──ダダダダダッ!
 桐斗はあるサガストーンについての重大な事に法則を発見した。 そしてそれをジークに伝えるため階段を一気に駆け下り、風呂掃除をしているジークの元へと行った。
「どうしたんだい? そんなに慌てて」
「ジーク兄ちゃん! 僕気付いたよ!」
「気付いたって何をだい?」
「サガストーンの在処だよ。サガストーンはテレビが教えてくれるんだ!」
 確かにトールガーディアンとトールランナーのサガストーンはテレビのおかげで発見する事が出来た。 そういえばトールガーディアンの際、ジークはテレビでサガストーンの情報をやっていると言っていた。 テレビを見たいためにふざけていい加減な事を言ったと思っていたが、今となっては本当の事である。 やはり神の力は偉大なのだ。
「だからさ、次のサガストーンの在処も絶対にテレビが教えてくれるはずだよ!」
 2度ある事は3度ある。 ならば次のサガストーンもおそらくテレビを見ていれば映し出される筈だ。
「だからジーク兄ちゃん今からテレビを観よう!」
「そうだね。今から面白いワイドショーが始まるからきっとその番組内でサガストーンの情報が出る筈だよ」




勇者神記ファングラム







翌日
 昨日はワイドショーを終え、そのまま夜遅くまでテレビを見ていたが、一向にサガストーンの情報は得られなかった。 そしてこの日もずっとテレビを見続けていた。
「情報出ないね」
「そういう日もあるさ」




翌々日
 昨日も一昨日と同様にテレビでサガストーンの情報は一切出なかった。 そしてまた今日もテレビを見続けてサガストーンの情報を探していた。 長時間のテレビが連日続いたため目に疲労が溜まり、目が痛くなってきている。
「情報出ないね」
「そういう日もあるさ」




翌々々日
 昨日も一昨昨日と同様にテレビでサガストーンの情報は一切出なかった。 そしてまた今日もテレビを見続けてサガストーンの情報を探していた。 長時間のテレビが連日続いたため目に疲労が更に溜まり、目の下に隈が出来ていた。
「情報出ないね」
「そういう日もあるさ」




翌々々々日
 昨日も……以下同文。
「情報出ないね(桐斗)」
「そういう日もあるさ(ジーク)」




翌々々々々日
 昨日も……以下同文。
「以下同文(以下同文)」
「以下同文(以下同文)」




翌々々々々々日
以下同文。




翌々々々々々々日
 昨日も一昨昨昨昨昨昨日と同様にテレビでサガストーンの情報は一切出なかった。 そしてまた今日もテレビを見続けてサガストーンの情報を探していた。
「情報出ないね(桐斗)」
「そういう日もあるさ(ジーク)」
 そして桐斗はようやくある結論に達した。
「それ言うの7回目だよ!  今、実は同じ日をずーーっと繰り返していたんじゃないのかと思っちゃったよ!  目の下の隈が日に日に酷くなったり、日を重ねる毎にどんどんテンションが下がったりしていて微妙に違うから新しい発見があって良いって言う人もいるかもしれないけど、完全に手抜きだよ!  …………もしかしてトールガーディアンとトールランナーの時は偶然テレビに映っただけじゃないの?」
「うん、その可能性が高い、というより確定だね。これは」
 やはりこの神様の言う事は頼りにならない! 桐斗は無神論者が心底羨ましくなってきた。いや、無神論者だけでない。今なら悪魔信仰さえもまともな信仰に思えてくる。
「無駄な時間を過ごしちゃっただけだよ! だからサガストーンはどこにあるのさ!?」
 もしかしたら本当は知っていてはぐらかしているのでは無いのか? 念のため、そして連日のストレスが溜まったため桐斗は強くジークに問いただしてみた。
「世界中に散らばってしまっているからねぇ。神でもわからない事はわからないものなんだよ。何たって、神もまた完璧な存在ではないからね。ははは!」
 駄目だコイツ…………もし……生まれ変われるのならば…………私は無神論者になりたい。
「……でも、館長さんもラッシュさんも北欧でサガストーンを手に入れているからこの際北欧に探しに行ってはどうかな?」
「北欧か、確かにサガストーンがありそうだね。でも北欧ってすごく遠いよね。どうやって行けばいいの?」
 北欧は日本から飛行機を使っても10時間以上はかかる距離である。 突然行くにしても飛行機のチケットも無く、また時間も無い。そして極め付けにジークにはパスポートが無い。パスポートが無ければ日本から出る事すら不可能である。
「それなら問題無いよ。カイザーバーンには長距離高速飛行能力があるからね。カイザーバーンに乗ればどこにでも行けるよ」
 今ようやくジークがマトモな事(ファンタジックで非現実的ではあるものの)を言った気がした。 この神様なら「俺がファングラムだ」と言いながら操縦室に武力介入して飛行機を借りようとか言いかねない。
「でも欠点があってね。長距離を飛ぶとカイザーバーンの魔力を多く消費するから北欧で巨人が現れてもカイザーファングラムになる事は出来ないんだ」
「じゃあファングラムだけで戦わなければいけないの?」
「いや、確かにカイザーファングラムにはなれないけど、トールガーディアンとトールランナーも乗せて行く事ができるからね。3体で協力すれば十分戦えるよ」
「えっ! カイザーバーンの大きさじゃあそんなに乗せられないはずだよ」
「カイザーバーンには空間圧縮機能があるから乗せて行けるよ」
「そうなんだ。後で困りそうな程都合良く便利な能力だね。今回しか存在しない設定というのがバレバレだよ」
 なんだかんだ言ってもやはり神、いろんな意味で人間の常識を逸脱しているようだ。
「それじゃあ、今すぐに行こう!」
「えぇ! 今からなの!?」
「俺達がこうして貴重な【時】というものを使っている間にも巨人の脅威が刻一刻と人々に近付いて来るんだから。そして、その悪しき巨人の野望を阻止できるのは、俺達勇者神ヴァルキリーだけだ」
 そう言うとジークはいつもの穏やかな顔から険しい勇者の顔に表情を変えた。
「いつものんきなのにこんな時だけ最もらしい事言わないでよ!!」
 もしかして単に北欧へ行きたがっているだけでは無いのかだろうか? そんな不安が脳裏に浮かんだが、これ以上家に居ても無駄なだけなので結局北欧に行く事にした。
「さてと、準備準備〜40秒以内に準備〜〜」
 ジークは訳のわからない歌を歌いながら本棚から本を取り出し、それをバッグにしまっていた。 バッグに入れる際、チラッと見えた本のタイトル、『かんこうがいど はじめてのすうぇーでん』。そしてジークが先程までテレビを見ながら読んでいた雑誌の表紙には『特集! フジヤマ空港からゆくスウェーデンのグルメツアー』との文字が。




