勇者神想 マグナセイバー Mission 7 『母を救え 2つの力が交わる時』
『あぁ〜……やっぱ日向っていいよなぁ……』
しみじみと呟くライジングの声。だが、彼の巨体はどこにも見当たらない。見当たるとすれば、さんさんと降り注ぐ太陽の下で気持ちよさそうに庭で寝そべる一頭のゴールデンレトリバーくらいである。
『そうだな……太陽は偉大だ。だが、私はむしろ日陰の方が好みだな。』
こちらはフリジング。だが、声のする方にいるのは日陰で涼をとる一頭のシベリアンハスキーのみだ。
『んだよぉ〜、お日様の下でのひなたぼっこは気持ちいいんだぞぉ〜』
ゴールデンレトリバーが仰向けでゴロゴロしながら、だらけきった声を出す。
『まぁ、悪いとは言わん。だが、私は暑さは苦手だからな。』
そんな、傍目から見れば異常な状況の最中。
『どうした主、先程から黙っているが?』
黙りこくっている主人にフリジングは問いかけるが、神鳴は仏頂面のまま視線もよこさない。
「で、なんスか? 用件って。」
流勢が手元のスイッチを操作すると、大型のディスプレイに映像が表示される。
映像が終わった瞬間、勇斗が呟く。隣にいた宇美に至っては、途中から目を背けてしまっている。
「これは昨日の朝、9時頃に撮影された映像だ。 …何か感想とかはあるかな?」
流勢を睨みつける勇斗。その目には、明らかに怒りが見て取れた。
「……ふむ、そうだね。まずはやはり本題から話すべきか。」
困ったように眉根を寄せると、ゆったりと立ちがある。
「結論から言おう。僕はこの事件、『ヤツら』が関わっているんじゃないかと思う。」
資料を片手に、流勢は淡々と語る。
「……つまり、怪しいところがなかったのが逆に怪しい、と?」
これまで傍観に徹していた神鳴が、彼の言わんとするところを的確に指摘する。流勢もそれを笑顔で肯定すると、資料を机に置いた。
「これはまだ確証があるわけじゃない。だからこそ、我々もうかつに動くわけにはいかない。だけど、もしも万が一君達が出逢ってしまった場合のために一応知らせておくことにしたんだ。」
改めて向き直った流勢の顔からはいつもののんびりとした雰囲気は消えている。3人もそれを察したからこそ、何も言わず頷いた。
「もしも遭遇した場合の判断は君達に任せる。ただ、出来る限り一人での行動はしないこと、いいね?」
再度頷きで返す。
「OK。悪かったね、急に呼び出してしまって。」
そう言った流勢は、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
その日の帰路、送迎の車に揺られながら、勇斗がふと呟いた。
「……?」
勇斗達に比べキャリアが幾分短い神鳴はよく分からない、と言った様子で首をひねる。
「…そう言えば、いつもはあのレイヴンさんとかが変な黒いボールみたいなので怪獣さんを呼び出してたのに……」
当てもない疑問に3人は考え込む。ちなみに宇美が敵にまで『さん付け』をしてることはあえてスルーしている。
「………新しい作戦かもな。」
沈黙を破り、神鳴がふと呟く。
「今まではなかった『何か』を始めようとしてるのかもしれない。それならここ最近これと言って『ヤツら』に関する事件が少ないのも納得がいく。」
眼鏡の奥の真剣な眼差しに、二人は少し身を引く。なんというか、近寄りがたい雰囲気を感じだった。
「……ん?」
ふいに神鳴の目線が上がる。
「…はっ、な、なんでもないよ! あははは……」
慌てたような宇美の言動に神鳴は首をひねるばかりだった。
「ダメだよ勇斗くん、居眠りなんかしちゃ。」
うつらうつらと首を傾けかかっていた勇斗に、隣の宇美が小声で呼びかける。
「……んぁ、うん…」
一応返事は返ってくるが、明らかにまだ寝ている。
「もう……」
宇美は呆れて前へ向き直るが、彼らのパートナーは僅かにだが異変を感じ取っていた。
