勇者神想
マグナセイバー
Mission 4 『秘密を知る者 謎多きモノ』








「ぃやったぁ〜〜〜〜っ!!」

大きな声が紅焔寺家の家屋全体に響き、寝ていた全員が飛び起きる。

「な、何の騒ぎだ?!」

部屋が近くであるため真っ先に宇美の部屋に飛び込んだ勇斗が叫ぶ。だが彼が見たのはパソコンに向かって目を輝かせている宇美だった。



(回想スタート)



「んん〜、今日もいい天気だなぁ〜……」

小鳥が囀り、日の光がまぶしい金曜日の朝。宇美は毎朝の日課、『朝刊取り』と『メールチェック』をしていた。
たとえ親しい間柄とはいえ、『居候の身である自分に出来る事がしたい』と宇美が言いだし、そのままなし崩し的にそう言う事になった。宇美の仔犬のような瞳と、何よりこの家の実権を握っている祖父の鶴の一声が勝因だ。
そんな訳で今日も彼女は小学生とは思えないほどの早起きさんである。
門の新聞受けに入った朝刊を回収し終え、その足でリビングへ向かう。入ってすぐの壁に取り付けられたセキュリティ用ミニコンピューター、通称『ハウスキーパー』を操作して『メール』の項目を見ると、三件の通知が入っていた。
そのうち二通は電気料金の通知など勇斗の両親に宛てられたものであったが、残りの一通は宛名が「星野宇美様」となっていた。そのメールを自室のパソコンに転送すると、少し急ぎ足で部屋に戻る。部屋の隅に設置してあるパソコンを起ち上げ、先程のメールを開けた。
まず最初に目に入った差出人の名前。


『星野流勢・恵理』


それは宇美の両親の名だった。
とある仕事の都合上、宇美を紅焔寺家に置いて海外に行ってしまった二人。最近ではなかなか連絡も付かない状態だったのだが、突然のメールに宇美は少し戸惑っていた。久しぶりの両親からのメール。そこに何が書いてあるか、不安と期待が入り交じった気持ちだった。
「ゴクリ……」

呆然としていて口の中にたまったままになっていた唾液を飲み込むと、メールの文章を一字一字丁寧に読んでいく。
しかしその文面にあったのはたった二つの短い言葉だけ。


『今度の日曜、そっちへ帰る。みやげ話、期待するように。』


たったそれだけの言葉。しかしそれでも宇美には嬉しいものだった。

「おとうさんとおかあさんが『帰ってくる』……」

暫く逢っていなかったせいでその気持ちはより一層強いものになっている。
メールの文面をぼぉっと見つめていた宇美だったが、はっと我に返り嬉しさに感極まって声を上げて喜んでしまった。



(回想終了)


………というわけである。



パソコンに向かって目を輝かせている宇美を見て、勇斗は驚いた自分が馬鹿らしく思えてため息をつく。

「はぁ…」
「……???」

勇斗達に気付いた宇美は、状況がよく分からずただ首を傾げるだけだった。




家族5人で食卓を囲む朝食の風景。長方形のダイニングテーブルを祖父・刀磨(とうま)を中心に左に勇斗の両親、右に勇斗と宇美がついている。
和食党の祖父に習って朝食はみんな揃っていつも通り和食。今朝の献立は定番の「ごはん」、「昨日の残り物の煮物」、「シャケの切り身の塩焼き」、「ほうれん草の和え物」、そしてこれまた漬け物の定番「たくあん」である。気分によってはご飯に納豆やふりかけをのせて食べる者もいる。

「そう言えば、さっきはなんで大声出してたんだ?」

ふいに浮かんだ疑問を右隣に座っている宇美に投げかけてみる。そして聞かれた宇美も律儀に煮物の里芋を飲み込んでから答える。

「うん。お父さんとお母さんが今度の日曜、こっちに帰って来るんだって♪」

そして食卓を囲む空気が一瞬にして音を立てて凍り付いた。勇斗の両親に至っては表情が心なしか青ざめて見える。

「もぐもぐもぐ……ふぅ、ごちそうさまでしたぁ♪」

一番に食事を終えた宇美は食器を流しに片づけると登校の準備のため二階に上がっていった。

「………」

宇美の去った食卓は異様な雰囲気になっていた。黙々とご飯を食べる刀磨をのぞく三人は、表情にどんよりと暗い影が浮かんでいる。

「『あの二人』が……帰ってくる……」

勇斗の父・幸村ゆきむらがうなだれたままぼそりと口にすると、他の二人がビクリとふるえる。なにやら過去にちょっとした事件があったらしい。
父の言葉を受けて勇斗も決意の表情で言う。

