存在する9つの世界の1つ、巨人の世界ヨートゥンヘイム。
 ヨートゥンへイムの屋敷の中にある部屋には闇から現れた例の6人の巨人が集まっていた。
「我ら巨人に対となる存在、勇者神ヴァルキリーが目覚めたな」
 真紅の長髪をポニーテールに纏めているリーダー格の巨人、スルト。
「よりによって勇者神ヴァルキリーのリーダーが最初に復活してしまうとはついていないですね。これからは我々の野望がスムーズにいかなくなりますよ」
 学者のような服装をした知的な巨人、ヴァフスルーズニル。
「がはははは! ヴァフスルーズニルよ、何を弱気な事を言っておる。 勇者神だろうが所詮このわしの敵ではない、この破壊魔フルングニル様が全部纏めてぶっ倒してやるわ!」
 全身重厚な鎧に包まれた大柄でがっしりした体格の巨人、フルングニル。
「それで、誰からいくのかしら?」
 6人の中で唯一の女性巨人ゲルズ。
「もちろんヨートゥンヘイム六大魔の斬り込み隊長であるこの俺様で決まりっしょ!」
 背こそ高いが、フルングニルとは対称的に細身で身軽そうな巨人、スリュムがくるりと宙返りをした後、部屋から出ようとした。
「いや、まずはわしがいく!」
 フルングニルがスリュムの前に立ちはだかり、彼の行く手を塞いだ。
「なんだと、フルングニルやるか!?」
「いいだろう。ここでお前と決着を付けてやる!」
 スリュムとフルングニルは互いに睨み合った。しかし互いを睨みあう両者の視線を剣が遮った。 全身マントに覆われ、頭もフードを被っているため他人からは顔が確認出来ない巨人ロキが2人の視線の間に剣を入れ、両者の睨み合いを遮ったのである。
「なんのつもりだロキ!」
「ロキ、お前もこのフルングニル様自慢の鉄球の錆になりたいのか?」
 いつの間にか2人の標的はロキへと変更されていた。 ロキの顔はフードに覆われていて他人には何を考え、またどんな表情をしているのか全く分からないが、2人の標的になっている事について気を止めている様子は微塵も無かった。
「貴様らが死ぬのは勝手だが、ここで低次元な争いをされるのは目障りだ。誰が先に行くかは我々の物事の決め方に従えば良いだろう」
 そう言うとロキのフードの前部分はゲルズの方を向いた。 今ロキが彼女に何を求めているのかは分かるが、普段この男の考えている事は全くわからない。 そのためゲルズはロキが苦手であった。 いや、ゲルズだけでない、ここにいる他の巨人の多くがこのロキを苦手としていた。 これでもしロリっ娘萌え〜なんて言い出したらどんなにシュールだろうか。 しかし、この男はそんな言葉からどんな生物よりも遠い位置にいる存在であろう。
「……成る程、導きの首ね」
 ふと我に返ったゲルズはすぐ傍にあった球状のケースを外し、首を取り出した。首は真ん中が空いた半円状のオブジェクトの中央の空洞部に浮かんでいた。
「導きの首ミーミルよ、我らに選定者を示したまえ」
 ゲルズの問い掛けにその首は……首から上の部分しか無いのにも関わらずゆっくりと目を開き、そして少しずつその口を開いた。
「……スリュム…………」
 導きの首ミーミルはスリュムの名を示した。 何故このミーミルがスリュムを選定したのか、ここにいる6人にその答えを知る者は誰もいない。 単なる気まぐれか、それとも……何か深い理由でもあるのか……。 しかしどんな理由で決定されたのであれ、選定者の決定を覆す事は誰にも出来ない不変の掟である。
「ケケケ! フルングニル、選定者様が俺様を指名したのだから仕方ないよなぁ。安心しな、例えこれから先何人目覚めようが、勇者神なんかこの俺様1人で全部片付けてやるからな。そして俺様の力でミッドガルドを恐怖と絶望の世界に変えてやる。だから、お前達の出番はこれっぽっちもねぇよ。キャハハハハハ!」
 スリュムは声高らかに不気味な笑い声をしながら部屋から出て行った。




勇者神記ファングラム







「桐斗君、朝だよ」
 誰かが眠っている桐斗に話しかけた。
「うーん……お姉ちゃん、あと5分だけ……」
 意識がまだ半分が眠っているため声の主が誰だか理解できないが、この家は桐斗と美亜の2人で暮らしている。桐斗が眠っているのならば声の主は必然と美亜であろう。 これまでの経験で美亜が桐斗を起こすなんて滅多に無い事であるが、美亜しかいないのならば今日はその滅多な日なのであろう。
「いいけど、桐斗君が食べる朝ご飯がなくなっちゃうよ」
 ……桐斗君?美亜は桐斗の事を桐斗君とは言わない。 ならばこの声の主は美亜では無い。ならば……誰?
──ガバッ!
 桐斗はベッドから飛び起きた。
「やぁ、おはよう」
 そこにはジークがいた。昨日祖父から譲り受けた宝物の石、サガストーンから目覚めた神だ。行く当ても無く、昨日から家の居候となっている。意識が眠っていてその事を忘れていた。
「あっ! ジーク兄ちゃん、おはよう」
「朝ご飯が出来ているよ。顔を洗っておいで」
 そう言うとジークは部屋から出て行った。
「うん。ふぁぁぁっ」
 桐斗はあくびをしながらググッと伸びをし、その後ベッドから降りた。