『……この気配は…』
マグナがそう呟き、勇斗の首が思い切りがくっと前へ倒れた、その瞬間だった。
「な、何だ?!」
未だ変形を続ける扉。しかし、それらの隙間からのぞいた顔に、勇斗達は見覚えがあった。
「あの男……あの時の……?」
流勢に呼ばれ、彼の部屋で見せられたあの映像。そこに映っていた『加害者』の男が、すぐそこにいた。
「あ、あの、すいませんが現在卒業式の最中でして……」
その一言は、どうやら男の気分を害したらしい。男は駆け寄ってきた教師の顔面を殴りつける。
「ちっ、まさかよりによって俺たちの卒業式を狙ってきやがるなんて!」
避難を促す教師たちに見つからぬように隠れていた椅子の影から立ち上がりながら、勇斗と神鳴は『敵』を見る。
「いや、恐らく君達ではないはずだ。」
すぐ後ろからの声に宇美は慌てて振り向く。
「お父さん?!」
訂正、この場にいるのは全部で6人。
「二人ともどうして……?!」
こんな状況でも相変わらずの二人に、勇斗達は呆れ顔だ。
「さて、彼にはどんな作戦がいいと思う?」
相手から目を逸らさずに、恵莉の言葉に頷く流勢。その表情はいつも通りではあるが、何となく雰囲気が違っていた。
「それじゃ〜、勇斗くん。」
恵莉が勇斗に『おいでおいで』をする。とりあえずそばによる勇斗に恵莉は宇美たちに聞こえぬようそっと耳打ちする。
「勇斗くん、彼を刺激してここから外へ誘導して頂戴。方法は任せるから♪」
勇斗は素っ頓狂な声を上げる。
「な、なんで俺が?!」
あっさりと言い切る恵莉。その隣では流勢も「なるほど」と手を打っている。
「おねがいね♪」
そう言いながら見せる恵莉の満面の笑み。コレに勝てる者はまずこの場にはいない。
唐突に口を開く勇斗。相手の方も散々待たされてイライラしていたのか、こちらを睨みつけてくる。
「ぅ……お、お前なんか、俺たちの敵じゃないぞ! か、勝てると思うんなら、かかってきやがれ!!」
少し離れてみていた神鳴と宇美は唖然とする。
「へへん、お前なんかあっという間に倒してやる! く、悔しかったらついてこい!!」
微妙に震える足をなんとか動かし、男の脇をすり抜けて外へ走り出る。どうやら男も素直にその挑発に乗ってくれたようで、ゆったりとした足取りで後を追っていった。
「さぁて、それじゃ僕らも追いかけますか。」
唖然とその様子を見送っていた二人もその言葉に我に返る。
「そ、そうだよ! 早く追いかけないと!!」
その場に残った二人は慌てて駆け出していったその背中を見送ると、顔を見合わせて微笑む。
「マグナたちは、彼らを選んで本当に正解だね。」
「行くぞ、マグナ!」
慌てて迎撃体勢を取ろうとする勇斗にマグナが待ったをかけた。
「な、なんだよ?!」
その言葉に、勇斗も一瞬言葉を失う。
「……で、でも、やらなきゃこっちがやられるんだ! 仕方ないだろ?!」
表情は険しいながら静かにそう呟くと、マグナは腰から愛用の銃を取り出す。そしてゆったりと追いかけてくる男に向け、3度引き金を引いた。
「なにやってるんだよ!」
マグナは言葉の途中で何かに気付き、とっさに勇斗をかばうように覆い被さった。
「な、何を……?!」
突然のことに困惑する勇斗。だが、すぐに事の深刻さを目の当たりにする。
「オマエモ……オレヲイジメルノカ……」
ふいに男が呟き、その全身を黒いオーラが包み込んだ。
「ふむ、どうやら面白いことになっているようだな。」
ふいに、すぐ後ろから声が聞こえた。
「テメェ……レイヴン!!」
聞き覚えのある声の主に怒りの形相を見せる勇斗には目もくれず、未だ黒いオーラを吹き出させている男に目を向ける。
「アレか……」
レイヴンはそのまま勇斗の脇を素通りして歩を進める。
「勇斗くん!!」
そこに、遅れて飛びだした二人が到着、場の雰囲気が更に緊迫する。