「みんな、警戒を怠らないように……」

そしてその言葉に母・蛍(ほたる)も頷く。
次の日曜。運命の日はもう目の前だった。




その日の学校帰り。いきなり宇美が声をかけてきた。

「勇斗くん、どうかしたの?」
「な、何が?」
「だって、今日の勇斗くん、何か変だったよ?」

その言葉に勇斗はギクリとする。実を言うと今朝の事が気にかかって授業どころではなかったのだ。

「べ、別に何もないけど?」
「ほんとに〜?」

こういう時、宇美は何故か『カン』が鋭い。実際これまで隠し事は出来た試しはほとんど無いといえるのだが、今回は何とか誤魔化せたようだ。多少疑いの眼差しをこちらに向けたが、すぐ前へと向き直った。
と、その時だった。前を向いた瞬間宇美が前に立っていた人に気付かずぶつかってしまった。真正面からだったため宇美は尻餅をついた。

「うゅ〜……」
「いやぁ、ごめんごめん。大丈夫かい?」

そう言って手を差し伸べてくる男性。2人はその人に見覚えがあった。 「家を訪ねたら君たちはまだ帰ってないと聞いてね。学校まで迎えに行こうと思ってたんだよ♪」

この『どんなに深刻な時でもその場の雰囲気をぶち壊しにするような口調』をする人物は、勇斗の知る限りでは一人しかいない。勇斗の脳裏に一瞬嫌な記憶が甦ったが、その内容についてはまた別の機会に。
手を掴んで立ち上がり顔を上げた宇美も、その人物の顔を見て驚いた声を上げた。

「お、お父さん?!」

そう。夕日を背に受け、『何となく格好いいアングル』で立っているこの男。彼こそ宇美の父にして工学分野の世界的権威、星野 流勢(ほしの りゅうせい)そのひとだった。

「え?! か、帰ってくるのは日曜じゃ………?!」

突然の登場にあわてていた勇斗だが、ふと思い出して問う。

「ああ、そのつもりだったんだけどね。意外に早く仕事が片づいたんで、予定を早めたのさ。」

それを聞いた勇斗は、内心『余計な事を………』と思ったとか思わなかったとか。



自宅に帰ると、宇美の母・恵理(めぐり)が勇斗の家族と迎えてくれた。この際なので勇斗の両親が地球最後の日のような顔をしていた理由は言わないでおくことにしよう。




紅焔寺家の客間に通された星野夫妻の口から出た言葉はあまりにも急なものだった。

「つまり、率直に言いますとお宅の息子さんである勇斗くんを、この休みの間だけお借りしたい、と言う事です。」

あまりの唐突さにその場にいる全員が目を見合わせる。
それは、『仕事の関係で勇斗の協力が必要なので一緒に来て欲しい』と言うお願いであった。『仕事の都合』と言うものがどんなものかは知らないが、勇斗と宇美の二人でなくてはならない理由があるのだと言う。
一同が顔を見合わせ困ったようにしていると、ふと背後の障子越しに声が響いた。

「話は聞かせて頂いた。」

その声の主は刀磨だった。障子が音もなく開くと、星野夫妻の前に正座し軽く頭を下げて言った。

「こんな不出来な孫で宜しければ、いくらでも使ってやって下され。」
「ちょ、ちょっと……」
「御前達は黙っていなさい。」

幸村も反論しようと身を乗り出すが、刀磨の気迫にあえなく押し戻される。

「なんだかそんなあっさり了承して頂けるとこっちもちょっと引け目感じちゃいますね。」

すまなそうに言う流勢。

「何、気にする事はない。君を信頼しての事だ。」

刀磨はさほど気にしていないらしく、むしろ目で『2人が何か言い出す前に早く連れて行くといい』と言っているようにも見える。流勢もあまり長居はするつもりではなかったのでその場から立ち上がると、部屋の脇の方で笑顔と仏頂面を浮かべている二人に声をかけた。