スウェーデン
 神獣カイザーバーンはあっという間にスウェーデンに到着した。 地球も狭くなったものだ。
 カイザーバーンは街から少し離れた人目の付かない森に着陸した。
「カイザーバーンって速いんだね。もう着いちゃったよ」
「だから言ったろ。 さて、これから街に移動するんだけど歩くには少し遠い距離だねぇ。 さて、どうしようかな?  戦車(トールガーディアン)で街中を爆走するのも中々面白そうだけど……桐斗君睨まないで、冗談だから。 トールガーディアンはここで待機していてくれる?  トールランナーは車になって俺達を乗せてくれ」
「了解しました」
「OK! チェーンジ!」
 トールランナーは掛け声と共に真っ赤なレーシングカーへと変形した。
 いや……レーシングカーで街中を疾走しても十分目立つのだけれど……。 桐斗はその言葉が喉まで出掛かっていたが、トールガーディアン、トールランナーが使えないのならば残された可能性は…………巨大な銀狼。 巨大な銀狼>戦車>レーシングカーと目立つ順に並べて最も地味で目立たない真紅のレーシングカーで妥協する事にした。
「早速街に行って聞き込み調査をしてみようか」
「そうだね。僕がサガストーンと一緒に写っている写真を持って来て正解だったね」
 桐斗はポケットから写真を取り出した。
「それじゃ、行こうか」
 トールランナーは山道から舗装された道路を走り出した。
「うわぁー日本と景色が違っていて新鮮ー!  ……って! トールランナー左側通行してる!!  ここは日本じゃないんだから!!  スウェーデンは車右側通行なんだからね!!  うわっ!! 対向車来てる!! 右! 右! 早く右側走ってよぉぉぉ!!!」
「ははは、日本と違って外国はスリルがあって面白いねぇ」
「馬鹿ぁぁぁ!!!」




 街に到着して数分後、到着した直後には「もう駄目…………僕は本当は交通事故か何かにあって植物状態でこれは夢なんだ…………だからファングラムなんて本当はいないんだ……そっちの方が幸せさ、ふふふ…………」 と意味不明な事を言っていた桐斗も次第に元気も回復し、2人は街を歩いている人を呼び止めて写真を見せていた。
「すみません、この写真に写っている石を知りませんか?」
「知らないねぇ」
「うーん、見た事無いよ」
「綺麗な石ね。何ていう宝石なの?」
 街の人はサガストーンを見た事が無く首を横に振るだけであり、情報は一向に入ってこない。
 余談だが当然桐斗はスウェーデン語を話す事が出来ない。 何故会話がスウェーデン人と会話が成立しているかと言うと……未来から来た青いロボットの道具を使用したからではなく、単にジークがスウェーデン語を話す事ができ、通訳の文章を省略しているからである。