「これはこれは……勢揃いか。」
しかしそれも長くは保たなかった。
「「「?!」」」
驚きと歓喜の四重奏が向けられた怪物のその目には、もはや意志など無いように見えた。
「……ちっ、ライジング、フリジング!!」
神鳴がタイピンに声をかけると、どこからとも無くロボット姿の2体が現れる。
「アイツを倒せ!」
そう言って愛刀を取り出すと雷を纏わせ、交差した雷の斬撃を飛ばす。だが、それは黒い風に阻まれた。
「甘いな。」
そう言うと、レイヴンは進路上で右掌をかざし、あろう事か電撃を吸い取ってしまったのだ。
「何ィ?!」
レイヴンはつまらなさげに言う。
「ならばこれはどうだ!」
フリジングがライジングの前に出ると、掌から冷気の弾丸を放射した。
「確かに『雷』と『風』は、『氷』との属性的関連は薄い。 ……だが。」
しかし、コレもレイヴンに届く前に突如吹いた強い向かい風によって吹き飛ばされてしまう。
「その程度の攻撃、我が『風』の障壁で防げぬはずがなかろう。」
そう言って左腕を横薙ぎにすると、その場にいた彼らを薙ぎ倒すかのように先程以上の暴風が吹き付けた。
「ぐぁっ……!」
元々ダメージを負っていたマグナも例外ではなく、勇斗をかばいつつも盛大に地面を転がされる。
「フッ、まぁいい。さっきも言ったが、今日は貴様たちの相手をしにきたのではないのだからな。」
なんとか立ち上がった勇斗は精一杯の虚勢で睨みつけるが、当のレイヴンは相変わらず意に介していない。
「今日の仕事は、アレの『回収』だ。」
そう言う彼の目線は先程の怪物に向けられている。
「回収、だと?」
一切目線をあわせずに、それでも彼は語る。
「我々は行動を起こす前に、負のエネルギーを集める実験としてこの『
痛みを堪えつつ起きあがった宇美もそれには疑問の表情を浮かべる。
「邪心球は本来負のエネルギーを持つ者を感知し、その者からエネルギーを吸収して欲望を具現化させ、それにもたらされる破壊によって更なる負のエネルギーの発生を引き起こす、というだけのものだった。」
宇美を守るために姿を現していたヴィクトールがその先を言う。
「そう言うことだ。つまり『アレ』は我々にとってイレギュラーであり、貴重なサンプルなのだよ。」
レイヴンを力一杯指さしながら、より一層睨みつける勇斗。
「出来るかな?」
見るからに苦しそうな様子だが、それでもマグナは立ち上がった。
「バーンアップ!」
勇斗を収納し、僅かに走る痛みを堪えつつもレイヴンを追いかける。
「私達もいこう!」
ヴィクトールも銀の鎧を召喚、装着し、怪物の破壊を防ごうと空を疾っていった。
「………」
フリジングが声をかけるが、神鳴の耳には届いていないようだった。
「……なんで。」
呆然と座り込んでいた神鳴がふと呟く。
「アイツら……なんで戦ってんだよ……」
まるで、自分に問いかけるように。
「あんなの、勝てるわけねぇじゃねぇか………アイツだけでも勝てねぇのに、まだ他にもいるんだろ……?」
膝をつき、ただ目の前の現実をフリジングは告げる。
「だったら、どうやって勝てって言うんだよ!」
神鳴の罵声に、ライジングとフリジングは顔を見合わせ苦い表情になる。
「俺たち………なんで戦ってるんだよ……」
俯いたその目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「あの人……あのままでは死んでしまう……」
「あなたは……どうしたいの?」
彼らの驚きを意に介していないのか、『彼女』はじっと神鳴を見つめている。
「……え、何を…?」
その答えを聞いてなのかどうかは分からないが、少女は目線を逸らすと、ある方向を指さした。
「?!」
神鳴は、その女性に見覚えがあった。
「ん、ありゃぁ……」
「ぐぁっ!」
マグナセイバーは、そもそもが実力差のある者を相手にし、さらに元々ダメージを負っている事も重なり防戦一方に。