 桐斗が顔を洗って、ダイニングに行くと豪華な朝食が用意されていた。
「うわー! すごい豪華な朝ご飯。お姉ちゃんが作ったの?」
 美亜が朝からこんな豪勢な料理を作る訳が無い。
今までの経験からそう思うのだが、もしかしたらジークにいい所を見せたくて作ったのかもしれない。 可能性はかなり低いが、一応美亜が作ったのかどうか確認のために聞いてみた。
「ううん、私じゃないわよ」
 やっぱり。
「そうだよね。お姉ちゃんがこんなにすごいお料理を作れるわけ無いからね」
「どういう意味よ!! これはジークさんが作ったのよ」
「ジーク兄ちゃんが?」
 美亜が作ったのでは無いのなら必然とジークが作ったと考えられるものだが、テーブルに並んでいる料理は鮭の塩焼き、煮物、卵焼き、納豆、海苔等々と純和食。 確かジークは北欧の神であったはずだが……。
 桐斗がそう疑問に思っていると料理を作った本人、ジークが台所から出て来た。
「そう、俺が作ったんだ。なんせ料理は俺の趣味の1つだからね」
 やはりジークが作ったようだ。 ならば疑問に思う事は作った本人に聞くのが1番確実だ。
「そうなんだ。でもこのお料理って全部日本料理だよね。北欧の神様のジーク兄ちゃんがどうしてこんな日本料理を知っているの?」
「これさ」
 ジークは本棚から1冊の本を取り出した。本の表紙にははじめてのわしょくと書かれていた。
「あっ! それはお姉ちゃんが買っておきながら、ほとんど読んでいないお料理本だ」
「桐斗、余計な解説はいらないわよ! 」
 はじめてのおりょうりシリーズ、双子の姉妹篠崎あいなちゃんとにいなちゃんが大好きなおにいちゃんのためにお料理を作るというストーリーがあるレシピ本である。 小さな女の子向けの本であるために料理初心者にも分かりやすく書いてある本である。 ただ、双子の姉妹が可愛いとの理由で一部の大きなお兄ちゃん達にも人気があるらしい。 このはじめてのおりょうりシリーズ、1巻のはじめてのおかしはまだしも、2巻はじめてのイギリスりょうり、3巻はじめてのフランスりょうりフルコース、4巻はじめてのタイりょうりと何故かマイナー料理や上級者でないと作ろうとしない料理ばかり発売され、ジークが今回参考にしたはじめてのわしょくは9巻目にしてようやくオーソドックスな料理本となったのである。 美亜は小学生でも分かる本だから自分にも出来ない筈が無い、両親が仕事の為に海外に行って2人で暮らす事になるのだから役に立つだろうと思って買ったのはよいものの、料理するのが面倒なのか、はたまたこのレベルの料理も出来ない程のスキルであったのか定かではないが、1度読んだだけで後は本棚にしまいっぱなしになっていた。
「昨日この本を見付けてね。面白そうだから昨日の夜、部屋で読んでみたんだ。日本料理はどれも初めて作ったからちょっと自信が無いんだけどね」
 成る程、料理が趣味ならばこの豪勢な見栄えは納得出来るかもしれない。 しかし、味はどうだろうか? 和食は初めてだそうだ。 もしかしたら見た目に反して不味い可能性もある。 可能性を護る勇者神なのだからそんな可能性もあるだろう。
「いただきまーす!」
 とりあえず桐斗はジークの料理を食べてみた。
「どうだい?」
「すっごく美味しい! お母さんの作ったお料理よりも美味しいよ!」
 見た目にも増して味も文句無しに美味しかった。 やはり料理が趣味だというのは伊達では無いようだ。
「本当に美味しいですね」
 美亜も味に感動し、勢いよく朝食を食べている。 ダイエットという名の手抜き朝食に巻き込まれた昨日までの日々は一体何だったのだろうか?
「ははは、ありがとう。お弁当も作ったから持っていってね」
 そう言うとジークはテーブルに弁当を2つ置いた。 弁当箱はすでに布に覆われているため中身は確認出来ないが、朝食がこんなに美味しければお昼のお弁当が待ちきれない。
「本当に? わーい!」
「つ……遂に死闘のパン食組から開放されるのね!」
 朝食も手抜きである美亜が昼の弁当を作る訳が無く、この姉弟の昼食は決まって買った弁当かパンである。
「あれ? そういえばお姉ちゃん今日の朝に課外授業あるって言っていなかったっけ?」
 そう言われて美亜は時計を見た。
「……あーーー!!」
 このままでは全力ダッシュをしなければ間に合わない、そんな時間まで時は迫っていた。
「忘れていたんだね……」
「桐斗、私行くから後よろしく!」
 美亜は一気に朝食をかき込んで食べ終わるとダイニングから走って行った。
「美亜ちゃん! お弁当忘れているよ!!」
 ジークは急いで美亜の後を追った。




