勇者神想 マグナセイバー Mission 6 『閃く稲妻 煌めく氷』
「
台所に立つ母が心配そうに見つめているのでいい加減出ることにするか。
「みんな席に着け〜」
程なくして担任が来た。体育担当で運動は全般的に得意、一応女だということをとりあえず付け加えておく。
「みんな、家に帰るまでが〜………って、これは帰りに言う言葉かぁ。」
………それと、何処か思考がずれていることも。天然なのだろうか?
「げっ。」
妙なうめき声に目をやると、アイツが俺とその隣の席を交互に見つめて顔を強張らせていた。何もいうな、俺だって嫌なんだ。クジで決めさえしなければ誰が好き好んで隣に座らせるモノか。
「………」
アイツも俺とは逆の向きを向いて黙っている。
「ねぇ、二人も何か歌いなよ!」
茶色のポニーテールに赤いリボン……星野か。
「俺はいい。隣でむくれてるヤツに歌わせてやってくれ。」
コイツとはまともに付き合っても疲れるだけだ。放っておけばいい。さて、俺はおとなしく景色でも眺めているとするか……
「………ふぅ。」
仕方なく風景観賞から仮眠へと行動を移行する。きっと次に目を覚ます時までには何事もなくなっているだろう。
「そろそろ付くわよ〜」
明らかな寝起きの声で担任が皆に声をかける。どうやら俺以外にも寝ていたヤツがいたようで数人のあくびの声が聞こえた。
「『300系のぞみ』……コレが『つばさ』で……『E4』……ふぅん、これが『アレ』の元かぁ……」
ぶらぶらと回りつつも各車両の説明はしっかりと読む。いつの製造か、どれだけの間走っていたか、デザインや名前の由来など。こういう事をチェックをしておけば、後で書かされるであろう感想文のネタにはなるからだ。 ……まぁ、他にも多少個人的な理由があるのだが。
「これが……九州新幹線『つばめ』で……こっちが北陸新幹線『はやて』か……」
すると、何故だか分からないが妙にそれらが気になっている自分に気がついた。理由は自分でも分からない。何の変哲もないただの新幹線なのに、何となく惹かれてしまっていた。もうやることもなくなっていたせいか、俺はただ呆然と2つの鉄の塊を見上げていた。
「もう、ダメじゃないの氷室くん! もうお昼の時間よ!」
眉をつり上げて声を上げているのは見飽きた顔の担任である。どうやら昼の休憩時間に入ってしまっていたようだ。担任に手を引かれつつ肩越しにさっきの2両を見やる。だが、さっきまでの興味は嘘のようにひいていた。
「あらぁ? 先客が居たようねぇ。」
突然の背後からの超えに慌てて振り返る。その先にいたのは妙なドレスに身を包んだ女だった。
「あーあ、この辺なら見つからないかと思ったんだけどなぁ。人間って意外なところにもいるモノね。」
大袈裟に肩をすくめるような動きで溜息をつく女。その様子が何となく俺の中の何かに触れた。
「あんた、何モンだ?」
何となく腹の底から形容しがたいものが登ってくるような感覚がある。
「……質問に答えろ。」
それが合図。
「オイ、人が質問してるんだから真面目に答えやがれ。」
自分でも顔が怒りに歪んでいるのを実感できる。
「人間風情がこの私に命令するの? フフ、面白いわね。」
対する女も動じた様子は微塵もない。
「人の話聞いてんのかよ、オバサン。」
女は唇の端をより一層吊り上げると、胸元に右手を差し入れた。俺の前に再度姿を見せたその手には、不気味な黒い球が浮かんでいる。
「んー、あの辺がちょうどイイかしら。」
周囲を見回した女は俺から見て左の方角にある小さな建物を見ていった。
「………」
その魚じみた怪物をただ見上げている俺を見て、女は何かを勘違いしたらしい。
「……か、かわいい………?」
俺は呆然と女の言葉を繰り返す。
「そうよ、文句あるの?」
ついうっかり本音が漏れる。俺はその一言を口にしたことを瞬時に後悔した。
「……予定は変更ね。今すぐ楽にしてあげるわ!」
どうやら相手は馬鹿にされたことに気付いたらしい。怒りをあらわにすぐ傍の魚、もとい怪物に指示を飛ばした。怪物も女の命令に従順で、ゆっくりとした足取りで俺の方へ近づいてくる。どうやら踏みつぶす気らしい。
ヤツの脚が俺の頭上にゆっくりと降ろされていく。
「うわぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
なのに、あたりを見ると黄色い透明な半球が俺を守るように広がっている。その中心は親父のタイピンに填った石。いつもはただの半透明の石だったのに、今は光があふれ出している。
『おい、主、聞こえてるか?』
あまつさえ声さえ響いてくるときた。
『寝惚けてるのか、主? さすがだな。だが、むしろそのくらいじゃないとこっちも困る。』
よく見ると例の魚の化け物は半球の防壁の上に足を置いたままの格好で止まっている。いや、恐らくヤツなりに踏みつぶそうと頑張っているのだろう。頭の上で叫いているらしいあの女の姿も見える。