「ッ、このままでは被害が広がる一方だ!」
ヴィクトリアスは、空中からの攻撃で敵を攪乱してはいるモノの、攻撃力不足で決定打に欠ける上に、元が人間である『それ』を倒すことに躊躇しており、止めには至らずにいる。
「あれは、氷室くん?!」
空からその姿をいち早く見つけた宇美はその名を呼ぶ。だが、近づこうにも敵に遮られ、その足下を走る彼に手を伸ばすことも出来ない。
気がつくと走り出していた。運動はそれなりに得意なので目的地にたどり着くのは容易いはずだった。
(クソッ、なんで……なんでこんなに遠いんだよ!!)
何故か足が重く感じた。
(ちくしょう、このままじゃ………!!)
目の前にいるはずなのに、ひどく遠くにいるように思えた。
(頼む……間に合ってくれ!)
見るとその背後の壁に、大きな亀裂がいくつも入っていた。そしてすぐ傍であの怪物が暴れた振動でついに崩れ落ちる。
「うおぉぉぉりゃぁぁっ!」
一瞬の間に、落下していた瓦礫をライジングの拳とフリジングの脚が粉々に吹き飛ばす。
「母さん!」
母の様子に驚く神鳴だったが、ライジングの言葉にほっと胸をなで下ろす。
「主、我々に力を貸して頂きたい。」
2対の瞳が神鳴を見下ろしている。だが、そこにあるのはまっすぐな気持ちだけ。
「俺たちの力を合わせれば……」
見上げる神鳴は一瞬それに吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
「よく分からないけど………何とかなるんだな?」
3人は笑みを交わしお互いの気持ちを確認する。
「ここはお前が行くべきだろうな。」
神鳴は左の胸ポケットに着けたタイピンに手をやり、目をつぶる。
“親父………力を貸してくれ!”
タイピンを外し空に向かって掲げると、ありったけの大声で叫んだ。
「強腕、招来ッ!!」
神鳴の声に応えるように2体は地を駆け、そして空へと飛び上がる。
「
ライジングの呼び声に、地に落ちた雷から戦車のようなビークルが現れる。
紫電を纏った武人が今、雄々しく大地に降り立った。
「……ふむ、あちらのほうが楽しめそうだな。」
なおも噛み付こうとする勇斗だが、レイヴンはつまらなそうに言う。
「今の貴様では暇潰しにもならん。」
その言葉を肯定するようにマグナセイバーが耐えきれず膝をつく。勇斗はこれまで『敵』しか見ていなかったため、マグナセイバーの疲労に気付かなかったらしい。
「その様子では満足に動けまい。しばらくそこでおとなしくしているがいい。」
そう言ってレイヴンは飛び去っていった。
「ッ………ちくしょう!」
悔しそうに拳を握る勇斗に、マグナセイバーはただ謝ることしかできなかった。
「さぁて、どうするか……」
相手の強さもさることながら、ボルトクラッシャーの中の神鳴は自分を包む空間や、合体後の実力など分からないことが多く、どう指示を出すべきか考えあぐねていた。
「あ〜、もういいや、とにかくアイツを倒せ! え〜と…『ボルトクラッシャー』……だっけ?」
待ってましたとばかりに走り出し、一気にレイヴンとの間を詰める。と同時に腰だめで構えた左に比べかなり大きな右腕を思い切り突きだした。
「スピードは上がっているようだが……まだ遅い!」
先程と同様風の障壁がその拳を阻む。だが、拳は風の障壁で完全に止まりはしなかった。
「……ぬ?!」
レイヴンの指摘通り、『スピード』は彼の予測範囲内だった。しかし、その『パワー』は彼の予測を超えていた。
「ぬぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
地を踏みしめる両脚だけでは足りない、とばかりに肘のあたりからも小型のスラスターが展開され、プラズマのような光を最大出力で吹き出す。
(此奴のパワー………侮れん…!)
