怒りに任せて飛び出した光海は、一人延々と海岸線を歩き続けていた。
 それにしても、まったく否がないはずの光海が罪悪感を感じるのは、やはり惚れた者の弱みか。
 楓に当たり散らすように怒りを露わにした自分に激しい自己嫌悪を抱きながらも、陽平に対する不満が嵐のように押し寄せてくる。
 昔からそうだ。陽平が絡むと自分で自分を制御できなくなる。嬉しいことも、悲しいことも、悔しいことも。
 足を止め、波打ち際まで歩みを進めると、光海は先ほどの陽平のように前のめりに倒れ込んでみる。

 跳ねる飛沫に顔をしかめながらも、冷たい海水が血が上った頭には心地よかった。
 このままこうしていれば、海は自分をさらってくれるだろうか。そうしたら陽平は、必死になって探してくれるだろうか。そんな考えに至る自分がなんだか悲しくて、光海は涙を濁すように息を止めて海水に顔をつけた。
 そんなことをしても、すぐ肺に新鮮な空気を求められ、勢い良く顔を上げる自分があまりに惨めで。上体を起こして座り込み、光海は大きく呼吸を繰り返した。
 いい加減戻らなくては、みんなが心配してしまう。砂を払って立ち上がり、嫌な自分はこの場に置き去りにして踵を返そうとしたそのとき…。
「光海…」
 突然背後から覆い被さる人影と、どこか懐かしさを感じる声に、大きく見開かれた両の眼が定まることなく揺れ動く。
 誰かに抱き締められた。そう気付いたにも関わらず、光海は自分を掴まえる二本の腕を振り払うことができずにいた。何故なら、こんな抱き締め方をする人物を、光海はただ一人だけ知っていたからだ。
「光海…」
 慈しむように囁かれた名前。そういえば、あの人はいつもそんな風に名を呼んで、自分を見守ってくれていた。
「お兄ちゃん…?」
 恐る恐る、確かめるように口にした言葉はどこか懐かしく、そして胸に暖かかった。
 僅かに強くなる抱擁にドキッ、と胸を鳴らせながら、意を決して振り返ったそこにあった顔に、光海は嬉しさから満面の笑顔を浮かべた。
「やっぱり…、お兄ちゃんっ!?」
「光海、久しぶりだ。見違えるほど綺麗に……素敵になった」
 そんな台詞を恥ずかしげもなく口にする青年──蓬莱光洋に頬を染めながらも、実に9年ぶりに再会した義兄の姿に自然と頬が綻んだ。
 抱擁を解かれて改めて向き合う光洋は、軍に入るためと別れたあの頃に比べ、陽平よりもずっと背が高く、陽平よりもずっと力強い体格になっていた。
 大人になったのだ。そう認識した瞬間、今までこの腕に抱き締められていたんだという恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
「光海……なにかあったのか」
 恥ずかしさから顔を背けたのを不調と取られたらしく、光洋は心底心配しているとばかりに不安の表情を浮かべる。
 咄嗟に「なんでもない、大丈夫」と言おうとした光海であったが、ふと自分が独りでいた理由を思い返した途端に片時も頭から離れない少年のことを口にしだしていた。
「ねぇ。お兄ちゃん、ヨーヘーのこと覚えてる?」
 陽平の名を耳にした光洋の唇がつり上がる。しかし、それも一瞬のこと。すぐに優しい兄の顔に戻った光洋は、光海の言葉にさも当たり前のように「もちろんだ」と相槌を打つのであった。






 血が足りていないのか、陽平は朦朧とする頭を抱え、横たえられていた自身の身体をゆっくりと起こしていく。
 なんだか天国と地獄を交互に、しかも連続で味わっていたような気がするのだが、意識に霧がかかったように上手く思い出すことはできなかった。
「そういや、琥珀さんは…」
 確か一緒に泳ごうと陽平から誘い、それを了承されたはずだ。さらには目の前で…。