 街で聞き込みを開始して2時間が経過した。
「こんなに探しても誰も知らないね」
「そうだね。やっぱり大昔の石の事を知っている人は少ないみたいだねぇ。それよりもせっかく北欧に来たんだから有名な名所に行ってみようよ!  1991年スウェーデンで最初に世界文化遺産に認定されたドロットニングホルムの王領地とか街自体が世界遺産で軍港が有名なカールスクローナとか。 タヌム岩絵群には大昔の人が描いた絵が残っているんだって。 もしかしたら俺やファングラムの絵が描かれているかもしれないよ。 うん! 描かれている筈だよきっと。 だからそこに行けばサガストーンの情報とか役立つ情報があるよ。 ね、行こう(『はじめてのすうぇーでん』を開きながら)」
 やはりそれが目当てだったのか!! この神様は間違いなく今回の調査を観光や里帰りと勘違いしている!
「か……神様じゃ!」
 桐斗が呆れ返ったその時、道を通りかかった老人がジークを見て神と叫んだ。
「えっ! おじいさん、今このお兄ちゃんを見て神様って言ったの?」
「ああ。この青年はこの地方に伝わる神様にそっくりなんじゃ」
 この地方に伝わる神、この老人は勇者神ヴァルキリー、ジークの事を知っているのであろうか。
「じゃあ、おじいさんはこの写真に写っている石を見た事がありますか?」
 桐斗は老人に写真を見せた。
「これは……サガストーン! 坊や、どうしてこれを?」
 この老人はジークの事だけでなくサガストーンの存在も知っているようだった。
「僕のお爺ちゃんに貰ったんです。おじいさんはサガストーンについ何か知っているんですか?」
「ああ。そうじゃな、色々と話す事があるから、わしの家に来んか?」
 知らない人に着いて行くなと先日学校で先生から言われたばかりであったが、その老人と会った場所が公園ではなく街中で、 ベンチに座らずに立っており、服装が青いツナギではなくスーツを着ていたため変な人では無いと桐斗は思った。
「はい!」
 桐斗とジークはこの老人の家へ行く事にした。
良い子はみんなは知らない人について行かないように。ファングラムとの約束だ!
 老人は街までバイクで来ていたため家までバイクで先導してもらう事となった。 また、この老人は日本語を話す事ができ、ジークの通訳を介入させる必要がない事を知った。