「それじゃ2人とも、とりあえず行こうか。」
「うん!」
「へ〜い……」

嬉々として立ち上がる宇美と力無く返事をする勇斗。刀磨の後ろで手が出せない両親は心の中で目の幅の涙を流しながら願った。
生きて帰ってこい、と………





とある城の真っ暗な廊下を歩く男。体格はよく、そこらの格闘家とも張り合えそうなほどだ。
その男、クロコダイルはなにやら機嫌が悪いようで右拳をもう一方の掌に打ち付けながらブツブツと文句を言っていた。

「あの忌々しい奴らめ……数が増えるなんて卑怯な野郎共だ………クソッ!」
「そう言って失敗を誤魔化す気?」
「?!」

柱の影から派手な赤いドレスを纏った女性、アバローネが現れる。

「フン、オマエか。」
「何を言ったところで失敗は失敗。『あの御方』に知れたら何て言われるかしらねぇ?」
「うるせェ! あの時余計なのが出てこなけりゃ勝てたんだ!!」

彼が言っているのは先日の戦いの時の事だ。確かに彼の邪心獣はマグナセイバーを圧倒していた。そう、『二人目』が現れるまでは。

「でも、結果は変わらないわ。せいぜいお払い箱にされてしまわないよう気を付ける事ね。」

そう言ってアバローネはクロコダイルの横を通り過ぎる。と、去り際に彼女が振り向いて言った。

「あぁ、そうそう。この間、『アレ』らしい反応を一つ見つけたわ。」
「何?!」

クロコダイルは驚いた顔を見せるが、アバローニはいつものペースで言葉を続ける。

「自分で行くの面倒臭かったから、調査はレイヴンに頼んだけどね。」
「な、アイツにだと?! 何故ヤツなんかに?!」

彼にとっては驚愕だったらしい。
『アレ』を見つける事は彼らにとって重要な事のようだ。それを見つけたのならかなりの成果と言えるのだろう。しかしいくら『面倒だから』といって、せっかく見つけた『アレ』を他の者に任せるなんて事は普通ならばし考えられない。
しかし、彼の反応は、それだけが理由ではないようにも見えた。
だがアバローネはあっさりと言い放つ。

「頼んで欲しかったの? でも、その時アンタ居なかったじゃない。」

そして彼女は嘲笑うような笑みを浮かべそのまま歩き去っていった。後に残されたクロコダイルは歯をかみしめ、その顔からはいろいろな意味での悔しさが滲み出ていた。





紅焔寺家を離れ早一時間、勇斗達は流勢の車の中にいた。

「あの〜、どこまで行くんですか?」

後部座席の勇斗は恐る恐る聞いた。座りっぱなしで尻が痛くなったのもあるが、よく知った仲とは言え正直まだ不安が大きかったからだ。

「う〜ん、もう少しかな。 勇斗くんの家からだとちょっと遠いんだよね〜、僕の今の職場。」

苦笑いしながら答える流勢。その返答に勇斗も不安の色を更に濃くする。

「大丈夫だよ、勇斗くん。」

そう言って助手席に座る宇美はむしろ楽しそうである。さっきから勇斗を置き去りにして思い出話に花を咲かせっ放しだ。
そうこうしているうちに車はだんだん山道へと入っていく。さすがの宇美も少し心配になってきたようでハンドルを操る父に声をかけた。

「ねぇ、お父さん……ホントにこっちでいいの?」
「ちょっと『人には言えない場所』だからねぇ。」

返ってくるのは相変わらずのんきな口調。さすがに2人も不安を隠せなくなってきた。
そして数分後、3人をのせた車はとあるトンネルの中間付近で止まった。流勢がポケットから取り出した小さな箱についたスイッチを弄ると、コンクリートの壁がスライドして、突如謎の入り口が口を開ける。

