「この戦いがこの時代での最後の戦いになる。この戦いが終わったら……俺は……他のヴァルキリーの様に力を回復するため、石になるんだ」
ジークは寂しそうにそう言うと彼はキリクの両手に持っている無数の石に眼をやった。
「これが終われば、キリク君には……もう2度と会う事は出来ないだろう」
もう2度と会う事はない……その言葉にキリクは必死に涙を堪えていた。
「……ジーク兄ちゃん……さよならは言わないよ……今はね。だから……だから必ず戻って来て! 僕は待っているから! そして……僕の前でサガストーンになって! サヨナラはその時に言うから」
キリクの必死の言葉にジークは静かに頷いた。
「分かった。必ずキリク君の元に帰ってくるよ。俺もさよならはその時に言うから。……それじゃあ……行って来るよ」
ジークはキリクに背を向けて歩き出した。
「待って!」
「!!」
ジークはキリクに呼び止められ振り向いた。
「何だい?」
「これを……これをジーク兄ちゃんに預けるよ」
キリクはポケットから1つの指輪を取り出し、指輪をジークに渡した。
「……これは?」
「僕の宝物だよ。この戦いが終わって僕の所へ帰って来たら僕に返してね。これは帰ってくる約束の印だから!」
「……わかった」
ジークは指輪を右手の中指にはめた。
「ジーク兄ちゃん……行ってらっしゃい!」
キリクは笑顔でジークを見送る事にした。
これが最後の別れではない、まだ会える!ならば安心して笑顔で目の前の勇者を見送ろう。
「ああ! 行って来る!」
ジークは振り返り、走ってキリクの元を去って行った。
勇者神記ファングラム
ジークは角笛を取り出し、角笛を吹いた。
──ブオオオ!!
角笛の音は遠くまで鳴り響いていた。
──グオオオオ!
角笛の音で巨大な銀色の狼が召喚され、狼は咆哮した。
「融合合神!」
ジークは狼の中へ融合され、狼は後ろ足で立ち上がった。
次に前足が腕になり、爪は腕に装着され、新たな手が現れた。
更に狼の頭が下向きに胸につき、首の無い人型ロボットになった。
最後に人型の頭部が現れ、狼は人型ロボットに変形した。
「地上神ファングラム! いでよ! カイザーバーン!!」
巨大な竜が空から舞い降りた。
「光呀合神!!」
カイザーバーンが起き上がり、胸のパーツが左右にスライドして肩のアーマーに変形し、カイザーバーンは胸部と頭部の無い人型の巨大ロボットに変形した。
「とぉっ!」
ファングラムが飛び、ファングラムの胸の狼の頭が水平に上がり、腕が上にスライドし、前に水平に倒れ、両腕が合わさり、狼の顔の下につき肩にある角が下に倒れて上顎の牙になった。
次に足が前に水平に倒れ、両足が合わさり、下顎の牙になった。
巨大な狼の頭部に変形したファングラムが人型に変形したカイザーバーンの胸部に納まった。
更にカイザーバーンの頭部がファングラムの頭部に被さり、顔がマスクに覆われた。
そしてカイザーバーンの手の爪が腕に装着し、新たな手が現れた。
最後にカイザーバーンの尻尾が消滅し、頭部の眼に光が灯った。
「天空神! カイザァァァファングラム!!!」
「カイザーファングラム、もういいのか?」
剣神テュールソーディオンが空中からカイザーファングラムの元へ降りた。
「ああ、もう大丈夫さ。それよりすまないな、他のヴァルキリーがサガストーンになったというのに君を最後の戦いにつきあわせてしまって」
カイザーファングラムを除くと唯一サガストーンになっていないヴァルキリー、それがテュールソーディオンである。
「気にするな。ほとんどの巨人がダークストーンになっているとはいえ、まだ暴れている奴らがいる。今の時代の人間を護る為にも必ずこの時代の巨人を倒さなければな」
何故彼だけがサガストーンになっていないかというとそれには理由がある。
「チェーンジ!」
テュールソーディオンは巨大な剣に変形し、カイザーファングラムは剣を手にした。
「カイザーファングラムテュールセイバー装備モード! さあ! 巨人を倒してこの地に戻ってくるぞ!」
カイザーファングラムは最強の剣を手にして飛び立った。
決戦の地へ
カイザーファングラムはガルム率いる巨人の軍団と交戦した。
ヴァルキリー側はカイザーファングラムと剣状態のテュールソーディオンに対し、ガルム軍は30体であった。
数ではガルム軍の方が圧倒的有利であったが、カイザーファングラムはテュールセイバーを使って苦戦を強いられながらも、ガルム軍の兵を減らしていった。
「はああああ!」
──ザシュッ!!
