(さあ、今週もこの時間が来たよ。この時間は僕に取って1番好きな時間なんだ。だって今日のこの時間は僕の大好きなアニメ『聖火神伝カグライザー』がやるんだから)
 今は桐斗にとっての1週間で1番楽しみな時間、それは聖火神伝カグライザーというヒーローロボが活躍するテレビアニメの時間である。
「今週はどんな話だろうな? やった! 始まった!」
──ポチッ!
 突然テレビがオープニングアニメから車の走っている映像に変わった。けっしてカグライザーが車から変形するロボットでオープニングアニメで車が出てくるという訳では無く、チャンネルが変わっているのだ。そしてその犯人は現在この部屋のテレビのリモコンを手にしている美亜である。
「あぁ!! ひどいよお姉ちゃん! どうしてテレビ変えるのさ!?」
 当然桐斗は美亜に文句を言った。オープニングの後はカグライザーのスポンサーによる玩具CMをやるため今チャンネルを戻せばまだ本編には間に合う。
「何よ? ラッシュ様がテレビに出るのよ。ラッシュ様優先に決まっているでしょ!」
 そんな優先は理不尽すぎる!そもそもラッシュ様って一体何処のどいつだ?
「ラッシュ様?」
「えぇーー! ラッシュ様を知らないの? 今1番有名なレーサー、ラッシュ=ハワード様を!」
 美亜はまるで常識を知らないかのように言い放った。 どうやらレーサーの名前だそうだ。 しかし、桐斗の記憶にその様なレーサーの名前は無い。
「知らないよ! そんな人なんかよりもカグライザー!」
 レーサーだろうが誰であろうがカグライザーを邪魔する者は許さない!
「ラッシュ様!」
 たかがヒーローアニメなんかにラッシュ様を拝見出来る時間を邪魔されてなるものか!
「カグライザー!」
「ラッシュ様!」
「カグライザー!!」
「ラッシュ様!!」
──ドカドカドカドカ!!
「おやおや、この家でラグナロクが起きたのかい?」
 喧嘩による騒音が気になってジークは台所から出て来た。
「あっ! ジーク兄ちゃん、ジーク兄ちゃんはカグライザー派だよね?」
 ここは多数決だ! ジーク兄ちゃんもロボットになるんだ、ロボットアニメが好きに違いない!
「ううん、ラッシュ様派よね?」
 ここは多数決よ! ジークさんは大人よ、あんな子ども向けのアニメを見るはずがないわ。
「この時間のテレビの話かい? 俺はどっかの料理ショーの再放送派かな」
 ジークの希望はそのどちらでも無かった。
「そんなの却下だよ。カグライザーとラッシュどっち!?」
「うーん……あっ! 桐斗君テレビを観て!」
 ジークは驚きながらテレビを指差した。
「ジーク兄ちゃん、ラッシュ派なの!」
「どっち派でもいいからパトラッシュとかって人の手を見て!」
 それは犬の名前だ。
「ラッシュ様!!」
 テレビに映っているラッシュの首には石がぶら下げられていた。