「お前……何者だ?」
そういうと、タイピンの黄色い石から光だけが抜け出し、さっきまで俺がいた列車博物館の方へ飛んでいった。と、その直後、壁を突き破って九州新幹線・つばめが『飛んできた』。
『ヘイお待ち!』
そして何故か先程『ライジング』と名乗った声が聞こえる。
『コレで思う存分戦えるぜ!! いくぜっ!』
そういうと目の前の新幹線が飛び上がる。後部約半分が後ろに伸びて縦に二つに割れる。フロントノーズも縦に割れ、左右に平行移動し、更には人の腕らしきものが後方へ伸びる。最後に頭が飛び出し、完全な人型に『変形』した。
「雷の精霊・ライジング様参上ォ!! オラオラ、どっからでもかかって来な!」
着地と同時に脚部側面から大小の2刀を取り出したライジングは、威勢良く魚っぽい怪物に手招きしてみせる。
「へっ、そう来なくちゃなぁ!!」
相手の突進を刀を交差させて受け止める。だが、そのパワーは想像以上で、若干だがライジングが押されている。
「何やってんだよ! しっかりしろよ!」
俺もいつの間にか必死になってライジングを応援していた。
「分かってるぜ、主…… ったく、こんな時にアイツは何やってやがる。くぉらぁ、フリジング、何処で寝てやがるんだァ!! お前にも、主の声が聞こえてるんだろうが! とっとと起きて手ェ貸しやがれェ!!!」
ライジングはいきなり怒声を飛ばす。一体誰に向けたものかはわからない。だが、『フリジング』と言う名から察するに、きっとライジングの仲間だろう。
「主殿、遅れて申し訳ありません。」
登場と共に二人目のロボットは謝罪した。一人目とはえらい違いだ。
「こら、フリジング! 遊んでないでさっさと手伝え!!」
すぐ傍で闘っているのに半ば無視されていたライジングが吼える。
「『遊んでいる』とは失敬な。主へのお目通りと、遅れたことへの謝罪をしていたのだ。それに、手を貸すのは言うまでも無かろう。我等は『双子』なのだからな!」
言葉尻を言い終える前に魚型怪物の横っ腹に脚部から取り出した長い棒で突き上げる。
「双子……? ロボットの……?」
「あ、お前、遅れてきといて美味しいとこばっか持ってくな!」
二人を見ていての正直な感想としては『凸凹コンビ』だと言うことだ。
「おっと、やっこさんも案外しぶてぇな。」
冷静に言うフリジングにライジングが裏手でツッコミを入れる。
「……んじゃ、久々に派手に暴れるか。」
お互いに笑みを浮かべると、二人は左右対称の構えを取る。ライジングは双剣を、フリジングは長棍を、それぞれ地面と並行に揃える。
「「いくぞっ!!」」
雄々しい叫びと共に、まずライジングが敵に向けて一直線に
「はっ!!」
そしてフリジングがビリヤードのショットのごとく棍を地面に突きこむ。すると地面が赤絨毯よろしく凍り、『道』が作られる。ライジングはその上に乗り、滑走で勢いをつけながらも武器に電撃を迸らせる。
「喰らいやがれぇぇぇっ!!!」
さっき氷の道を造った時に、相手の脚もまとめて凍らせておいたらしく、敵も身動きが取れないらしい。ライジングは勢いに任せて豪快に剣をX字に振りぬいた。
「「
魚型怪物は斬撃と電撃の両方でダメージを喰らい地に伏した。
「どうだい主? 俺たちの強さに感動したろう?」
俺は生返事を返すほか無かった。事態が飲み込めない上にわけのわからないロボット2体が俺を『主』と呼ぶからだ。
「な、なんだこいつら……」
人が混乱してるって時に、またイヤなヤツが現れやがる。
『彼らもまた精霊だ。雷と氷のようだな。』
車が喋ってる……と言うことはコイツもアレか。
「?! まだ動いてるよ?!」
助手席から降りた星野が指を差した先には、さっきライジング達が倒したはずの怪物がいた。
「お前、止め刺さなかったのかよ! ったく、使えねぇな……いくぞ、マグナ!」
そういってアイツは赤い車が変形したロボットと共にあの化け物に向かっていった。……馬鹿にされたことには頭にきたが、何よりアイツもロボットといっしょに闘っていることに驚かされた。
「いやぁ、面目ねぇ。まさかあの野郎が、まだ息があったとは……」
頭をかきつつライジングが謝罪する。
「どうやら、認識を改める必要がありそうですね。」
フリジングは何やら考え込んでいる。
「ほら、勇斗くん……」
困った顔でこっちを見るな。それと、こっちはまだ何も状況が飲み込めてないんだからもう少し分かるように言え。
「と……とりあえず、これからはよろしく頼―」
俺はハッキリそう言ってやった。正直あんまり宜しくしたくないしな。
「……なんだと?」
そのあと俺たちは、事態に気付いた教師連中が来て止めにはいるまで、とっくみあいのケンカを繰り広げた。
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