 美亜が出掛けて数十分後、桐斗も学校へ行く時間になった。時間は普通のペースで歩いて行っても十分間に合う時間である。
「じゃあ、僕も学校に行くからお留守番よろしくね。知らない人が来ても絶対にドアを開けちゃダメだからね!」
 まるではじめてのおるすばんをする子どもに言う様なセリフであるが、昨日までサガストーンに眠っていたジークであるから何を仕出かすか分からない。 もしかしたら新聞購読や牛乳購入の契約をするかもしれないし、怪しい新興宗教に入るかもしれない。 神であるジークが宗教の信者になるというのもいささか変な話ではあるが、入教なんてされたら洒落にならない。 それらを阻止するにはやはり中に誰も入れるなが効果的であろう。 家に誰もいない様に振舞おうとして「中に誰もいませんよ」と逆に人がいる事を証明する言葉を言ってしまう可能性もあるが、とにかく誰かがいる事を証明したとしても怪しい奴は絶対に入れるな!家にさえ入れなければ奴らだって迂闊に行動は出来ない筈である。
「うん。分かったよ」
 桐斗の心配をよそにジークはあっさり、はっきりと答えた。これで大丈夫だろう……多分。
「それじゃあ行って来ます!」
「行ってらっしゃい! 気をつけてね。頑張って勉強するんだよ!」
「うん!」
 不安はたくさん残るが、学校をサボる事が出来ない桐斗は不安を胸にかかげながら家を出て学校に向かって歩き出した。




 いつもと何も変わらない学校。
 いつもと変わらない授業。
 ここだけはいつもと変わらないささやかな日常。
 とにかく、学校では特別変わった事が起きなかったため省略して学校終了。
 いざ、非日常の世界へ!
「ジーク兄ちゃんただいま!」
 桐斗は元気よく玄関のドアを開いた。
「お帰りなさい」
 ジークはエプロン姿で出迎えた。
「ジーク兄ちゃん何なのその格好!?」
 何故に神様がエプロン!?やはり玄関を開けたその瞬間から非日常は始まっている。 そして確か家にはジークに合うサイズのエプロンは無かったはずである。
「この方が家事をするのに動きやすいからね。ああ、エプロンは桐斗君が学校に行っている間に作ったんだ」
「家事?」
 桐斗は家の中を見た。
──キラーン!!
 家の中は埃1つ無いくらい綺麗になっていた。ここまで綺麗に掃除されていれば意地悪な姑がいたとしても口が出せない程のレベルである。
「……これもジーク兄ちゃんがやったの?」
 全く掃除をしていないという訳では無いが、あまりこまめに掃除はしていない。 それが学校から帰ってみるとわずか1日足らずで年末の大掃除の後よりも綺麗になっていた。 桐斗が学校に行っていた時間でそれもたった1人でここまでの掃除をする事が出来るとは……そういう意味では流石神様である。
「うん。やり甲斐があってとても楽しかったよ。そうそう、桐斗君は今から何か用事があるかい?」
「えっ、無いけどどうして?」
 条件反射的にどうしてと尋ねたものの、ジークがこれから桐斗にさせようとしている用事は一瞬で理解出来た。 それはもちろんサガストーンを探し出す事であろう。 サガストーンに眠るヴァルキリーを目覚めさせ、ジークがミッドガルドと呼ぶこの世界を巨人の脅威から護ってもらう。 そのために桐斗の協力は必要不可欠であるとジークは昨日言った。 だからジーク目覚めた次の日である今日から早速仲間捜しを始めようという事なのだ。 桐斗はこれから用事が無いためジークと共に頑張ってサガストーンを探し、新たなヴァルキリーを見つけ出そうと意気込んだ。
「俺がこの家でお世話になるからご近所にご挨拶をしに行こうと思ってね。ちゃんと引っ越し蕎麦も作ったよ」
 引越し蕎麦……傍に引っ越してきたというのをかけて引越しの際に渡す蕎麦であり、今では失われつつある日本の良き伝統文化である。 んがっ!!北欧にそんな文化があるとは考えられない。 北欧の神であるジークが何故にそんな日本の伝統文化を知っているのだろうか?
「何で……北欧の神様が引っ越し蕎麦を知っているの…… なんかジーク兄ちゃんが本当に神様かどうかわからなくなってきたよ…………」
「神に決まっているじゃないか! ファングと合神してファングラムになる事ができるんだから」
 確かに普通の人間は巨大な狼と合体してロボットになる事は出来ない。 その点で言えば彼は間違いなく人間では無く神なのだ。 しかしロボットになればどんな事をしても神なのであろうか? 神に人間の常識は通じない、そういう結果で考えるの1番楽である。
「……ん? ってちょっと待てぇぇ!! 用事って サガストーン探しじゃないの!? 」
「そんな事より今は引っ越しのご挨拶だよ」
「そんな事って……」
 この神様には仲間が眠る石の在り処よりも引越しのご挨拶の方が優先順位が上らしい。 やはり神を人間の常識で当てはめる事は出来ないようだ。




