!」
散弾銃のような長い銃・スターリットライフルで敵の注意を引き、その隙をついてマグナセイバーの接近しての斬撃。息の合った連携攻撃が繰り広げられている。
「そろそろいいか……マグナセイバー!!」
これまで無言で支援を行っていたヴィクトリアスが、ふいにマグナセイバーに声をかける。
「どうした?」
背のバーニアを噴かし、敵へと向かっていくマグナセイバー。
「ここは星が綺麗だな……」
そう呟くと、手に持った銃を正面の、未だ暴れ続ける怪物に向けて照準する。
「星々の光よ、私に力を貸してくれ……」
彼の言葉と共に、背中の一対のスタビライザーが付け根から先端にかけて割れ、まるで鳥の翼のように広がる。
「え、え、え……?」
突然の変化に、何が始まるのか分からない宇美はただオロオロとするばかり。
「大丈夫だよ、宇美……気持ちを集中させるんだ。」
自分でも何故だか分からないけれど、宇美は何故か出逢ったばかりの彼に懐かしい暖かさのようなモノを感じたような気がした。
「……チャージ完了!」
両の足を地に踏ん張り、銃口を固定させる。
「『レイ・マキシマ』……
声と共に思い切りトリガーを引くと、翼から取り込んだ星たちの光が奔流となって銃口から溢れ出す。渦のように噴きだしたエネルギーは敵に向けて一直線に突き進んでいった。
「マグナセイバー、今だ!」
それまで力比べのように相手と競り合っていたマグナセイバーが、合図と共に横に飛び退く。
マグナセイバーの内部からその様子を見ていた勇斗も、閃光の威力に感嘆の溜息を漏らす。
「流石はヴィクトリアスだな。これまでの攻撃は全てこのためのものだったのか。」
マグナセイバーは、銃を下げて戦闘態勢をといた
「何だか、すっごい疲れた気分だね。」
ヴィクトリアスも心配そうに言う。
「うん、大丈夫〜……ぅにゅ。」
そう言うと宇美は後ろにぽてりと倒れた。しかもそれから全く動かない。
「宇美!? どうした、宇美!?」
焦ったヴィクトリアスは自分の中に居る宇美に声をかけ続けた。しかしその声はすぐに溜息へと変わる。
「すぅ……すぅ………」
戦闘が終わった安堵感からか、宇美はその場で眠り込んでしまったのだ。その微笑ましい様子を見ながらヴィクトリアスも心の中で軽く苦笑いをする。
「このままここにいては目立つ。ひとまずこの場を離れよう。」
マグナセイバーの提案にヴィクトリアスも頷く。そして二人の勇者はその場を後にした。
先程までレイヴンのいた部屋で、アバローネは事の終わりを見つめていた。
「ホントに、おバカさんなんだから……」
溜息のような言葉を吐き出すと、水晶球を乗せた掌に僅かに力を込める。
「ウフフ……あの子たち、どれだけ私を楽しませてくれるかしら……」
顔にかかる長い髪をふわりと梳き上げ、妖艶な笑みを浮かべながらも、彼女はその部屋をあとにした。
目をこすりながら体を起こした宇美は、自分の置かれている状況がよく分かっていないらしく首をかしげた。ベッドのすぐ横には勇斗がおり、自分の首には今までとは違うペンダントがかかっている。
「あ、そっか……あのあと私、寝ちゃったんだ……… そうだ、ヴィクトールは?」
宇美があたりを見渡すと、突然胸元のあたりから声が聞こえた。
『僕ならここだよ、宇美。』
戦闘を終え勇斗の家に戻ってきた後、マグナとヴィクトールはそれぞれの主の持つアクセサリーの中に身を隠したのだ。
「この中にいるの?」
ヴィクトールが入っているとおぼしきペンダントを、手のひらでちょっと持ち上げてみる。
『うん、マグナの真似をしてみたんだけど、どうかな?』
宇美は特に気にした様子もなく笑顔で言った。
「宇美って………意外に順応性高いな。」
勇斗の言うとおり、余り驚いた様子を見せない宇美。ヴィクトールに聞いたところによると『事情はまだ何も話していない』と言っていたが、存外あっけらかんとしている。
「はぁ……」
半ば呆れたようにため息をつく勇斗。だが宇美にはその意味するところが分からず、頭の上に幾つもの『?』を浮かべるだけだった。
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