勇者神記ファングラム







 その石は見覚えのある石、というよりも探し求めている石であった。
「あれは……サガストーン! どうしてラッシュさんという人が持っているの!?」
「ラッシュ様ってデンマークの人よ。デンマークって北欧じゃなかったかしら」
 成る程。ヴァルキリーは北欧地方の勇者神であり、北欧出身のラッシュが持っていても確かにあまり不思議ではない。そして次の疑問が浮かんでくる。
「ラッシュさんは今どこにいるの?」
 ラッシュがサガストーンを持っている事を知ったのならば、一刻も早くラッシュに会い、ヴァルキリーを目覚めさせないといけない。デンマークにいるのならば行くのに物凄く苦労しそうだが……。というか、行けるかどうかわからない。
「ラッシュ様は今この日本にいらっしゃるのよ。明日のレースに参加するためにね」
 ラッシュが日本にいる。 ならばそこから導き出される答えは1つ。
「じゃあ明日、そのレースに行こうよ!」
 桐斗がそう言うと美亜は甘い甘い!甘いぞ馬鹿弟子めぇぇ!というような表情をした。
「甘いわね、ラッシュ様はすっごく人気のレーサーなのよ。前売り券は完売しちゃっているし、当日券は徹夜組がいるくらいなんだから。おそらく今から並んでも当日券は売り切れて買えないわね」
「そんな……」
 ラッシュに会わなければサガストーンを手に入れる事は不可能である。頼りない神様の所為で在り処が全く不明のサガストーンの在り処が折角判明したというのに……。桐斗の表情が暗くなったのを見た美亜はニヤニヤと笑顔を浮かべながら自分のバッグを漁り出した。
「うふふふ、桐斗、これなーんだ?」
 美亜はバッグから3枚のチケットを取り出した。
「そ……それって、もしかして!」
 まさか!まさか!!まさかぁぁぁ!!!
「そう! これが明日のレースのチケットよ! 本当は双子の友達と行く予定だったんだけど、家の急用が入って行けなくなっちゃったの。2枚余っているわ、仕方ないから桐斗とジークさんにあげるわ」
「ありがとう。まるでお姉ちゃんが女神様に見えるよ!」
 ありがとうお姉ちゃん!否、お姉さま!! お姉さまが望むのならこれからおねえたまでも姉チャマでもお姉ちゃんの好きなように呼んであげるよ!
 結局この時間のチャンネルは美亜の物になり、桐斗はカグライザーを観る事が出来なかったが、サガストーンの在り処、そしてラッシュと会うチャンスが出来た桐斗はカグライザーの事などすっかり忘れていたため問題は無かった。




翌日、東京サーキット
──ズラーーーー!!
「も……ものすごい人だね……」
 東京サーキットには凄まじい人数の人が並んでいた。
「恐れ入った? これがラッシュ様の力よ」
 美亜は自慢げに言った。別に美亜のおかげでも力でも無いのだが……。
「それでは門を開けます! 皆さん決して! 決してですよ、決して! 走らず、走らずにゆっくり入場してください!!」
──ガララララ!!
 係員の言葉でゲートが開いた。
──ダダダダダ!!!
 並んでいた人達は係員の懸命な忠告を一切無視して一斉に走り出した。
「……みんな走っちゃっているよ…………」
 うわぁ……大人ってマナー守らないんだ……。
「桐斗! 早く来なさい!」
 美亜も忠告を無視してすでに走っていた。身近にもマナーを守らない人はいたんだ……。だが!
「うん!」
 ルールは破るためにある!人間の歴史とは理不尽なルールと戦う革命の繰り返しなんだ!そしてこれは革命なんだ。いざレヴォリューション!桐斗もそう自分の都合の良いルールを作り出して走る事にした。
──ダダダダダ!!!
「うわーーーー!!」
 悲鳴と共にどんどんジークの声が遠ざかっていくのを桐斗は走りながら聞いた。
「あーーー! ジーク兄ちゃんが流れに呑み込まれてるーー!!」




同時刻
「ラッシュ、今日の調子はどうだい?」
 ラッシュのチームのメカニックはラッシュにコンディションを尋ねた。
「ああ、今日のコンディションはバッチリさ。それに今日もお守りの石を持っているからな」
 ラッシュはポケットから石を取り出した。
「これを持っている時は必ず勝つからな。それにしても綺麗な石だな。何て名前の石なんだ?」
「さあ? 俺にも判らない。この石は小さい時に父さんから貰ったんだ。この石には神様が眠っているって教わりながらな」
 偉大なレーサーだった父から譲り受けた石。父もレースの際、この石を身に付けていた。そして父親が引退した際、この石を譲り受けた。自分の可能性を信じろという言葉と共に。
「神様か、そいつはありがたいな。今日のレースも頑張れよ!」
「ああ! 今日のレースも絶対に勝ってみせるよ、期待していてくれ」