「それでは、『秘密基地』へご案内〜。」
「『秘密基地』?」

わけがわからず首を傾げる2人を余所に流勢はその通路へと車を進めた。
内部は意外に広く、車一台なら余裕で通れるほどだ。行き着いた先は行き止まりだったが、流勢が壁の一部分を押すと床が音を立てて下降を始めた。10メートルほど降りるとそこは広い駐車場になっており、数台の車が止めてある。

「すまないが、車を頼むよ。」

そう言うと流勢はすぐ近くの男に鍵を渡した。
車から降りた勇斗と宇美はもはや何が何だか分からなくなっていた。あまりに疑問が多すぎて、惚けたまま立ちつくしている。

「ほら2人とも、行くよ〜。」

その一言で我に返った2人は慌てて流勢の後を追いかけた。





「あそこか……」

海沿いの小さな山を見つめる銀髪の男。
全身を黒い装束で包み、腰には日本刀に似た曲刀を携えている。

「ふん、『人間』など相手にしたところでつまらんだけだ。」

彼は吐き捨てるように言う。
その鋭い目つきは、まるで獲物を狙っているかのようだ。
否、彼は『狙って』いた。彼の見つめる先に『それ』はある。

「……まぁいい、まずは様子を見るか。」

そして次の瞬間には彼の姿はそこからかき消えていた。





言われるままに廊下を進む勇斗と宇美。辺りを見回しても金属の壁ばかりで、とても山の中とは思えない。
不意に立ち止まった流勢は壁の装置に掌をあてる。少しの間のあと扉が音もなく開いた。

「さ、2人とも入って。」

まわりを眺めつつもゆっくりと中へ進む。壁にはモニターがいくつか、そして明らかに異常な数と長さのケーブルがたくさん床を這っている。

「ようこそ、僕らの『秘密基地』へ。」

流勢はイスに腰掛けくるりとこちらを向くとそう言った。

「秘密基地………さっきも言ってたけど、此処って一体……」
「ん〜、イイ質問だね勇斗くん。ココは私設防衛組織『Brave Guardians Force』、通称『B・G・F』の本拠地『XeL Base(エクセルベース)』さ。」
「えくせる………べーす?」

言葉を繰り返しつつ首を傾げる宇美。まぁ、つい最近まで一般人として生きてきた2人にとってはむしろわけがわからなくて当然なのだが。

「え〜と、説明すると長くなるからそれはまた今度ってことで。」

明らかに現状を理解していなさそうな2人を前に流勢は苦笑いを浮かべる。だが少し間をおいた後、今まで見せたことのない真面目な表情で彼は2人に問いかけた。

「ここ最近、日本国内で妙な事件が起きているのは知っているかな?」

唐突な質問に顔を見合わせる2人。

「少し前に、奈良県奈良市の都市部近郊において謎の巨大生物らしきものが出現したことさ。 ………そしてその際、東大寺付近から正体不明の赤いロボットが出現したらしいね。」

突然のその言葉に勇斗はつい目線を逸らしてしまう。

「どうかしたのかな、勇斗くん?」
「えっ?! あ、いや……」

冷や汗を垂らしつつ明後日の方へ目線を向ける様は誰がどう見ても怪しい。

「それと、ついこの間君達の住む町で起きた戦闘……そこでも新たに銀色のロボットが現れて……」

そういいながら今度は宇美に視線を投げかける。

「………」

対する宇美も俯き加減で目を逸らす。まさに疑って下さいと言わんばかりだ。

「……2人とも、何か隠し事をしてるだろう。」
「べっ、別になにも……」
「そうか……僕は君達がそのロボットたちと関係あるんじゃないかなぁ、と思ったんだけどねぇ〜」

2人に背を向け、天井を見上げて呟く。

「なんで……そう思うんですか?」

その質問に流勢の動きが止まる。だが、数秒の間のあと、再度こちらを向いたその顔は不敵な笑みがたたえられていた。 「……コレが僕が『確信』を持った理由さ。」

そういいながら手元のパネルのボタンを押す。すると部屋の奥に大きなスクリーンが現れる。そこに映る映像を見て勇斗は呆然となった。

「先日君達の住む町のとある商店街の防犯カメラに写っていた映像だ。」

それはまさに、勇斗がマグナと共に現場に駆けつけ、『敵』と戦闘を始めるまでの一部始終だった。

「…それとコレがその少し後に君達の学校の監視カメラで記録された画像の一部だ。このままだとよく分からないかもしれないけど、グラウンドの中央に跪く巨大なロボットと、それに向かって立つ人影が見える。」