「初めまして。桐斗君の従兄弟でしばらくこの町でお世話になる大神(おおがみ)ジークです」
 まずはお隣の田中さんの家だ。 田中さんには両親が出掛けているので桐斗と美亜はよくお世話になっている。 確かに家族が1人増えたのだから知らせておいた方が良いだろう。
「あらまぁ、ご丁寧にどうも。それにしてもジークって珍しい名前ねぇ、もしかしてハーフかしら?」
「ええ。父がスウェーデン人です。僕はスウェーデンで生まれて育ちました」
 皆さーん!神様が嘘を付いていますよー!
「日本の文化や風習にはまだ慣れていませんが、これからよろしくお願いします」
 引越し蕎麦を知っている者のどこが日本の文化を知らないのだろうか……。
「こちらこそよろしくお願いしますね」




 近所中での引越しの挨拶が終わり、日が少し傾きかけた頃ようやく駆羽家へ戻ってきた。
「神様が嘘なんてついていいの?」
「だって私は神です。これからよろしくって言って誰が信じる?」
 私は神だ!
 …………
「う……確かに。そんな事より! 他のサガストーンは一体どこにあるの?」
「さあ?」
 さあ?探せと言っておいて、さあ?とは何とも無責任な言葉であろうか。
「さあって、どうやって探せばいいの!?」
「うーん、テレビとかでやっているかもね」
 いくら世の中が便利になったとはいえ、サガストーンの在り処をテレビが教えてくれる程便利な世の中にはなっていない筈だ。
「やっているわけ無いよ! もっと真剣に考えて!!」
──ポチッ
 ジークは桐斗の言葉に耳を貸さずテレビをつけた。
「私は今、月見市市民館の北館で行われている世界宝石展に来ています。見てください、こんなに大きなルビーにサファイア、ダイヤモンドが展示されています。会長さんにお話を聞いてみましょう。こんにちは」
 ジークが付けたテレビにはローカルの情報番組が放送されており、番組では地元の市民館で行なわれている宝石展を特集として取り上げ、この番組の看板である人気リポーターが月見市民館に来ていた。
「宝石か、なかなか綺麗だねぇ」
 この神様は番組に魅入っている。 サガストーンは一体どうなったのだろうか?
「こんなに豪華な宝石ばかり飾っていますけど、セキュリティーは万全なのでしょうか?」
「ご心配ありません。この展覧会のために最新の防犯対策を施しました。爆弾でも落ちてこない限り安心です」
 会長は自信満々にそう答えていた。
 爆弾を積んで宝石を盗もうとする大胆すぎる泥棒なんて果たしているのだろうか?
「確かに人間相手なら万全だね」
 ジークが人間相手ならと答えた。 ……人間相手?
「人間相手?」
「巨人の中に盗賊魔スリュムってのがいてね、人間からいろいろな物を盗むんだ。もちろん宝石もね。奴らなら爆弾くらいは平気で落としてくるよ」
「へぇ、あ……あぁーーーー!!!!」
 いつの間にか自分の街で行われているこのイベントの取材に興味を惹かれ、彼自身もサガストーン探しを忘れつつあった。 しかし、ある宝石が映し出された時、桐斗は突然大声を上げた。
「どうしたんだい? いきなり大声なんて出して」
「あれ! あれ!」
 そう言いながら桐斗はテレビを指差した。テレビの画面ではとある石がアップで映されていた。
「おや? これはサガストーンじゃないか。まさか本当にテレビでやっているとは……俺が眠っている間に本当に便利な世の中になったものだねぇ」
 これは偶然か?偶然にしては神懸りすぎていないか? それとも神とはそういうものなのだろうか? 否、今はそんな事を考えている場合ではない!
「早速行こうよ!!」
「なお、この月見市民館の南館では兵器の大展示会をやっており、防衛隊が実際に使用した銃や戦車等が展示されてお……」
 桐斗はテレビのスイッチを切り、家を飛び出していった。