単純に「出力」だけを鑑みれば、これまで戦ったなかでは最も強い。だからといって『最強』であるわけではないが、目の前に迫る拳を見ていればそれが彼にとって後の脅威であることは言うまでもない。
「くっ……調子に、乗るなぁっ!」
レイヴンが吼えると、かざした両腕から竜巻のような暴風が生まれ、ボルトクラッシャーを跳ね飛ばす。
「チィ、やっぱ一筋縄じゃいかねぇか…!」
そう言うとボルトクラッシャーは足の裏のキャタピラをフル稼動させて再度レイヴンに突撃をかける。ただし、今度は『途中から肘部のブースターを利用した横回転をプラスして』である。
「喰らいィィィやがれェェェェッッ!!」
コマのような回転で先程より更に加速し、オマケとばかりに拳にありったけの電撃を込める。
「うぉぉぉぉッ……… 電光ゥゥ、雷ッ迅ンン……拳ッ!!!」
金色の拳が、見えない壁にぶち当たる。だが、先程とはうってかわって今度は拳が壁を打ち砕いた。
「ぬぅっ!」
後方へ吹き飛ばされるレイヴン。だがそこの身体は地には着かなかった。
「?!」
突如レイヴンの身体が半透明の球体に包まれ、本人の意思とは無関係に身柄を拘束したのだ。
「精霊との戦闘は命令違反。」
ふいに上空から声がした。その先を見ると、ローブを纏った少年が2人浮かんでいた。
「くっ、お前たちか……」
少年たちは声を揃えレイヴンに言い放つ。その言葉に遠慮などはまるで見えない。
「私達はいつまでも遊んでいるあなたの代わり。速やかに任務を遂行する。」
そう言うと、レイヴンと同様の球体がこれまで暴れ続けていた怪物を包み込む。しかしレイヴンの時とは異なり、その巨大な球体は一気に収縮し拳大の大きさとなって片方の少年の掌に収まった。
「任務完了。これより帰投する。」
あまりのあっけなさに一同が唖然としている中、少年たちは忽然と姿を消していた。
目を覚ました朱鷺子はまず最初に保健室らしい部屋の中、自分のすぐ横で怒っているのか泣きそうなのか分からない表情で自分を覗き込む息子の顔を見た。
「どうしたの、そんな顔して……?」
真剣な息子の問いに、朱鷺子は思案を巡らせた。
「ん〜……あ、そうそう。避難したときにあなたがいないことに気がついて、探しに行ったのよ。」
まだ寝惚けていそうなほんわかとした口調と笑顔で言う。
「頼むから、今後はああいうことは止めてくれよ……心臓に悪いから。」
相変わらずの微笑みを浮かべる母に、苦笑いしながらそう呟いた。
「あ! やっと見つけた! ったく、何処いってたんだよ〜!」
そこに、別の少女が声をかけてきた。慌てて走ってくる少女は黒髪の少女と同じくらいの年だろうか。服装や髪型からは活発そうな雰囲気である。
「ごめんなさい、ちょっと………彼らのことが気になったものだから。」
僅かに目を伏せ、それでも何か嬉しそうな笑顔でもう一人の少女に言う。
「……『彼ら』?」
もう一人の少女はその言葉に首をひねる。だが、黒髪の少女は笑顔のままこういった。
「大丈夫……きっと、もうすぐ逢えるわ。」
もう一人の少女は更に疑問を深め首をひねるが、それ以上何も言わずに歩き出す黒髪の少女に付いてその場をあとにした。
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