流勢の言葉と並行して映し出される画像の中央周辺が拡大される。そしてそれを鮮明に修正した画像が映る。そこには長い髪を赤いリボンでポニーテールで結わえた少女が居た。

「あ、私が映ってる〜♪」

その一言と同時に勇斗は灰になった。




数分後。 「……ゴメンね、勇斗くん。」
「もうイイよ。バレちまってるんじゃ、隠す意味もないしな……」

せっかく隠していた事実をうっかり喋ってしまった宇美は一生懸命謝るが、勇斗は気にしていないように返す。だがその顔は微妙に青ざめているようにも見える。

「……まぁ、そういうわけなんだ。黙って連れてきてしまってすまなかったね。」

こめかみをかきつつ流勢は謝罪する。

「別にイイですよ。俺たちも隠し事をしてたんですし……」
「…とりあえず、紹介してくれないかな? 君達の相棒(パートナー)を。」
「え〜と、出した方がイイッスか?」
「『出す』?」

さっきとは逆に流勢が首を傾げる。

「あ、アイツ今『ここ』に居るんで……」

そういって勇斗は手首のコマンダーを指さす。

「あぁ、それなら場所を変えようか。彼らを招待するにはここは狭すぎるしね。」 勇斗の言葉を理解した流勢は苦笑いを浮かべながらも部屋を出ようとする。するとそこへ分厚いファイルを抱えた一人の女性が入ってきた。

「あ、お戻りになっていたんですね、博士。」
「ん、麻夜くんか。うん、ついさっきね。」

『麻夜』と呼ばれた女性は軽く頭を下げると部屋の中に入る。するとようやく勇斗達に気が付いたのか不思議そうな顔で首を傾げた。

「あの、博士。この子たちは……?」
「あ、2人が『例の子たち』だよ。こっちが僕の娘、そしてこちらが友人の息子さんで紅焔寺 勇斗くんだ。」

『例の子たち』というのは今さっき見せられた映像のロボットと一緒に映っていた子供、ということだろう。

「紹介するよ。僕の助手の……」
「西表 麻夜(いりおもて まや)です。よろしくお願いしますね。」

そういって僅かに微笑む。どことなくぎこちないように見えるがそれが彼女の精一杯だった。

「よろしくです〜♪」
「よ、よろしく……」

元気に挨拶しながら宇美はふかぶかとお辞儀をする。勇斗も仕方ない、と言いたそうな顔で軽く会釈を返した。

「何処かへ行かれるのですか?」 「あぁ、彼らのパートナーを直に見せてもらおうと思ってね。」

2人の肩に手を置き無邪気に微笑む流勢。

「でしたら、第3格納庫がいいかと思います。他は現在周辺の施設と共に消火設備の定期点検があっているはずですので。」
「うん、わかった。君はどうする?」
「私は……この資料の編纂がまだ残っていますので。」

彼女は少し考えるようなそぶりを見せるが、その申し出を断った。
だがどのみち彼女の持っているファイルの厚さから鑑みても、おそらくそんな余裕はないのだろう。

「そうか……うん、頑張ってくれ。」

流勢は残念そうな顔で手を振り、部屋を出る。勇斗達も遅れまいとそれに続いていった。
3人の靴音が遠ざかったのを確認すると、デスクにおいた資料に目線を落としつつ呟いた。