月見市民館
「馬鹿言うんじゃない! そんな作り話でここの大切な宝石をやれるわけが無いだろうが!」
 案の定桐斗は会場内の男性警備員に注意されていた。 確かに警備員のおっしゃる通りだ。 ここに飾ってある石の中に神様がいる。 その神様を目覚めさせるために石を譲ってくれ。 常識から言うと当然そんな理由で「はい、いいですよ」と簡単に石を譲ってくれない事くらい生まれて9年と数ヶ月しか生きていない桐斗でも分かる。 だが、今は常識なんて糞喰らえの時だ。
「だから本当の事なんだって!」
 こっちには神様が付いているんだぞ! その神様は今、別の宝石を見ているけれど……。
「どうしたのかね?」
 桐斗の元に初老の男性がやってきた。この男性は先程のテレビに映っており、会長と呼ばれていた。この人がこの宝石展の責任者という訳である。
「あっ! 会長。この子供が訳のわからない事を言ってここの宝石を欲しがっているのですよ。すみません、すぐに追い出します」
 そう言うと警備員は桐斗をひょいっと抱きかかえて桐斗を入り口まで追い出そうとした。 それに対し桐斗はここで諦めてなるものかと足をバタバタとさせて必死の抵抗をした。しかし必死の抵抗も虚しく警備員は桐斗を下ろそうとしなかった。
「これこれ、私に任せなさい。僕、ここにある宝石はどれと凄く貴重な物なんだよ。どうしてここにある宝石が欲しいのかな?」
 会長にそう言われ、警備員はようやく桐斗を下ろした。
「ここにある宝石の中に神様が眠っている石があるんです。地球の危機なんです! その石を譲って下さい!」
 この会長さんに常識があって桐斗の言っている事が通じないのか、常識が無くて……というのは言い過ぎで、とにかく桐斗の言う事を信じてくれるのかは分からないが、他に信じてもらえる嘘が無いため本当に起きている非常識な事を話した。
「ずっとこんな感じなんですよ。全く困ったものです」
 警備員は呆れたように溜め息をついた。
「ふむふむ、神様が眠っている石というのは、もしかしてこの石の事かね?」
 会長はサガストーンらしき石が展示されている場所まで歩き、石を指差した。 テレビで見た時にもはっきり見えはしたが、実際に見るとこの石はやはりサガストーンに間違いない。
「はい! この石です!」
「この石は私が北欧に行った時に手に入れた物で、そんなに価値のある物ではないのだけど、私が気に入っているから飾っているのだ。言ってみれば私の宝物というところかな。もちろんここにある宝石全てが宝物であるわけだが。実は、私もこの石に神様が眠っているという伝説を聞いた事があるんだ。もしかして君は神様がどうやったら目覚めるのか知っているのかね?」
「はい」
 ここで神様が甦れば桐斗の言葉を信じないこの警備員も信じざるを得ないだろう。そして桐斗にはヴァルキリーを目覚めさせる方法を知っている。
「そうか。それでは目覚めさせてくれないか?」
 会長はサガストーンをケースから取り出して桐斗に手渡した。。
「いきます。ヴァルハラに眠りし、ヴァルキリーよ、ヴゥルグリンドを開き、ヴィグリーズに集えーー!!」
 桐斗は目覚めの言葉を唱えた。
 ………………
 ………………