「いやぁ、レース楽しみだねぇ」
 サガストーンよりレースが大切なんだ……やはりこの神様はどこか頼りにならない。
「レースよりもサガストーンの方が気になるよ。何とかしてラッシュさんからサガストーンを譲って貰わないと」
「それは難しいわね。ラッシュ様はあの石をお守りにしている事で有名なのよ。桐斗はジークさんが眠っていた時にサガストーンを譲って欲しいって言われて譲る?」
 今は亡き祖父から貰った桐斗の1番の宝物、それを譲って欲しいと言われて簡単に譲るほど桐斗は石を大切にしていない事は無かった。
「うーん、多分譲りたくないって言うと思うよ。だって宝物だったもん」
「そうよね。桐斗、あんなに大切にしていたからね。ラッシュ様にとってもあの石は宝物だそうよ」
 誰にでも宝物はある。 宝物は人それぞれ違うが、桐斗の宝物とラッシュの宝物は同じ種類の物だ。 その宝物にあるエピソードは当然違うが、同じ物を宝にしているのならばその大切さが小学生の桐斗でも理解できた。
 だが……。
「でも……やっぱり今は目覚めさせないと」
 巨人がこの世界を狙っている今、1人でも多くヴァルキリーを目覚めさせる必要がある。宝物に地球の未来がかかっているのだ。
「そろそろスタートするみたいだよ、実に楽しみだねぇ」
 ジークは桐斗の悩みなど全く気にせずレースの開始を心から楽しみに待っている。
 やっぱりこの神様はのん気だ。
前言撤回、眠っている神様がこんな神様だと知っていたらサガストーンを求めている人に渡すかもしれない。
「きゃーーー!! ラッシュ様頑張ってー!!」
 いつの間にか美亜の興味も桐斗の言葉よりもレースにいっていた。
──ピ!
──ピ!
──ピ!
──ピーーー!!
 遂にレースがスタートした。
「さぁ! 一斉にスタートしました! その中でもロケットスタートをきめたのはラッシュ=ハワード選手だ!」
 実況者の熱い実況にレースは始めから大盛り上がりでスタートした。
「ラッシュ様頑張ってー!!」
 美亜は興奮で叫び続けていている。
「ラッシュさん速い! カッコいい!」
 いつの間にか桐斗もレースに魅入られていた。
 ラッシュの乗る赤いレーシングカーは他の車をまったく寄せ付けない圧倒的なスピードで走り続けている。直線での走り、カーブでのドリフト、カーレースをロクに見ない桐斗やジークでもラッシュの走りに感動を覚えた。
 しかし、突然このレースには場違いな気配、邪悪な気配をジークは感じ取った。
「!! これは……邪悪な気配だ!!」
「そのレース、俺様もまぜろ!」
 レースの熱狂をも遮る大きな声が突然鳴り響いた。そして1台の車が上空から降って来てレース場に乱入した。
「あの邪悪な気配はスリュムだ!」
「なんだって!」
 謎の車の窓越しに車を運転しているスリュムの姿が見えた。
「どうしてスリュムがここに現れたの?」
 ここには宝石や金目になる物は存在しない。
ならば何故スリュムは現れたのだろうか?
「あいつは人がたくさん集まるイベントをメチャクチャにするのが好きなんだ。そして楽しんでいる人達を絶望に陥れているのさ」
「ははははは! 邪魔だ!」
──ガン!
 スリュムの乗る車は前を走っていた車に突撃した。
──バァァァン!!
 突撃された車が爆発し、炎上した。
「後ろの車が爆発された! 一体何がどうなっているんだ!? うわあああ!!」
 謎の車によって次々とレーシングカーを破壊され、レース場はパニックに埋め尽くされて人々は慌てて観客席から逃げ出した。
「このレースは俺様が完全に支配した! はーっははは!!」
 スリュムは高笑いをしながら次々と他の車を破壊していった。
「あぁ! 後はラッシュ様の車だけだわ!」
 ラッシュの車はスリュムの車から逃げようとするが、どんどん追い着かれていった。
「スリュム、お前の好きにはさせない!」
 ジークはエッダホルンを取り出した。
「出でよ! ファング!」
──ブオオオオ!!
 ジークはエッダホルンを吹いてファングを召喚した。
「融合合神!」
 ジークはファングと融合し、ファングが人型ロボットに変形した。