「何も……起こらなければいいのだけど……」






格納庫へ移動した3人はさっそく本題に入った。

「マグナ〜、出てこ〜い。」

勇斗が中央のエンブレムに声をかける。

『勇斗か、どうした?』

主の呼びかけに答え、コマンダーから声が返る。

「宇美の親父さんたちがお前たちに逢いたいんだと。俺たちのことも一応知ってるみたいだから、出てきても大丈夫だぞ。」
『そうか、分かった。』

言うと同時に勇斗の左手首から赤い光球が飛び出す。光球はすぐさま赤い車へと姿を変えた。

「それじゃ、ヴィクトールも……」
「あっ、ちょっと待った!」
「何? どうかしたの、勇斗くん?」

同じくパートナーを呼び出そうと首飾りに手をかけた宇美をとっさに制止する。

「確か……ヴィクトールの身体の元になった乗り物って……」
『君達が「スペースシャトル」と呼ぶモノのハズだが。』

かわりに当人が答える。

「おじさん……」
「あ、このスペースならたぶん大丈夫だよ。確か、彼のボディはドイツの開発した先月打ち上げたばかりの最新鋭機のハズだから。」

流勢は当人たちですら知らないような情報をさらっと言ってのけた。

「な、何故それを……?」
「さすがに打ち上げて間もないスペースシャトルが跡形もなく消えればニュースにもなるだろうさ。しかも、搭乗員たちは何故か本人たちも知らないうちに地上に戻ってきていた。コレが彼らの仕業でなくてなんだというんだい?」

もはや返す言葉もない。と言うか実は勇斗が知らなかっただけで、未だにこのことは新聞の一面を賑わせるほどの大事件として有名なのだが。

「ま、まぁ、いいや。宇美、出してもいいぞ…」
「は〜い♪ ヴィクトール、出ておいで〜♪」
『了解だ』

首にかけたアミュレットから銀の光が溢れ、少し離れた場所で本来の形へと再構成される。さすがはスペースシャトルと言いたくなるほどその大きさはマグナに比べかなり大きいが、それをすっぽり収めてなお余剰のあるこの格納庫の規模も異常と言えば異常だ。

「それで、我々に何か?」
「『君達』について、いろいろと知りたいんだよ。」

マグナの質問にあっさりと答える流勢。

「僕たちのことを?」

それを聞いたヴィクトールも訝しげな表情をする。もっともロボット形態ではないのでその顔は見えないのだが。

「あぁ、僕は君達に興味があるんだ。 ……まぁ、可変するボディに、と言うのもあるけど、その『存在そのもの』にね。」

眼鏡の奥の光が微妙に好奇の色を讃えている。
勇斗は不意に視界の隅でゆっくりと後ずさる宇美を見た。その顔は少し困っているような、かつ恐れているような表情だ。

「どうしたんだ?」
「お父さんが……『知りたいモード』に……」

うっすらと冷や汗を垂らしおののく。

「なんだそりゃ?」
「お父さんはすっごく興味をひかれた時にあの目をするの…… 多分しばらく…ううん、もしかしたら今夜中はマグナさんたち、戻って来れないかも…」

そういわれて流勢を見る。

……確かに雰囲気からして『新しい玩具を見つけた子供』のようなカンジに見えなくもない。

「まぁ、仕方ないか。今日はココに泊めてもらおう。」

半ば諦めたように言うと、肩をすくめた。

爆発。
その日の朝は轟音から始まった。
基地全体が揺れ、眠っていた誰もが目を覚ます。

「な、なんだ?!」

その他大勢と同じく目を覚ました勇斗は慌てて廊下に出る。非常灯にてらされ赤く染まった通路をがむしゃらに走った。服は昨日から着替えていない。

『勇斗!』

突然左腕から声がする。

「マグナか?! 何があったんだ?!」
『我々にも分からない! だが、ここが攻撃を受けたのは間違いなさそうだ!』
「なんだって?!」

相棒からの報告に思わず立ち止まる。

『基地周辺にやつらの気配がする。数の特定は不可能だが邪心獣ではないようだ。』
「分かった、とにかくすぐにそっちに行く。今どこだ?」
『昨日と同じ場所だ。今宇美の父上が現状の確認を行っている。』

昨夜は結局流勢が2人を放してはくれず、仕方なく同じ基地内とはいえ離ればなれで寝ることにしたのだ。

「よし、それじゃ……ぅわっと。」

2度目の揺れ。最初ほどではないモノのそれでもかなりの振動に足下がふらつく。

「急がないと……!」

壁に手をつきながら、記憶を頼りに相棒の居る格納庫へ走り出した。



To be continued