 車(トールランナー)を走らせて30分程すると老人の家に到着した。 家というには巨大であり、昔話や絵本の世界に出てくる様な中世の城だった。 トールランナーとバイクの白熱のカーチェイスが終わり、城に着いた頃には「……おのれぇ、ファングラムめ、僕の日常まで破壊したな……」という再び訳の分からない言っていた桐斗であったが、数分後には元気を取り戻していた。
「わしはハーメンという者じゃ。これはわしの家に古くから伝わる神様の絵じゃ」
 ハーメンは納屋から1枚の絵を持ってきた額の布カバーを上げた。
「この絵を見てくれ。これを見てどう思うかの?」
「すごく……ジーク兄ちゃんです」
 絵の神様はジークと瓜二つの顔をしていた。
「嬉しい事言ってくれるねぇ。この絵は間違いなく俺の絵だよ」
 あらかた予想はしていたが、やはり絵の神様はジークであった。
「な、なんと! あなたがジーク様でありますか!?」
「うん。ジーク兄ちゃんは僕がお爺ちゃんから貰ったサガストーンに眠っていた神様だよ」
「…………もしや。……坊やの名前は何て言うんじゃ?」
 確かにハーメンが自分の名を紹介しておいて自分の名前を教えていないのは失礼だ。 桐斗は自己紹介をする事にした。
「僕の名前は駆羽桐斗だよ」
 ハーメンは桐斗の名を聞くと驚いた表情をした。
「カルバキリト! 桐斗君、君のお父さんとお爺さんの名前は何て言うのじゃ?」
「お父さんが桐汰(きりた)で、お爺ちゃんが桐蔵だよ。僕の家の男はみんな桐と言う字をつけているね」
「やはりな……桐斗君、桐斗君の名前からカとトを抜いてルとバを反対にしてごらんなさい」
……カルバキリト
……ルバキリ
「えっと、バルキリ…………ヴァルキリー!!」
「そう……君をエインヘリヤルに選んだのはそういう意味だよ」
 ヴァルキリー、桐斗の名前の由来。 そしてそれこそが桐斗とジークを結びつけていたものであった。
「そ……そんなのきっと偶然だよ」
「偶然では無いぞ。君の先祖はこの北欧地方に住んでいたカルヴァという苗字を持つ人だと思うのじゃ。なぜならその長男の名前には必ずキリがついていたそうじゃ。そのキリの名を持つ者は神様が眠っているサガストーンを伝承したそうじゃ」
 桐斗の記憶には微かに心当たりがあり、そう言われてみると段々と思い出されてきた。
「そ……そういえば……ひいお爺ちゃんはヨーロッパの北の方に住んでいたって聞いた事があるよ。でもその僕の先祖はどんな事をしたのですか?」
 先祖のした偉業、それを知る事で桐斗が今のエインヘリヤルとして出来る事がある筈である。
「桐斗君の先祖にあたる方はエインヘリヤルとして勇者神と共に巨人と戦ったのじゃ。人々は彼を勇者と讃え、当時の王がこの地域の勇者神の名『ヴァルキリー』から取った『キリク=カルヴァ』という新たな名を彼に送ったそうじゃ。そしてキリク様はラグナロクが終わり、ヴァルキリーがサガストーンに眠った時にサガストーンを護るために所持していたのじゃ」
 桐斗の先祖がサガストーンの守護者だった。 それならば、桐斗には1つの疑問が浮かんできた。
「じゃあ、どうして僕の家にはジーク兄ちゃんとカイザーバーンのサガストーンしか無かったのですか?」
 駆羽家にはジークとカイザーバーン、2つのサガストーンしか無かった。 もしサガストーンの守護者であれば当然もっと多くのサガストーンを持っている筈であり、いい加減な神様に振り回される数日も無かった筈である。
「何百年か後にカルヴァ家に泥棒が入ってしまいサガストーンが盗まれたのじゃ。しかし、幸いにしてジーク様とカイザーバーン様のサガストーンだけは盗まれ無かったのじゃ」
 結論、用心は大切である。良い子のみんなも家から出る時は必ず鍵をかけよう。ファングラムとの約束だ!パート2!
「そうなんだ……。そういえば、前からずっと気になっていたんだけど、ヴァルキリーって確か綺麗な女の人の事じゃないの?」
 ヴァルキリーと聞くと金髪や銀髪で青い鎧を身に纏った綺麗な女性を連想する人が多い。 現に桐斗も何故男性であるジークやロボットの格好をしているトールガーディアンやトールランナーがヴァルキリーに所属しているのか疑問に思っていた。
「その事ね、最初のヴァルキリーが女性だったからだよ」
「え、最初のヴァルキリーって女性だったの!?」
「銀月の勇者、白銀の勇者といわれたフギン、太陽の勇者、黄金の勇者といわれたムニン。勇者神の歴史はその2人の女神から始まったんだ」
「へー、勇者神にもやっぱり女神様がいたんだ」
 どうやらフギンとムニンという女神が勇者神ヴァルキリーの始まりであり、彼女達のイメージが一般的に認知されているヴァルキリーと結び付いたらしい。 おそらく彼女達はヴァルキリーの代名詞になる程雅で凛々しく、美しい神なのであろう。
「フギンとムニンは俺の世代よりもずっと前の勇者神だけど、今というか、俺の世代のヴァルキリーにも女神はいるよ。ヒルドと言う神がね。フギンとムニンもそうだけど、彼女も現在よく知られているヴァルキリーみたいな感じだよ。金髪をして青い鎧を着ているからね」
 そしてヒルドという女神も一般的なヴァルキリーらしい女神だそうだ。桐斗はヒルドという女神に会ってみたくなった。おそらくステレオタイプの戦乙女ならばどこかの日常の破壊者よりはまともな神様であろう。
「それで桐斗君、わしも1つだけじゃが、サガストーンを見付けたのじゃ。持って行って欲しい」
「本当ですか!?」
「この城はわしの先祖がこの地帯の領主であったため子孫のわしが住んでいる訳じゃが、この前城を掃除しておったらこの城に関する古い書物を見付けたのじゃ。 先祖はこのサガストーンがエインヘリヤルの持つべきものであった事を知ったが、そのエインヘリヤルがどこにいるのかまでは知らなかった。そのためこの城のどこかに隠し、勇者が訪れし時、勇者の石を授けると書物に残しておったのじゃ。そしてわしはこの城の中をくまなく散策した所、サガストーンのある部屋へ行く隠し通路の入り口を発見したのじゃ」
「そして勇者神は乗り物に融合すると聞いておる。そこで究極であり、最強の乗り物を用意したぞ。よっこらしょ」
 ハーメンは椅子から立ち上がった。
「さぁ桐斗君、ジーク様、ついてきなされ」
 ハーメンは桐斗達を地下室へと案内した。