「地上神ファングラム!」
 スリュムは車の窓からファングラムを睨み付けた。
「出たな勇者神ファングラム。行けカイマ! パラサイトフュージョンだ!」
 スリュムは走行したままドアを開けて車から飛び出して宙に浮かび、自分が今まで乗っていた車にサガストーンを落した。 すると、ダークストーンは車に吸収され、スリュムの車はロボットに変形した。
「暴走魔カイマ!」
「桐斗君、アースブレスでトールガーディアンを呼ぶんだ!」
「わかったよ。トールガーディアン、巨人が現れたよ! すぐに来て!」
 桐斗はアースブレスの通信を入れ、トールガーディアンを呼んだ。
「了解しました! すぐに向かいます!」
 カイマは会話から仲間が来る事を察知した。 だが、彼にあせりの表情は見られなかった。
「仲間を呼んだか。ならば仲間が来る前にお前を倒してやる」
「それはこっちの話だ! ファングソード!」
 ファングラムはファングソードを召喚した。
「ウイップモード!」
 ファングラムは剣を下に向けて振った。 するとファングソードの刃の部分が何段階にもわかれ、ムチのようになった。
「たあっ!」
 ファングラムはムチを振った。
「遅い!」
──ヒュン!
カイマは後ろに跳躍してムチを避けた。
「何!? 速い!」
「お前が遅いんだよ! それ以上に俺が速いのが原因だがな」
──ドガッ!!
 カイマは後ろにステップして回避した直後そのまま前に突撃してファングラムに体当たりをした。
「うわっ!!」
 ファングラムはカイマの体当たりで吹っ飛ばされ、倒れる寸前に足で踏ん張って堪えた。
「ぐっ……」
「ファングラム、大丈夫ですか?」
 会場に新たな声が響いた。
「来てくれたか」
 サーキットの入り口から1台の戦車が入ってきた。
「チェーンジ!」
 戦車が変形して人型ロボットになった。。
「守護神トールガーディアン!」
「トールガーディアン、援護を頼む! ファングクロー!」
 ファングラムはファングクローを腕に装着した。
「任せて下さい、バトルレールガン!」
 トールガーディアンは肩の銃の標準をカイマに合わせた。
「いくぞ、トールガーディアン!」
 ファングラムはカイマに向かって突進した。
「はいっ! バトルレールガン発射!」
──ダン!
 トールガーディアンはカイマに向けて肩の銃を発射した。
「ふんっ」
 カイマは横に跳躍して銃の弾を難無く回避した。
「それは囮だ! ファングクローX!」
 ファングラムはカイマがバトルレールガンに気をとられている内にカイマのすぐ近くまで迫っていた。
「それが本命だと? その程度のスピードで笑わせる!」
──ドガッ!!
 カイマはファングラム攻撃よりも早くファングラムに蹴りを入れた。
「うわぁああ!!」
──ダーーーン!!
 ファングラムはカイマに蹴り飛ばされ、勢いよく壁に激突した。
「ファングラム!」
「余所見している時間は無いぞ!」
 カイマは高速で走ってスピードを利用してトールガーディアンに跳び膝蹴りを喰らわせた。
「ぐああっ!!」
 トールガーディアンはファングラムに気をとられていたため防御する間も無く蹴られたため激しく吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!」
「2人がかりでも俺に攻撃を当てる事もできないのか? 情けない奴らだ。これで終わりだ!」
 カイマはファングラムの方向を向いて口を開き、口からビームを放とうとした。
「おい! 怪物! 俺達のレースはまだ終わっていないぜ!!」
 レース場にファングラムでもトールガーディアンでもない声が響いた。 その声の主はラッシュであった。
 レースは俺の人生だ。 偉大な父にカーレースで追いついてやる。 そして、カーレースを愛してくれる人々に更にカーレースが好きになるように走り続ける。 そして……いつか父の残した伝説の記録を超えてやる。 それを……こんな自分勝手な奴にそれを邪魔されてたまるか。 ラッシュはそういう気持ちでいっぱいだった。