 そこまで思い返し、陽平は勢いよく頭を振り乱す。
「ったく、なんつーことを思い出してンだよ俺は…」
 よりにもよって、風雅の当主のスト──
「ええいッ! 忘れろ俺っ!!」
 はたから見れば完全に危ない人に見える苦悩っぷりを疲労しつつ、陽平は跳ねるように立ち上がった。
 いったいどれくらいの間、生死の境を彷徨っていたのだろうか。陽の角度から察するに、それほど経っていないことが伺えるが、さすがに正確な時間まではわからない。
 ぐるりと周囲を見回すが、近くにいたはずの仲間たちが見当たらないことを考えると、なにかあったのか、それとも気を使われたのかのどちらかだろう。
 きょろきょろと周りの様子を伺いながらビーチパラソルに歩み寄れば、真っ二つに割れたスイカの皮が転がっている以外にめぼしいものは見つからなかった。
というか、このスイカは二つに割った後でくりぬいて食べたのだろうか。そもそも、もう半分はいったいどこに。そんなどうでもいいことを考えながら、陽平は拾い上げたスイカの皮をテーブルに乗せておく。
 仕方なく、瞳を閉じて知覚領域を広げると、聴覚と気配を頼りに周囲で動くものを探してみる。
 動く気配が四つ。どうやら四人がバラバラに動いているようだが、柊たちは一緒に遊んでいたのではなかっただろうか。
(とりあえずは翡翠をつかまえにいくか…)
 他の誰よりも、まず主の安全を確保する。仲間たちと合流するのはその後でも十分だ。
 動く気配から翡翠を探し出すと、陽平は苦もなく砂辺を走り抜けていく。
 以前と比べると、やはり身体が嘘のように軽い。少しは修行の成果があったかと、陽平は内心安堵の息を漏らすのであった。
「翡翠」
 見つけた主はなにやら探し物中らしく、きょろきょろと忙しなく首を振っている。
 しかし、一度陽平の姿を見つければ、その視線も、足も、ただ一点に目掛けて吸い込まれていく。
「ようへいっ」
 駆け込んでくる翡翠を抱き止め、頬についた砂を払ってやる。
 いつも以上に子犬っぽい仕草を見せる主に苦笑しつつも、喜ばれるものだからつい頭を撫でてしまう。
「なンか探してたのか?」
「みつみ」
「光海? あいつならそんな遠くに行ったりしねぇだろ」
 そもそも、陽平的にはまず雅夫を探したいところである。というか、すぐにでも見つけ出し、何ゆえ翡翠が紺一色の、いわゆる旧スクと呼ばれるスクール水着を身に着けているかという疑問を叩き付けてやらねばならない。
(似合いすぎてるだけに、どこからツッコミ入れたらいいかわかンねぇけどな…)
 というか、そんな疑問を抱く前に光海を探し出してやらねばならない。事情はわからないにしたって、翡翠がそれを求めているならそうするまでだ。
「ちょっと待ってろ。すぐに見つけてやっからな」
 陽平の言葉に頷き、黙って左手にしがみついてくる翡翠に目を細めると、陽平は再び知覚領域を広げていく。
(三つが近付いてくる。こいつは柊たちか…)
 知覚領域を広げられるとはいえ、そんな何キロも先を認識できるわけもない。
仕方なく目視で探すかと周囲を伺うが、思った以上に見通しの利かない地形のようだ。なるほど。それゆえに柊たちは手分けして光海を探していたのか。
「どう?」
 少し不安の表情を見せる翡翠に、陽平は心配ないと優しい笑みを浮かべる。
 柊たちに合流するよう翡翠の手を引いて歩き出すと、五分も歩かない内に柊、楓、孔雀の三人と合流することができた。
 なんでも砂辺を虱潰しに探していたらしいが、それで見つからないというのも大した話だ。
「ってか結局のところ、なんであいつがいねぇなんてことになってンだよ」