「ぐおおっ!」
カイザーファングラムに斬られた巨人が光に包まれて消滅した。
「残る巨人はお前だけだ! ガルム!」
カイザーファングラムは巨人の軍団の首領ガルムの戦闘状態ケルベロスガルムに向かって言い放った。
「たった1人、いや2人で俺の軍を全滅させるとはさすが勇者神ヴァルキリーのリーダーだな。だが、満身創痍の身体で俺に勝つ事が出来るのか?それは無理だな。お前はここで殺し、この時代は俺が支配し、後世に甦った巨人でミッドガルドを完全に巨人のものにしてやる」
ケルベロスガルムは槍を召喚し、右手に持った。
「黙れ!! はああああ!」
カイザーファングラムはケルベロスガルムに斬りかかった。
「ふんっ!」
──ガキン!
ケルベロスガルムは槍でテュールセイバーを受け止めた。
「はっ!」
カイザーファングラムは後ろに跳び、距離を置いた。
「次はこっちの番だ。はぁっ!」
ケルベロスガルムの両肩にある猟犬の口から炎の球が吹き出され、次々とカイザーファングラムに向かって飛んで行った。
「たあっ!」
カイザーファングラムは襲い来る炎を全て斬り消した。
「なかなかやるな。ならばこれならどうだ?ケルベロスバースト!!」
ケルベロスガルムの両肩、胸にある邪悪な猟犬の口が開いた。
「死ね!!」
開かれた各口からバースト砲が発射された。
──ズドオオオオ!!
「はぁっ!!」
カイザーファングラムはテュールセイバーでケルベロスバーストを受け止めた。
「くっ!!」
テュールセイバーとケルベロスバーストは激しくぶつかり合っている。
「受け止めたか。しかしいつまで持つかな? はぁぁぁああっ!!」
ケルベロスガルムが力を込めるとケルベロスバーストの出力は増加した。
「何!?」
威力が増加したケルベロスバーストによってテュールセイバーが弾き飛ばされ、カイザーファングラムはケルベロスバーストの直撃を受けた。
「うわああああ!!」
カイザーファングラムは地面に倒れ込んだ。
「ぐっ……」
カイザーファングラムは身体を回転させてテュールセイバーを拾い、テュールセイバー地面にさして杖代わりにしながら立ち上がった。
「ほぉ、まだ生きているとはしぶとい奴だ。これでトドメを刺してやる。ケルベロスバースト!!」
再び猟犬の口が開いた。
「く……破壊力が高い……このままでは……」
「カイザーファングラム! ティールスラッシャーを使え!」
テュールソーディオンが剣状態のままカイザーファングラムに話し掛けた。
「ティールスラッシャーは駄目だ! 今のダメージではテュールソーディオン、君が耐えられなくなる!」
ティールスラッシャーはテュールセイバーを装備する事で使える威力の高い必殺技であるが、テュールソーディオンに対して反動がくる技である。
普段ならこの反動に対して影響は無いが、ダメージを負っている今ではテュールソーディオンの命と引換えに使える諸刃の剣である。
「俺の事は気にするな!! ティールスラッシャーを使わなければ、二人とも死ぬ運命になる! カイザーファングラム、お前はここで死んではならない神だ! お前はこの戦いに勝利し、遥かなる時の先で必ず起こる勇者神ヴァルキリーと巨人との最終決戦で他のヴァルキリーの中心になって戦わなければならないのだ! 人々や息吹く全てのものの可能性を護るために!!」
「…………」
カイザーファングラムには答える事が出来なかった。
「カイザーファングラム!!」
「……わかった」
カイザーファングラムは決心し、剣を下段に構えた。
「何をごちゃごちゃ言っている! 死ね!!」
ケルベロスガルムの胸、そして両肩にある猟犬の口から再びバースト砲が発射された。
「行くぞ! テュールソーディオン!!」
「ああ!!」
カイザーファングラムは低空飛行のままケルベロスガルムに突撃した。
「死ね、ケルベロスバースト!!」
──ズドオオオ!