 あの巨大なロボットに対し自分が何を出来るか分からない。 しかし、あのレースを台無しにしたロボットに一矢を報いてやりたかったのである。
「そういえばまだ1匹残っていたな。お前から潰してやるぜ!」
 カイマはラッシュの車に向かって口からビームを撃った。
「当たるか!」
 ラッシュは車を急発進させてビームを回避した。
「小賢しい!」
 カイマはラッシュに向かって次々とビームを撃つが、ラッシュは悉くドリフトをしてビームを避け続けた。
「くそっ、なぜ当たらん!?」
「俺は純粋にレースを楽しみたいんだ! お前達みたいにレースを邪魔しる奴には俺をクラッシュする事は出来ない。絶対にな!」
「こしゃくな! これでどうだ!!」
──ダーーーン!!
 カイマは車ではなく、車の前の道にビームを放ち、道を破壊した。
「しまった! 道が無い!」
 ラッシュはブレーキを踏んで車は急停止した。 車は破壊された道のギリギリ前で止まった。
「これでお前は動けない。終わりだな」
「く、くそ!」
「逃がさねぇよ」
──ダーーーン!!
 ラッシュは車をバックさせて方向を立て直そうとするが、カイマはその行動よりも前に車の後ろの道にビームを放って道を破壊した。
「ククク、これでもう逃げ道は無いぞ。逃げられない恐怖の中で死ねぇ!」
 カイマは今度はラッシュの車に向けてビームを放った。
「ラッシュさん!! はっ! そういえばラッシュさんはサガストーンを持っているんだ。だったら何とかなるかもしれない! ヴァルハラに眠りし、ヴァルキリーよ、ヴゥルグリンドを開き、ヴィグリーズに集えーー!!」
 桐斗が目覚めの言葉を唱えると突然、ラッシュの車が緑色の光に包まれた。
「まったく、普通の車で巨人と戦おうなんざ、無謀って奴だぜ。だが、お前の無謀には意志が込められていたぜ。意志が込められている無謀は立派な勇気に違いねぇ! ありがとよ、おかげで目覚める事が出来たぜ! お前の可能性は俺が護ってやるよ!」
 車から今まで聞いた事の無い新たな声が発せられた。
「チェーーンジ!!」
 掛け声と共にラッシュの車がロボットに変形し、ロボットはラッシュを手の平に乗せてジャンプしてカイマのビームを回避した。
「な、なんだお前は!?」
 カイマは突然車から変形したロボットに困惑した。
「高速神トールランナー! ただ今参上!」
 高速神トールランナー。 彼が現在に甦る第3のヴァルキリーである。
「石が……石がなくっている」
 ラッシュの首にかけられていた石が消えていた。
「俺はその石に眠っていた神、トールランナーだぜ」
 石に眠っていた神……父の言うとおりだった。
「本当に……あの石には神様が眠っていたのか」
「その通りだ。よっと」
 トールランナーはラッシュを地上に降ろした。
「ここからは神と巨人の戦いだ。危険だから離れな」
「ああ。トールランナー、後は任せた」
「おうよ!」
 ラッシュはコースから走って逃げていった。
「新たな勇者神か、だが何人出て来ても関係ねぇ! 全員俺の速さでぶっ潰してやる! まずはお前からだ!」
 カイマはトールランナーに向かって突進を開始した。
「ターボサーベル!」
 トールランナーは剣を召喚した。
「いくぜ! いくぜ!!」
 トールランナーも剣を手にしたままカイマに突撃した。
「俺のスピードに勝とうと思っているのか!?」
 2人の距離は縮まり、攻撃を開始した。
「死ね!」
 カイマはトールランナーに向かって蹴りを喰らわせようと脚を出した。
「遅せぇ!」
──ヒュン!
 トールランナーはカイマの蹴りをかわした。
「何!? かわされただと!?」
「おりゃっ!」
「ぐはぁっ!」
 トールランナーは蹴りの隙を見て反撃としてカイマのボディを斬り、斬られたカイマはその場で蹲った。
「馬鹿な! こ……この俺が……スピードで負けただと!」
 スピード自慢の自分がスピード勝負で負けた。 その事実にカイマは驚愕した。
「俺は世界一のレーサーが乗っていたスーパーカーと融合したんだ。スピードなら誰にも負けねぇ!!」
「い……今のは偶然だ」