「それは先輩が悪いからです」
 間髪入れずにきっぱりと答えられ、陽平は思わず助けを求めるように柊へ視線を移す。
「アニキが悪い」
 ……孔雀へ。
「えと、やっぱり……陽平さんのせいかと」
 ……翡翠へ。
「ようへいがわるい」
 味方は全滅した。
 針の筵という言葉があるが、こういうことを言うのだろうか。などと考えつつも、自分が光海になにをしたか思い返してみる。
「……ひょっとして、一緒に遊ばなかったからか?」
 そういえば、修行のことばかりに頭がいって、かなり素っ気なく追い返してしまった気がする。陽平にしてみればいつものことなわけだが、それを口にしようものならば、間違いなく今ここで八つ裂きにされかねない。
「それもありますが、先輩は少し、光海先輩に関心がなさすぎる気がします」
 楓の言葉に思い当たる節があるのか、陽平は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。それは、ようやく塞がりかけていた傷跡を無理矢理拡げられた感覚に近いものがある。
「アニキ、ダメだよ。光海さんは普通の人なんだしさ…」
「だめ」
 柊に続いて翡翠にまでツッコまれた。しかし、それくらいで変わるならば陽平と光海の仲などとうの昔に変わっているはずなのだ。
 だが、それ以上に陽平の中には、なにやら言い知れぬ感情が沸き上がっていた。
「普通……ね。じゃあ普通じゃねぇ方が良かったみてぇだな」
 そんな陽平の言葉に、誰もが息を詰まらせる。そもそも、なにを基準に普通を語るのか、陽平にはわからなかった。
「とにかく、光海は俺が探すから。片付け頼むわ」
「はい。心得ました」
 孔雀の返事にひとつ頷くと、陽平は翡翠を任せてその場を走り去っていく。
 どうしてこう、自分の周りにはお節介を焼きたがる連中が多いのだろうか。
 砂辺を駆け抜けながら、陽平はただ光海のことだけを想い知覚領域を広げていく。
(俺がどう思おうが、そいつは光海の気持ちじゃねぇ…)
 そんなこと、誰に言われるまでもなくわかっていることだ。
 普通…。そう、陽平と光海の普通はこんなものじゃない。こんな、互いに踏み込むことを恐れ、ぎくしゃくするような関係ではなかったはずだ。
(普通じゃねぇのは俺…。それとも光海か…)
 あるいはその両方。
 ふと、陽平の知覚領域になにか巨大なものが入り込んだ。凄まじい威圧感に加え、怒気や殺気にも似た視線が見下ろすような感覚に、陽平は足を止め、周囲を注意深く探っていく。
(このバカにデカい気配…。いや、そんなことよりこの視線、覚えがあるぜ)
 それは、腐獣王カオスケラードストライカーと戦ったときに在った、もう一つの存在。
「海王レイガか…!」
 海王が姿を見せる気配はない。しかし、これは間違いなくあの忍巨兵の気配だ。
「ちっ、隠形機能かよ…」
 だが、海王がここにいるということは、近くにあの狂気の塊のような忍びがいる可能性が極めて高い。光海が見つからないことも、その相手と接触したからと考えれば納得がいく。
「クソがッ。こうなったら意地でも引きずり出してやる」
 水着の状態でそんなものをどこにしまっておいたのか、蒼い勾玉の獣王式フウガクナイを取り出した陽平は、蒼天の忍巨兵──竜王を呼び出そうと、その切っ先を空へと向ける。
「風雅流ッしょ──」
 だが、竜王を呼び出すより先に視界へ飛び込んできた光景に、陽平は思わず絶句してしまう。
 薄透明のガラス越しに見ているようなその光景は、良く知った少女が映っているはずなのに…。それなのに、まったく知らない人であるかのような印象を強く受けた。
「光海…」