 ………………
 ………………
 しばらくの間辺りに静寂だけが漂い、何も起こらなかった。
「……あれ?」
「桐斗君、神獣はともかく、ヴァルキリーは人間の勇気や想いに反応して、可能性を護るために目覚めるんだよ。昨日言った筈だけど」
 今まで別の宝石を見ていた神様がいつの間にか桐斗の元に戻っておりそう伝えた。
「……あ…………」
 忘れてたー!!
「ほら見ろ! 神なんて出なかったじゃないか!会長、時間の無駄ですよ」
 警備員は益々呆れ返っていた。警備員が言っている事は正に正論、そして日常的であり、常識的でもあるため桐斗にこれ以上の反論は出来ない。これでは会長にも信じてもらえない筈、もはやこれまでなのだろうか。
「これこれ、神様は目覚めなかったけど、坊やの目は嘘を言っている目じゃなかった。もし、本当に地球の危機が訪れたらもう一度チャンスをあげよう。それでいいかな?」
 桐斗は今回これ以上の説得は無理だと思ったが、会長はまだ石に神が眠っているという話を信じているようだった。 自分が言い出した事ではあるが、突然押しかけて石に神がいるから譲って欲しいと言い出し、神が石から目覚める目覚めの言葉を唱えたにもかかわらず目覚めなかった今でもまだ信じてくれるとは、この人はよっぽどのお人よしなのか、それとも常識というものが無いのではないだろうか……そういう疑問さえ持ってしまう。 または……何か心当たりがあり、そのため石に神が眠っているという確信があるのだろうか。
「はい! ありがとうございます!」
 理由は何であれ、会長さんは桐斗のいう事を信じてくれて地球の危機があった時はサガストーンをくれる事を約束してくれた。 危機が起きてからでは遅いかもしれないが、突然非日常的な事を言ったのにも関わらず条件付きではあるものの譲ってくれる約束をしたのだから初めてにしては収穫があったといえよう。 今日はこれで帰ろうとしたその時。
──ドカーーーーン!!!
 突然建物に爆弾が落とされ、建物の中に爆風が起こった。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
 桐斗は恐怖で屈んで悲鳴をあげた。
「桐斗君!」
 ジークは桐斗の上に覆いかぶさり、崩れてくる天井の瓦礫から桐斗をかばった。
「桐斗君、大丈夫かい?」
「ありがとう。僕は何ともないよ」
 何だかんだ言っても頼りになる時は頼りになる。桐斗はそう実感した。
「そうか、良かった。皆さんも大丈夫ですか!?」
 ジークは辺りを見渡して様子を見た。この部屋の内部は爆風によって荒らされてしまい、中には出血している者もいるが、見た感じではそこまでの重傷者はいないようだ。
「ああ、大丈夫だ。それより一体何が起こったのだ?」
 会長も腕に多少の出血をしているが、軽傷の様で起き上がった。
「久しぶりだな、神様!」
 ジークがぶち抜かれた天井を見上げると、巨人のスリュムが宙を浮かんでジーク達を見下ろしていた。
「お前は盗賊魔スリュム! なぜこんな事をする!?」
「知れた事を。貴様ら神を始末し、人間どもを絶望を与えてミッドガルドを支配するためだ。まぁ、せっかく久しぶりにこのミッドガルドに来たんだ。 今回はお前を倒しながらここにある宝石もいただくというレクレーションも含まれているがな」
「ジーク兄ちゃん……あいつは一体誰なの?」
 桐斗はスリュムが何者なのか全く分からない。しかし、何も使わずにこの市民会館を破壊し、宙に浮かんでいるのだから人間では無い。 そしてジークとの会話から察してジーク達の敵であるようだ。ならば彼が神代、人間世界を破壊しようとした邪悪な巨人ではないだろうか。
「あいつは巨人さ。それもヨートゥンヘイム六大魔の1人、盗賊魔スリュムさ」
 桐斗の推測は当たった。しかし、それと同時にヨートゥンへイム六大魔という聞きなれない肩書きまで付いてきた。
「ヨートゥンヘイム六大魔?」
「巨人の世界ヨートゥンヘイムを統治する6人の巨人さ。ちょっと……いや、かなり厄介な相手だ」
 ジークの表情はこれまでにない位険しくなっていた。
「会長さん! 皆さんを連れて避難して下さい! ここは危険です!」
 ジークはそう言った。 それ程に奴は危険な相手なのだ。 そしてジークは全く余裕がない、むしろ焦っているような顔をしていた。 もしかしたらスリュムはカイザーファングラムよりも強いのかもしれない。
「桐斗君、これが君の言っていた地球の危機なのかね?」
「はいっ!」
 桐斗にはスリュムの強さがいかほどか詳しくは分からないが、 スリュムが巨人を統治する6人の巨人の中に入っている事、 そしてジークの表情があそこまで険しくなっているのだからスリュムの登場は地球の危機に関わる危機に間違いない。
「そうか、ならばこれを渡そう」
 会長は再びサガストーンを桐斗に手渡した。
「さっきまで疑ってすまなかった。こんなのを目の前で見せられては信じなければならない。桐斗君、君なら必ずこの石に眠っている神様を目覚めさせる事ができるはずだ」
 桐斗はサガストーンを受け取った。
「ありがとうございます」
「会長さん、さあ! 早く!」
「わかりました! 皆さん、こちらへ!」
 会長は会場にいる人達を連れて建物から出て行った。 桐斗も恐怖で逃げたかったが、エインヘリヤルが逃げるわけには行かない、その気持ちでその場に踏みとどまった。
 ジークはエッダホルンを取り出した。
「出でよファング!」
──ブオオオオ!!
 ジークはエッダホルンを吹き、ファングを召喚した。
「融合合神!」
 ジークはファングと融合し、ファングが人型ロボットに変形した。
「地上神ファングラム!」
「出たなファングラム。だが、今回俺様はこれで帰らせてもらう」
「何だと!?」
「今の俺様がお前を倒す事など容易い事だ。しかしせっかく長い年月を掛けて甦ったんだ、 こんなに早く決着が着いてしまってはつまらなすぎる。さて、これが何だかわかるか?」
 そう言うとスリュムは黒い石を1つ取り出した。
「あれは……サガストーン! ううん、色が違う!」
 見た目こそサガストーンにそっくりではあったが、石の色は真っ黒であり邪悪な印象さえあった。そう言う桐斗の言葉にスリュムは反応して桐斗の方を向いた。
「賢いな小僧、半分正解だ。これはダークストーンだ」
「ダークストーン……」
 日本語で闇の石。 ダークストーンにどんな効果があるのかは分からないが、こちらにとって不利な石には違いなさそうだ。
「勇者神がサガストーンの中で眠っていたように、俺様達巨人はこの石の中に眠っていたのだ。ふんっ!」
 スリュムは手からビームを放出し、南館の天井も破壊した。
「そしてこれは俺様の子分ラウザだ。行けラウザ! パラサイトフュージョンだ!」
 そう言うとスリュムは南館の天井に向かってダークストーンを投げた。 ダークストーンは戦車へと落ちていき、そのままダークストーンが戦車の中に入ると戦車がロボットに変形した。
「砲撃魔ラウザ!」
 戦車から変形したロボットはそう名乗り、南館の壁を破壊して外へと現れた。
「ラウザ、お前はそこにいるファングラムを倒し、ここにある宝石を全て奪って来い」
 スリュムはラウザにそう指令を与えた。
「承知しました首領」
「ファングラム、果たしてお前はラウザを倒す事が出来るか? 俺様はヨートゥンへイムで見物させてもらう」
 そう言うとスリュムの身体が段々と透明になっていった。ミッドガルドからヨートゥンへイムへと移動する魔法を使用したためである。
「待てスリュム! 逃がしはしない!」
 ファングラムはジャンプしてスリュムに向かって突撃した。
「ふんっ!」
 スリュムはファングラムに向かって右手の人差し指からビームを放った。
「当たるか!」
 ファングラムは空中でビームを避け、視線を再びスリュムに戻すとそこにはもうスリュムはいなかった。
「くそっ、逃がしたか」
──ドーーーーン!!
「ぐはっ!!」
 ファングラムはミサイルの直撃を受けて地面に墜落した。
「何を余所見している。お前の相手はこの俺だ」