 カイマは立ち上がり、トールランナーから離れながら腕からバルカンを連続で放った。
「遠距離からの攻撃は俺には当たらない、そしてこのスピードについてこれない限り近距離攻撃だって当たる事は無い!」
 カイマは足の裏から車輪を出して地面を車輪で滑ってトールランナーから離れながらバルカンを打ち続けた。
「まだわかってないようだな。物分かりの悪い奴は嫌いだぜ、俺はよ」
 トールランナーは逃げるカイマを追うように走り出した。
「当たれ当たれぇ!」
 カイマはトールランナーから離れつつバルカンを撃ち続けるが、トールランナーはジグザグに跳躍してバルカンを回避していき、徐々にカイマに近付いてきた。
「くそ! 何故当たらねぇ、いい加減に当たりやがれ!」
「ターボスピード! はぁああああ!!」
 トールランナーは足の裏に車輪を出してローラースケートの要領でスピードを上げ、あっという間にカイマの目の前まで迫った。
「おりゃあっ!」
──ザシュッ!
 トールランナーは再びカイマのボディを斬り、カイマはバランスを崩し、スピードを出していたため派手に吹っ飛んだ。
「そんでもって、ほらよ! ランナーホイール!」
 トールランナーは脚部についているタイヤを取り外し、空中で吹っ飛んでいるカイマに発射した。
「ぐはっ!」
 空中でランナーホイールの追撃を受けて吹っ飛ぶスピードは加速し、カイマは壁に激突した。
「ぐ……くそ、調子に乗りやがって……くっ」
 カイマは立ち上がるが、脚から火花が散っている事から分かるように脚のダメージが予想以上に大きく、先程のように早く移動をする事は出来なくなっていた。
「今だ! ファングラム、合神だ!」
「ああ! 出でよ! カイザーバーン!」
──グオオオオオ!!
 カイザーバーンが空から舞い降りた。
「光呀合神!!」
 辺りが光に包まれた。
 カイザーバーンが起き上がり、胸のパーツが左右にスライドして肩のアーマーに変形し、胸部と頭部の無い人型の巨大ロボットに変形した。
「とぉっ!」
 ファングラムが飛び、ファングラムの胸の狼の頭が水平に上がり、腕が上にスライドし、前に水平に倒れ、両腕が合わさり、狼の顔の下につき肩にある角が下に倒れて上顎の牙になった。 次に足が前に水平に倒れ、両足が合わさり、下顎の牙になった。 巨大な狼の頭部に変形したファングラムが人型に変形したカイザーバーンの胸部に納まった。 更にカイザーバーンの頭部がファングラムの頭部に被さり、顔がマスクに覆われた。 そしてカイザーバーンの手の爪が腕に装着し、新たな手が現れた。 最後にカイザーバーンの尻尾が消滅し、頭部の眼に光が灯った。
「天空神! カイザァァァファングラム!!!」
「合体されたか、くそっ! 喰らえ喰らえ!」
 カイマは手からバルカン砲をカイザーファングラムに向かって撃つが、カイザーファングラムはビクともしなかった。
「効かないな。今度はこっちの番だ! グラムセイバー!!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーを召喚し、鞘から抜き、両手で剣を天高く掲げた。
「はあああああ!!」
 グラムセイバーが金色に光り、刀身が白い光に包まれた。
「とおっ!!」
 カイザーファングラムは大きく羽ばたかせ、空高く飛んだ。
「アークスラッシュ!!」
 カイザーファングラムは今度は羽ばたく事をせず、カイマに向かって目に見えない程のスピードで急降下した。 それはまるで空に光の線が引かれている様だった。
「たあああありゃああ!」
──ザシュッ!!!
 カイザーファングラムはカイマの身体を斬り裂いた。
「そ……そんな馬鹿なぁぁ……ぐああああぁぁ…………」
 カイマは真っ二つに切断され、光に包まれて消滅した。
 地上に降り立ったカイザーファングラムはグラムセイバーを血払いするように振り降ろし、剣を鞘へと納めた。
「浄化完了!」
──ガオオオオッ!!
 カイザーファングラムの胸にある狼の口が雄叫びを上げた。 それはミッドガルドの人々にカイザーファングラムの勝利を告げている様に聞こえた。