 思わず呟いた陽平の声が届いたかはわからない。だが、光海が……物心ついた頃から互いに知らないことなどないと思っていた幼馴染みが知らない男と抱き合い、口付けを交わしているという受け入れ難い光景に、陽平は手にしていた獣王式フウガクナイを取り落とした。






 一瞬、なにが起こったのかわからなかった。
 陽平とのことを相談していたはずなのに、どうして自分は義兄とキスしているのだろうか。
 陽平のことで、これ以上傷つかないように守ってくれる。義兄は、光洋は確かにそう言った。優しい声で、優しいまなざしで、優しい温もりで。そして気付いたときには光洋の顔がすぐそばにあって、驚いたときにはキスをしていた。
 ゆっくりと離れていく唇に、焦点が上手く合わない。なにか言いたいはずなのに、なぜか声が出てくれない。
「光海、お前は俺が守ってやる」
 再び紡がれる言葉に、自然と光海の唇が震える。
「お兄ちゃ──」
 そのとき、すぐそばから聞こえてきた、なにか重たいものが砂に落ちた音に、光海は弾かれるように振り返った。
 そこに立つのは、光海が欲して止まなかった温もりの少年。その顔は凍り付いたように蒼白で、驚きの表情が今の出来事を目撃されたことを否応なしに物語っている。
 互いに視線が定まらないまま、名を呼ぶことさえ忘れ、ただ無言で見つめあう。
「来たな。獣王の餓鬼が…」
 突然、光海を背に隠すように前に出る光洋に、陽平は素早く獣王式フウガクナイを拾い上げる。
「消え失せろ。光海を惑わせるだけに飽き足らず、俺の視界までも汚すつもりか」
 剥き出しの殺気をぶつけられ、ようやく正気に戻った陽平は、光洋の刺すような視線に訝しげな視線を返す。
「俺はお前のことなんか知らねぇよ。それよりも人のダチに汚ぇ手で触ンじゃねぇ…!」
 射抜いてしまいそうな視線を真っ向から押し返し、陽平は手にした刃を光洋の眉間に突き付ける。
 だが、刃物など恐ろしくはないとでもいうのか、光洋はそんな陽平が滑稽だと言わんばかりに嘲笑う。
「汚いか。だが、実際汚いのはお前だろ。隠れ、逃げ、偽ることしかできない忍者気取りの餓鬼風情が」
「あンだとッ!!」
 尚も食ってかかろうとする陽平に、先に動いたのは光洋だった。無造作に間合いを詰め、その長い脚と鍛え抜かれたバネから繰り出される蹴りが、瞬く間に陽平の腹部に突き刺さる。
 もんどりうって転がる陽平を一瞥しながら、光洋は再び光海を庇うように前に歩み出す。
「お前には覚悟が足りない。守るための覚悟も、殺すための覚悟も。中途半端に吠えるだけなら犬にだってできる…!」
 忌々しそうに言葉を吐き捨てる光洋に、すぐさま立ち上がった陽平の目付きが鋭く変化する。
 思わず寒気を感じるほどに冷たい視線に、光洋の笑いが一瞬だけだが確かに凍り付いた。
「あるさ。その程度の覚悟ならてぇめぇなンかよりずっとな…」
 もう恐ろしいとは感じない。守るために自分が傷つくのも、誰かを殺める痛みも。それを覚悟というのなら、陽平の覚悟はそんなものをとっくに超越している。
「つーか、よ。やっと思い出したぜ。てぇめぇ、俺たちがまだほんのガキだった頃、光海の家にいた……確か、名前は光洋とかいったな」
 それを思い出した瞬間、すべてに合点がいったとばかりに陽平の鋭さが消えていく。
 この光洋という男は昔からそうだった。行動基準はすべて光海で、それ以外はすべて敵でしかない。当時、まだ幼かった陽平は、光洋をよく睨む年上の男£度にしか認識していなかったが、どうやらその認識を改める必要はなさそうだ。
「だったらなんだという。俺と光海を祝福でもしてくれるのか?」
「ふざけろッ!! 光海の気持ち無視しやがって…。そんなンで兄貴面かよ、反吐が出るぜ…!」