 三人は地下室へと降りた。 地下室はコンクリートに囲まれており、地下シェルターといった方が表現が正しいイメージである。
「これじゃよ」
 ハーメンは地下室にある1台の乗り物のシートを外した。
「これは……ドリルタンク!」
 そこには前部に2つの漢気溢れる浪漫の結晶、巨大ドリルを装備した緑色のドリルタンクが置いてあった。
「確かに強力な乗り物だね。どうしてこれを?」
「必ずエインヘリヤルがサガストーンを求めてここにやって来ると思ってな。ついでに用意しておいたのじゃ。もちろんこのチョイスはわしの趣味じゃ。このドリルで巨人を突け!」
 ハーメンは人差し指を天に向けるように腕を上げた。
「それは有り難い。ここまで俺達に協力してくださってありがとうございます」
「なになに、ジーク様や桐斗君はわしらのために戦ってくれておるのじゃ。このくらいの協力は当然じゃ」
「それで、サガストーンはどこにあるのですか?」
「おおっと、そうじゃ。忘れておった。ここじゃ」
 ハーメンはドリル戦車を指差した。
「はっ?」
「このドリル戦車の下に入り口があるのじゃ。というより、入り口の上に停車させておいたのじゃ」
「何故わざわざこんな所にドリル戦車を……」
「忘れるといかんからの。目印にしておいたのじゃ。はっははは!」
 まぁ、こんな目立つものが目印だったらいくらボケたとしても忘れないだろう……。
「よっこらせ」
 ハーメンはドリル戦車の下の床にある取っ手を引くとそこから地下室へと続く階段が現れた。
「ここが地下への入り口じゃ。この先はわしも入った事がないのじゃ」
 ハーメンがまず入り、ジークと桐斗がその後に続いた。
「こ……これは!!? 埃っぽい」
 そしてあるトラウマが甦った。 もし、行かない選択肢があるのならば今度こそその選択肢を選びたい。
「さぁ、地球のためじゃ。勇者達よ、進むのじゃ!」
「やっぱり!!」
 やはり地球の危機の前では埃まみれになる犠牲は避けられないものである。
 そして歩き始めたのは良かったが、燭台1つない地下階段。地上の光も次第に届かなくなってきた。
「もう真っ暗で何も見えないよ」
「桐斗君、こういう時はアースブレスを使うんだ」
「えっ、アースブレス?」
「アースブレスの左にあるボタンは灯りが付くんだよ」
 桐斗はジークに言われるままアースブレスの左のスイッチを入れ、灯りをつけた。
「アースブレスって結構便利なんだね。じゃあこのスイッチは何が起きるんだろう?」
──ポチ
 桐斗は次に右にあるボタンを押した。
「桐斗君! それは自爆ボタン!!」
 自爆まで20秒前。
「はっ!? 何でアースブレスにそんな機能付いてるの!!?」
「アースブレスが悪の手に渡った時、悪人がこのボタンを押すための設定だから」
「設定って何!? こんな所にあったら悪人じゃなくても押しちゃうでしょ!」
 5秒前
「カウントダウン始まった!」
 4
 3
 2
 1
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
──ドッカーーーン!
「ま、設定だから音だけだけどね」
「スーパー馬鹿野郎ーー!!」
「…………先を進みたいのじゃが、漫才は終わったかの?」
「はい……。お時間取らせました。先に進みましょう」
 3人は歩くのを再開した。




 3人が歩き始めて既に何十分かが経過していた。しかし、同じ様な地下通路が続くだけで何の変化も見られず、3人はただまっすぐに同じ様な道を歩き続けていた。もしかしてこの歩くだけの行為に終わりは無く永遠に繰り返されるのではないかと思い始めたその時。
「大変だ! ジーク、桐斗!」
 突然アースブレスに城の外に駐車していたトールランナーからの連絡が入った。 流石神様の道具、こんな携帯電話の電波が届かない地下にいながらはっきりと通信が出来るのだから。 本当、余計な機能さえなければ…………。
「どうした!? トールランナー」
「街ででっかい怪物が暴れまわっているぜ」
「なんだって!?」
 ジークは振り返り、元来た道を戻ろうとした。
「ジーク様待ちなされ! 本によるとこの通路は一方にしか進めない仕掛けになっておるのじゃ。わしらはこのままサガストーンのある間へ行くしかないのじゃ」
「そうですか……。トールランナー、俺はサガストーンを探しているため今すぐにそっちに行く事は出来ない。トールランナー、トールガーディアン2人で怪物の相手をしてくれ。俺もサガストーンが見付かりしだいすぐに行く!」
「わかりました!」
「了解だぜ!」