 ラウザは肩の銃をファングラムに向けていた。
「そうだったな、まずはお前を倒す。ファングソード!」
 ファングラムは立ち上がり、ファングソードを召喚した。
「いくぞ!」
 ファングラムはラウザに向かって突撃した。
「甘い! フルバースト!」
 ラウザの身体中のハッチが開き、身体から無数のミサイルが飛び出した。
──ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
「ぐああああ!!!」
 ファングラムは次々と迫り来るミサイルに直撃し、吹っ飛ばされた。
「ファングラム!」
「だ……大丈夫だ」
 ファングラムは瓦礫の中から立ち上がった。
「くくく、貴様には遠距離武器が無いからな。遠くの敵に対して力を発揮する俺としては実に相性のいい相手だ。お前はこのまま何も出来ずに死んでいくのだ。ははははは!」
 ラウザは余裕から笑い出した。
「くそっ、確かに相手が悪い……。だが! 俺は負けない! ファングクロー!」
 ファングラムは両手にファングクローを装着し、再びラウザに突撃した。
「これでトドメだ! 死ねぃ!」
 再びラウザの身体中のハッチが開いた。
「フルバースト!」
──ダダダダダダダダ!!
 ラウザの身体中から無数のミサイルが発射された。
「今だ!!」
 ファングラムは突進中に横に跳躍してミサイルを回避した。
「これでどうだ!」
「くくく、甘いって言っているだろうが!」
「何!?」
 カイザーファングラムが後ろを振り返ると回避したミサイルがUターンしてファングラムを追尾していた。
「しまった! 誘導ミサイルだったのか! これでは避けきれない!!」
 前からはラウザが新たに放つミサイル、後ろからはが回避したが追尾して再び迫ってくるミサイル。 ファングラムは2つのミサイルの群れに挟まれてしまっていた。
「ははははは! 死ね死ね、死ねぇぇ!!」
 ミサイルはファングラムのすぐ傍まで迫っていた。
「ファングラム!! 神様仏様お願いします! ファングラムを助けて下さい!! そうだ、今こそあの言葉だ!! ヴァルハラに眠りし、ヴァルキリーよ、ヴゥルグリンドを開き、ヴィグリーズに集えーー!!」
 サガストーンを握っていた桐斗が目覚めの言葉を唱えるとサガストーンから光から緑色の光が溢れ、辺りが光に包まれた。
──ドーーーーーーン!!!
 緑の光が溢れたのも束の間、ミサイルによって辺りが煙に包まれた。
「くくく、これで終わりだ」
「そんな……ファ……ファングラム!!!」
 桐斗はファングラムの名を叫んだ。
「さて、宝石を奪って帰るとするか。それにしてもに実あっけない奴だったな、もっと楽しめる奴だと思っていたが全くの期待はずれだ」
「期待はずれか、そいつはどうかな?」
 煙の中からファングラムの声が聞こえた。
「何だと!? ま、まさか!!」
 煙が晴れるとそこにはまだファングラムがいた。
「ファングラム!」
 余裕だったラウザの表情が困惑の表情に変わった。
「貴様、あれだけのミサイルの直撃でなぜ生きている!?」
「彼のおかげさ」
 そう言うとファングラムは自分の真後ろにある南館に展示されている戦車に視線を移した。
「戦車だと?」
 ファングラム、ラウザ、桐斗の視線は戦車に映った。 ラウザの戦車と同じ展示用されている戦車であり、防衛隊の実際使用しているものではあるが、展示のために弾は装填されておらず、操縦者もいない。 その戦車がどうやってファングラムをミサイルから救ったのであろうか。
「チェーンジ!」
 無人の戦車は声を発し、ロボットの姿に変形した。
「戦車が……またロボットになった。でも、ラウザよりもカッコいい……まるでファングラムみたい」
 同じ戦車から変形したラウザは禍々フォルムをしているのに対し、今戦車から変形したロボットはファングラムの様にヒーローロボットの様なフォルムをしていた。
「私の名は守護神トールガーディアン。勇者神ヴァルキリーの1人です。桐斗君、君のファングラムを思いやる熱い心のおかげで目覚める事が出来ました。私も生きるものの可能性を護るために戦います」
 守護神トールガーディアン。
今ここに2体目の勇者神ヴァルキリー、降臨。
「お前がフルバーストをした時に、トールガーディアンもフルバーストをしてミサイルを相殺させてくれたというわけさ」
「くそっ、小癪な……」
「今ですファングラム! カイザーバーンを召喚してください!」
「ああ! 出でよ! 竜神獣カイザーバーン!!」
 空からカイザーバーンが舞い降りた。
「カイザーバーン、光呀合神だ!」
──グオオオオオ!!
 カイザーバーンは咆哮した。
「光呀合神!!」
 辺りが光に包まれた。
 カイザーバーンが起き上がり、胸のパーツが左右にスライドして肩のアーマーに変形し、胸部と頭部の無い人型の巨大ロボットに変形した。
「とぉっ!」
 ファングラムが飛び、ファングラムの胸の狼の頭が水平に上がり、腕が上にスライドし、前に水平に倒れ、両腕が合わさり、狼の顔の下につき肩にある角が下に倒れて上顎の牙になった。 次に足が前に水平に倒れ、両足が合わさり、下顎の牙になった。 巨大な狼の頭部に変形したファングラムが人型に変形したカイザーバーンの胸部に納まった。 更にカイザーバーンの頭部がファングラムの頭部に被さり、顔がマスクに覆われた。 そしてカイザーバーンの手の爪が腕に装着し、新たな手が現れた。 最後にカイザーバーンの尻尾が消滅し、頭部の眼に光が灯った。
「天空神! カイザァァァファングラム!!!」
「合体したか。だが!」
 三度ラウザの身体中のハッチが開いた。
「今度こそ地獄に送ってやる! フルバースト!」
──カチッ……カチッ……
 しかしミサイルは発射されること無く、身体からカチカチという音だけが鳴った。
「な、なんだこれは!? ミサイルが出ない!」
「フルバーストは1度に大量のミサイルを消費します。後先考えずにミサイルを撃ち続けていれば、すぐに弾切れになってしまうものです」
 同じ戦車から変形しているトールガーディアンにはミサイルが発射されない原因が分かっていた。
「何だと! ならばこれだ!」
 ラウザは肩の銃の標準をカイザーファングラムに合わせた。
「これでも喰らえ!」
──ダン!
 ラウザの肩の銃から銃弾が発射された。
「甘い! グラムセイバー!」
 カイザーファングラムは屈んで銃弾を難なく回避し、低空を滑走してラウザに接近しながらグラムセイバーを召喚した。
「はあっ!」
──ズバッッ!
「ぐっ!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーで居合い斬りをしてラウザの肩の銃を一刀両断に切断した。
「まだまだ、たあっ!」
「ぐはぁぁぁっ!!」
 カイザーファングラムは続けざまに怯んでいるラウザを蹴り飛ばした。
「ぐぐぐ……」
 ラウザは手を地面に付きながら立ち上がった。
「トドメだ!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーを天高く掲げた。
「はあああああ!!」
 グラムセイバーが金色に光り、刀身が白い光に包まれた。
「とおっ!!」
 カイザーファングラムは大きく羽ばたかせ、空高く飛んだ。
「アークスラッシュ!!」
 カイザーファングラムは今度は羽ばたく事をせず、ラウザに向かって目に見えない程のスピードで急降下した。 それはまるで空に光の線が引かれている様だった。
「たあああありゃああ!」
──ザシュッ!!!  カイザーファングラムはラウザの身体を斬り裂いた。
「うおおおおお!!!」
 ラウザは真っ二つに切断され、光に包まれて消滅した。
 地上に降り立ったカイザーファングラムはグラムセイバーを血払いするように振り降ろし、剣を鞘へと納めた。
「浄化完了!」
──ガオオオオッ!!
 カイザーファングラムの胸にある狼の口が雄叫びを上げた。 それはミッドガルドの人々にカイザーファングラムの勝利を告げている様に聞こえた。