ケルベロスガルムの放ったケルベロスバーストが再びファングラムを直撃した。
「ぐっ!! だが! 俺は負けない!! うおおおおおお!!」
カイザーファングラムはバーストの中でも怯む事なく、突進を続け、ケルベロスガルムの懐へ入った。
「刻め!! 勝利のルーン!! ティィィル! スラッシャァァー!!」
──ザシュッ!!
カイザーファングラムはティールセイバーでケルベロスガルムの身体を斬り上げた。
「ぐおおおお!!」
「たああああ!」
──ザシュッ!
次にカイザーファングラムはテュールセイバーを左斜め下に斬り下ろした。
「まだだ!! うおおりゃああ!!!!」
──ザシュッ!!
更に最初に斬り上げた所まで剣を戻し、今度は右斜め下に斬り下ろした。
つまり、ケルベロスガルムの身体にはルーン文字のティールが刻み込まれた。
「な、何だ!?」
ケルベロスガルムの身体に刻まれたティールが光りだした。
「そ、そんな馬鹿なぁ!! ぐわああああああああ!!!!」
ケルベロスガルムは光に包まれ消滅した。
「浄化完了!」
カイザーファングラムの持つテュールセイバーの周りに光の粒子が集まった。
「テュールソーディオン! 大丈夫か!!?」
「どうやら俺は……ここまでの……ようだ……」
「何も言うな! 早く! サガストーンになってくれ!!」
「それは……無理だ……。俺には……もう……そん……な力は……残って……いな……い……」
「テュールソーディオン!!」
「カイ……ザ……ファン……グラム……生きる……もの……の……可能性……を護って……く……れ…………」
テュールソーディオンが光に包まれ……消滅した。
「テュールソーディオン!!!」
カイザーファングラムはテュールソーディオンの名を叫んだ。
しかし、辺りにカイザーファングラムの叫びが響くだけで何も起こらなかった。
「くっ!! ……この時代での戦いは終わった……。キリク君の元へ帰ろ……!!!」
──ドタッ!!
カイザーファングラムはその場に倒れた。
そしてカイザーファングラムの周りに光の粒子が集まり、カイザーファングラムからファングラム、ファングラムからジークへと状態が戻った。
倒れているジークの隣には竜神獣カイザーバーンがサガストーンになった状態と狼神獣ファングが角笛に封印されている状態で転がっていた。
「俺も……さっきのが……限界だったみたいだな……。だけど!!」
ジークは立ち上がろうと腕で地面を押した。
──ドタッ!
力が抜け、ジークは再び地面に倒れた。
「キリク君……どうやら……君との……約束は……護れ……そうに……な…………」
ジークは光に包まれ、光が消えた頃にはジークの姿は無く、サガストーンがもう1つ転がっていた。
ただそこには2個のサガストーンと1つの角笛が転がっているだけだった。
時が経った。
「ジーク兄ちゃん……」
少年は2個のサガストーンと1つの角笛を拾い上げた。
次回予告
ジーク
「時が流れ、歴史が神話となった時、神話は再び動き始める。
舞台を現在(いま)に変えて! 襲い来る悪を倒すために。
そして……小さな少年の持つ大きな勇気を護るために今こそ甦れ勇者神ファングラム!!
次回、勇者神記ファングラム
SAGA・2『勇者神降臨』
今、新たな神話が記される」
<NEXT SAGA>
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