 街では怪物が暴れまわり大パニックになっていた。
「ギャハハハ! やれ。もっと派手にやっちまえダザン!」
 ダザンと呼ばれたティラノサウルスの様な怪物の肩の上にはスリュムが乗っており、街が破壊される様子を見下ろして楽しんでいた。
「チェーンジ!」
 トールランナー車からロボットに変形した。
「高速神トールランナー! ただ今見参!」
「ん、お前は勇者神ヴァルキリーのトールランナー。何故お前がこんな所にいる?」
「それはこっちのセリフだ! 何故お前巨人がいるのかそっちこそ答えろ!」
「俺様か。俺様はダークストーンを探しに来たのだ。 ここは昔、俺達がミッドガルドと接触した際によく訪れ、ラグナロクの際には戦場の場となった地だ。 この地にはまだ目覚めていない巨人がたくさんいる筈だ。俺様はそれらを探しにきたのだ。 そのために人間達の邪魔な建物を破壊している最中だ」
「てめぇ、許さねぇ。覚悟しやがれ外道野郎! ターボサーベル!」
 トールランナーはターボサーベルを召還して構えた。
「行くぜぇぇ!!!」
 トールランナーは剣を両手持ちしながらダザンへと突撃した。
  ──グオオオオ!
──バシンッ!!
 ダザンは尻尾でトールランナーを打ち飛ばした。
「ぐわっ!」
──ドーーン!!
 トールランナーは叩き飛ばされ、地面に激突した。
「痛ててて……」
──グオオオオ!!
 ダザンは倒れているトールランナーの方を向き、炎を吹くために口を開けた。
「げっ、やべぇ!」
 この状態では回避出来ない事を瞬間的に悟ったトールランナーは防御姿勢に切り替え両手で顔を覆った。
「フルバースト!!」
──ダダダダダダ!!
 無数のミサイルが一斉にダザンに当たった。
「このミサイルは……トールガーディアン!」
 ダザンの後方ではトールガーディアンが身体中のハッチを開いたまま立っていた。
「すみません。遅くなってしまいまして」
「いや、助かったぜ。サンキュー、トールガーディアン」
 スルトは不機嫌そうにトールガーディアンを睨み付けた。
「トールガーディアンまでお出ましか。……ん、そういえばファングラムの姿が見えないな。まぁいい、ダザンよ、この2体を血祭りにするのだ」
 ダザンは腕に付いた無数の刺を飛ばしたが、2体はそれぞれ横に跳んで刺を回避した。
「トールガーディアン、援護頼むぜ!」
「了解!」
 トールランナーは走り出した。
「喰らいなさい、バトルレールガン!」
──ダン!ダン!
 トールガーディアンは後方から肩の銃でダザンを撃った。
──ガアア!!
──ボオッ!!
 ダザンはトールガーディアンの援護射撃をものとせず、雄叫びを上げた後トールランナーに向けて炎の弾をはいた。
「そんな攻撃、この高速神トールランナー様には当たらないぜ! てりゃ!」
 トールランナーは炎の弾を前後左右に跳躍して炎の弾を回避し続け、剣でダザンの足元を斬った。
──ガキン!!
「のわっ!」
 剣はダザンの身をを斬る事ができずにダザンの硬い鱗によって弾かれた。
「畜生! 硬くて全く手応えが無ぇぜ」
「トールランナー離れて下さい!」
「え?」
 トールランナーが振り向くとトールガーディアンは身体中のハッチを開いていた。
「フルバースト!!」
「ちょっ! ちょっと待てぇぇ!!」
──ダダダダダダ!!
 トールガーディアンは身体中のミサイルを放出した。
「おわぁっ! 危ねぇ!!!」
 トールランナーは必死にまさに高速神の名に恥じない程見事にミサイルをスレスレで避け、ミサイルはダザンに当たりダザンの周りが煙に包まれた。
「はぁはぁ……俺生きてる。生きているって素晴らしいー……って! こらぁー! トールガーディアン! 危ないだろうがー!!」
 煙が晴れると殆どダメージを受けていないダザンが現れた。
「ちっ」
「今舌打ちしただろ! ちゃんと聞こえたんだからな! 念のために聞いておくが、もちろん今のはダザンに効果が無かったからしたんだよな?」
「…………」
「そこで黙るなぁー!」




「トールランナーとトールガーディアンが戦いを繰り広げている中〜、俺や〜桐斗君やハーメンさんは〜サガストーンを求めて地下を歩き続けていた〜〜。迫り来る蝙蝠〜〜、襲い掛かるバイオレンス(蜘蛛)〜〜。果たして探検隊は〜幻の幻獣を発見出来るのだろうか〜〜〜?」
「何をやりたいのかわかるようなわからないようなだけど…………少なくともそれは違う! しかも目的変わってるし、幻の獣だから幻獣だからね! それじゃあ頭痛が痛いと一緒だよ!」
 そんなこんなでなんやかんやで3人は依然として地下道を歩き続けていた。どこまでも1本道が続き、まるでメビウスの輪の様に同じ場所をループし続けているのではないかとの錯覚が再び感じられた。
「全く、ジーク兄ちゃんは……」
「ここから先は危険よ」




「え?」
 桐斗は突然聞こえた、聞き慣れない声をした方を向くと辺りは辺りは暗闇で、桐斗と金色の髪をした女性だけがその暗闇の中にいた。
「あれ、ジーク兄ちゃんやハーメンさんは?」
 桐斗はいなくなった2人を探すために辺りを見回すが、数メートル先さえ暗闇で見る事の出来ない空間の中で2人の姿を発見する事は出来なかった。
 そして女性は再び桐斗に話しかけた。
「この先にはサガストーンがあるわ。でも、侵入者を防ぐための罠がいくつも仕掛けられているの。罠に掛かれば君は死んじゃうよ」
「それでも僕はいかなければいけないんだ」
「どうして?」
「そのサガストーンに眠っているヴァルキリーを目覚めさせないといけないんだ」
「目覚めさせてどうするの?」
「巨人と戦ってもらうんだ」
「そう……じゃあ、戦えないヴァルキリーは目覚める価値があるのかしら?」
「え?」
「桐斗君!」