「さすがカイザーファングラムだぜ!」
 トールランナーは飛び上がって右手の指をパチンと鳴らした。 彼は真面目なトールガーディアンとは違ってノリの軽い性格をしているようだ。
「スリュムは?」
 カイザーファングラムは辺りを見渡してスリュムを探した。
「すでに逃げてしまったようです」
 戦闘中、目を離した隙にスリュムは姿を消してしまっていた。 おそらく今回はもう襲って来る事は無いだろう。
「畜生! 逃げ足の速い奴だ! 今度会ったらこのトールランナー様が倒してやるぜ!!」




「トールランナー! 君は命の恩人だよ」
 ラッシュはトールランナーの元へ駆け寄った。
「まったく無茶しやがって、これに懲りてもっと冷静になってくれよ」
 巨大ロボットなロボットに攻撃されれば人間はひとたまりも無い。 それは分かっていたのだが、純粋にレースを楽しみたかったラッシュにはスリュムのした行為は許されない。 その結果スリュムを挑発して戦いを挑んだのだ。
 今回はトールランナーが目覚めたという奇跡が起きたため命が助かったのだが、奇跡はそう何度も起こらない。 これからはもっと命を大切にしよう。
「あぁ。心に刻んでおくよ」
「ねぇ、ジーク兄ちゃん」
「ん? なんだい?」
 桐斗がジークの名を呼んだためジークは桐斗の方を振り向いた。
「僕気になったんだけど、ラッシュさんがいつもサガストーンを持っている時にレースで勝つのは、トールランナーのおかげなの?」
「桐斗! 何て事聞くのよ!!」
 桐斗がそう聞くとジークは笑みをこぼした。
「ははは、レースにサガストーンは全然関係無いよ。桐斗君だって俺が眠っていたサガストーンを持っていたからといってテストが良かったって事はあまりなかったでしょ?」
 肌身離さず学校にまでサガストーンを持っていたのだが、桐斗のテストは良い時もあれば悪い時もある。 その経験からすればやはりサガストーンは関係ないみたいだ。
「う……確かに。でもどうしてなの?」
「神様の眠っているお守りを持っているから負け無い! っていう強い気持ちがいい方に働いて、彼の力を自然と上げているんだよ」
 要は気持ち次第という訳である。サッカーでも強いチームと戦う時、強い気持ちで挑んで勝った時が桐斗にはあった。それと同じ様なものだと桐斗は理解した。
「そうなんだ! ラッシュさんってすごいんだね!」
「ははは、ありがとう。でも俺から見たら桐斗の方がすごいよ。まだ小学生なのに神様と一緒に巨人と戦っているんだからな。これからトールランナーをよろしくな!」
「よろしく頼むぜ、坊主!」
 トールランナーは桐斗に手を差し出した。
「うん、よろしく! トールランナー」
 桐斗はトールランナーの人差し指と握手をした。
「ん? お姉ちゃん何モジモジしているの?」
 桐斗が美亜を見ると美亜は何かをしたそうにモジモジしていた。
「あの……ラッシュ様! サイン下さい!!」











次回予告

ジーク
「サガストーンを求めて俺達は神話の地、スウェーデンへ訪れる。そこで神話に登場する勇者が語られる。 そして攻撃が全く通じない怪物の前に大ピンチのヴァルキリー。そのピンチの中で……。

次回、勇者神記ファングラム

SAGA・6『勇者の意味』


 今、新たな神話が記される」













<NEXT SAGA>