「光海の気持ちならわかっている。事実、光海は俺を受け入れた」
 吠える陽平に毅然と言い返す光洋に、光海の頬が紅潮する。しかし、それは瞬く間に恐れの表情に変わり、揺れる視線が陽平と光洋を交互に行き来する。
「私は…」
 陽平が好きだ。その気持ちに嘘偽りはないし、それが一番だと自信をもって言える。しかし、光洋とキスをしたこともまた事実。これだけ好きだなんだと言っておきながら、自分の気持ちを裏切るような真似をした自分に、光海の思考は半ばパニック状態に陥っていた。
「光海…!」
「光海、放っておけ」
「ぅるせぇッ! てぇめぇが黙ってろッ!!」
 今にも殴り合いを始めてしまいそうな二人の雰囲気に、光海は頑なに瞳を閉じ、必死になって頭を振った。
「やめて。もうやめてぇっ! 私……わからない。わからないよ。もう……わからなくなっちゃったよ」
 自分で自分を抱き締め、崩れるようにその場に座り込む光海の姿に、陽平と光洋は互いに次の言葉を発することができなかった。
 興が削がれたとでもいうのか、身構えた拳を解いた光洋は、踵を返し、肩越しに陽平を一瞥すると、光海の脇を無言のまま通り過ぎていく。
 それが光海を混乱させないための行動だったのか、それともただかける言葉が見つからなかったからなのかはわからない。だが、立ち去る光洋の背中と、それを追うように姿を見せた海王に、陽平は自分に怒り以外の感情を見つけることができなかった。
 気持ちを無理矢理に押し込め、なんとかいつもらしい表情を作った陽平は、定まらない視線になんとか光海の姿を納めると、困り果てたように頭をかいた。
「光海、あのな…」
「ごめん。今は……なにも聞きたくない」
 ここまで頑なに拒絶されたのは、さすがの陽平も初めてだった。かといって光洋のように立ち去ることもできず、どうしようかと散々迷った挙句、陽平はうずくまる光海の隣りに腰を下ろす。
 どうしてそうしたかなんて、陽平自身にだってわかるはずがない。ただ、強いて言えば他に思い付かなかったのだ。そうすることで、光海がいつものように立ち直ってくれると思った。
 光海の隣りで、手持ち無沙汰に海を眺める陽平は、重苦しい沈黙に耐えながら、ちらちらと光海の様子を伺っていた。
 いつも悩んでいる幼馴染。いつも悩んで、苦しんで、それでもずっとついてきた少女。そんな光海の苦しみを、ひとつでも和らげてあげられたら…。そう思ったとき、既に陽平の手は光海の頭に置かれていた。
 突然の出来事に震える光海を気にかけながらも、陽平は優しく……できるだけ優しく、そっと頭を撫で続けた。子供をあやしているわけではないのだが、不器用にもそんな方法しか思いつかない自分に、陽平は内心苦笑する。
 かける言葉はない。そもそも言葉は拒絶された。だからこうして傍にいる。傍にいることがわかるように、温もりを共有できる場所にいる。しかし、それだけじゃ…
(それだけじゃ……だめなのか)
 心で思うだけでは伝わらない。上手く言葉にする自信もない。人の心が見えたらいいのにと思うが、そんなことは出来ないからこそ、人は一生懸命に伝えるんだ。だから考える。必死になって考える。バカはバカなりに考える。どうしたらいいのか。どうすればいいのか。どうしたら、自分たちは元の鞘に納まるのか。
 ゆっくりと日が沈む海を眺めながら、陽平は自然と光海を抱き寄せていた。
 自然すぎて、それが当たり前だと思ったから。だからこそ、陽平は柊たちが迎えにくるまで、ずっとそうしていた。
 もう、夏も終わる。不意にそんなことを考えさせられる冷たい風が、二人の間を吹き抜けていった。












<次回予告>