 ジークの呼びかけに桐斗はハッとなり、景色が黒い闇から洞窟内へと変わっており、そこにはジークもハーメンもいた。
「どうしたんだい? 急にボーっとしだして」
「あれ、女の人は?」
 桐斗は辺りを見回したが、先程とは反対で今度は女性の姿が無かった。
「ここには俺達3人しかいないよ。今も前もね」
「嘘、だって今ジーク兄ちゃん達がいなくなって、金色の髪をした女の人がいたんだけど」
「金色の髪か…………まさかな……」
「ジーク兄ちゃん何か心当たりでも?」
「いや、トールガーディアンやトールランナーが戦っている。俺達も急ごう」
「うん!」
──カチッ
「ん、何か踏んだような……」
 桐斗が同意して1歩踏み出した瞬間、彼は何かを踏み、その踏んだ物が地面に埋まる感触を靴から感じた。
「おおっと、言い忘れておった。本によるとわしの先祖はカルヴァ様の様にサガストーンが盗まれないためにこの通路に罠を仕掛けているそうじゃ」
「それ先に言ってよ! ……って、さっき僕が踏んだのって…………」
──ゴゴゴゴゴ…………
 桐斗達の後ろから何やらお約束的な音が近づいてきた。
「……やっぱり」
 桐斗が振り返ると巨大な岩がこちらへ向かって転がってきていた。
「「「逃げろー!!」」」
 3人は全速力で岩から逃げるために走り、その後を岩が転がりながら追っていった。




「はぁはぁはぁ……何か広い部屋に着いた……」
 途中激流の地下水脈や矢が飛んできたり、襲い掛かるバイオレンス(毒蛇)の罠があったが、迫ってくる岩から逃げるのに必死であったためそれらの事は気に留める余裕が無く、いつの間にかこの広い部屋へと辿り着いたのである。 そして今まで3人を追い掛け回していた岩は部屋の入り口で挟まって入り口を塞いでいた。
「岩があるからもう戻れないから先に進むしかないけど、この部屋には一体何があるんだろう?」
 桐斗がアースブレスで辺りを照らしてみると部屋の奥には祭壇があるのを発見できた。
「おおっ、ここがサガストーンのある部屋じゃ(観光ガイド『はじめてのすうぇーでん』を読みながら)」
「読んでる本違うでしょ! ここにサガストーンがあるんだ」
 桐斗は祭壇の前まで歩き出した。
「この祭壇が怪しいんだけど……」
 桐斗は祭壇の辺りを探してみた。その時!
──ボォォォォッ!!
 祭壇の地面から炎が吹き出て祭壇が炎に包まれた。
「桐斗君!」
「いかん! ここにも罠があるとは(観光ガイド『はじめてのすうぇーでん』を読みながら)」
「大丈夫だよ。驚いたけど、炎に当たっていないから熱くないよ。あっ!」
 桐斗は燃える祭壇の中から何かを発見した。それは祭壇の中に隠され、燃える祭壇の炎の中に存在するサガストーンだった。
「あった! サガストーンだ!」
「何だって!」
 ジークとハーメンはすぐに桐斗の元に駆けつけた。
「確かにこれはサガストーンだね」
 ジークは炎の中に手を入れ、サガストーンを取り出した。
「わぁ、このサガストーンはジーク兄ちゃんのと同じ色をしている」
「成る程、これはヒルドのサガストーンだな」
「ヒルドってさっき言っていた女神様だね」
「そうなると、どこかに……」
 ジークは辺りを探し始めだした。
「ないな。ハーメンさん、本にはサガストーン以外に何か記述はありましたか?」
「いや、ここにあるのはサガストーンだけじゃと」
「そうですか……。となると、アレは別の場所にあるのか……」
「ところでジーク兄ちゃん」
「何だい、桐斗君?」
「炎の中にあった石素手で持っていて熱くないの?」
「……アッチイイイイイイイイイイイイイイ!!」
ジークは完璧(パーフェクト)絶叫し、サガストーンを投げ捨てた。
「……馬鹿だ。それでハーメンさん、どうやってここから出るの? 岩が入り口を塞いじゃっているからこの部屋から出られないよ」
「それなら大丈夫じゃ。この辺りにエレベーターがあるそうじゃ」
 ハーメンは本(今度は先祖が書いた本)を開き、エレベーターの記述を探した。
「おっ、あった。ふむふむ、これじゃな」
 ハーメンは本を閉じると、部屋の隅にあるスイッチを押した。
──ヒューン
──ゴン!
「痛!!」
 天井から金タライが落ちてきて桐斗の頭に直撃した。
「おお、すまんすまん。今のは罠のスイッチでエレベーターは隣のスイッチじゃったわい。ははは」
 ハーメンは本物のエレベーターのスイッチを押した。
──チンッ
 古代に作られたものとは思えない近代的な音と共にスイッチの横にある扉が開いた。
「すごい……大昔に作られたのにハイテクだね」
「ただし、大昔に作られたので人力手動じゃ」
「「はぁ…………」」
 桐斗とジークは同時にため息をした。