「ありがとう、トールガーディアン」
 戦闘が終了し、桐斗はファングラムの危機を救った第2の勇者神、トールガーディアンにお礼を述べた。
「いえ、お礼を言うのは私の方です。君のおかげで目覚める事が出来たのですから」
 トールガーディアンはカイザーファングラムに手を差し出した。
「これからまたよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそよろしく」
カイザーファングラムとトールガーディアンは握手を交わした。
「まさか本当に神様が眠っているとは……」
 戦闘に巻き込まれない場所まで避難していた会長が戻ってきた。
「あっ! 会長さん。大丈夫でしたか?」
「あぁ。重傷者は1人も出なかった、軽傷者は何人かいたけど、さっき到着した救急車で運ばれたよ」
「そうか、よかった」
 会長はトールガーディアンを見上げた。
「君が私の石に眠っていた神か」
「初めまして、私はトールガーディアンと申します」
 トールガーディアンは会長に対し手を絵胸に当ててお辞儀をした。
「トールガーディアン……守護者か、良い名だ。これから地球のために頑張ってくれ」
「了解しました」
 守護神トールガーディアン。 ファングラムの元に心強い味方が甦った。
次はどんな勇者神が目覚めるのだろうか?それは次回のサーガにて。











次回予告

ジーク
「今度のサガストーンは大人気のレーサーが持っているらしい。日本で行われるレースに彼が参加するために観に行った俺達。レースの最中にスリュムが現れた! 巨人の速さの前にファングラムもトールガーディアンも歯が立たない! そんな中、スピード自慢のヴァルキリーが目覚める。

次回、勇者神記ファングラム

SAGA・4『激走』


 今、新たな神話が記される」













<NEXT SAGA>