「ぐああっ!」
 トールランナーはダザンの蹴りに吹っ飛ばされて建物に激突した。
「トールランナー! ぐはぁっ!」
 トールガーディアンはダザンの目から放たれたビームに直撃した。
「くそっ、俺達だけでコイツはキツイぜ……」
「ダザンは私達のようなメタルタイプではなく生身の身体なんですよ……目からビームなんて反則じゃないですか。しかし、それも後少しの辛抱ですよ、必ず……ジークは来てくれますから」
 トールガーディアンとトールランナーはダザンの攻撃によってかなりの負傷をしていた。
──グォォォォッ!
 ダザンは雄叫びを上げると2体目掛けて突進してきた。
「とおっ!」
「ぐ……しまった!」
 トールランナーはすぐに横に回転して突進のコースから外れたが、トールガーディアンはこれまで受けたダメージによって回避行動が出遅れてしまった。
「トールガーディアン!」
「はっ!」
 何者かがジャンプしてダザンの巨大な脚を蹴った。ダザンの興味は自分の脚を蹴った者に変わり、視線を移した。
「2人とも無事か?」
「「ファングラム!」」
 ハーメンの家から出たばかりのジークがすでにファングラムの姿になり戦いに加わった。
「サガストーンはバッチリ手に入れた。今は桐斗君が持っているよ」
「ナイスだぜ、ファングラム。今度はこっちの報告だ。奴は中々強いぜ。だが、俺達がもう少し食い止める。だからその間にカイザーファングラムに合神するんだ」
 ファングラムは首を横に振った。
「いや、カイザーバーンは長距離飛行をすると合神が出来なくなってしまうんだ」
「そうですか……。しかしカイザーファングラムになれなくてもきっと勝機はあるはずです!」
「そうだな。だが……ただ斬り込むだけじゃ勝てそうに無いぜ」
 ダザンは巨大な上に全身を厚い鱗で覆われている。 カイザーファングラムのパワーが期待できない今、苦戦が強いられるのは確実である。
「そうだ! 出でよ! カイザーバーン!」
 ファングラムがカイザーバーンの名を叫ぶとカイザーバーンが空から舞い降りた。
「おいおい、長距離飛行ってのでカイザーファングラムになれないんじゃないのか? 今自分で言ったばかりだろ」
 確かに今カイザーファングラムには合神出来ない。 しかし、ファングラムには何か策があるようだった。
「合神するためだけにカイザーバーンがいるわけじゃないさ。行くぞカイザーバーン!」
「とおっ!」
 ファングラムはジャンプしてカイザーバーンの背中に跳び乗った。
「そうか! そうすればファングラムのままで空を飛ぶ事が出来る!」
「頼んだぞ、カイザーバーン!」
──グオオオオ!
 カイザーバーンは咆哮を上げると羽ばたき、空を飛んだ。
「どんな巨大な敵でも頭を狙えば勝機が見えるはずだ! ファングソード!」
 カイザーバーンは急速度でダザンに突進した。
「ライディングファングスラッシュ!」
 ファングラムはファングソードを横向きにして、ダザンの頭に斬り掛かった。
「これで!」
──ヒュン!
 ダザンはその場に屈んで剣撃をかわした。
「何!? こいつ、巨大な上に素早いだと!」
──ガアアアアアッ!!
──ボオオオオ!!
 ダザンは体勢を戻し、振り向いてファングラムに向かって口から炎を吹き、ファングラムは炎に包まれて火達磨になった。。
「く……ぐあああああ!!」
「ファングラム!」
──ダーーーーーーーーン!!!
 カイザーバーンがバランスを崩し、ファングラムとカイザーバーンは上空から地面に激突した。
「ファングラム、大丈夫ですか?」
「な、何とか……大丈夫だ」
 ファングラムはよろけながら立ち上がった。
「ん? これは……サガストーン!?」
 ファングラムが空から落下したために破壊された教会の祭壇にはサガストーンが飾られていた。さすがヴァルキリーと深く関わっていた地、サガストーンがこんな所にあるとは。
「桐斗君、新しいサガストーンを見付けた」
「えっ! 本当!?」
「君に渡すよ! えいっ!」
 ファングラムは桐斗に向かってサガストーンをオーバースローで投げた。
「ちょっ! 死ぬ死ぬ! そんなロボット形態の力で投げられて直撃したら普通に死ぬから!」
 桐斗は全力で飛んでくるサガストーンから逃げ出した。
「ファングラム! その投げ方は!」
 トールガーディアンがファングラムの投法に気付いた。
「しまった! つい力んでグラニ投法を!」
「何だよその投げ方は!?」
 桐斗は全力で逃げながら叫んだ。
「あれは…………遠い遠い昔の事でした」




 そう、あれは勇者神対抗グレート野球大会の事でした。 私達勇者神ヴァルキリーは決勝戦でケルトの勇者神円卓の騎士と対戦しました。
 そしてあの9回の裏、2アウト満塁フルカウント。 バッターは円卓の騎士のリーダー人神アーサーの融合するカリバーンX。
「こい、カイザーファングラム! この俺様のエクスカリバー(確定された勝利のバット)でサヨナラ逆転満塁ホームランを打ってやる!」
「俺達は負けない! どんな苦しい時も辛い時も、みんなで乗り越えてきた。その長く苦しい戦いをこの1球で終わらせてやる! ゆくぞ! カリバーンX! おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁあ!!」
 振りかぶった瞬間、これまでの激戦によりついにカイザーファングラムのマスクは砕け散りました。 しかし、カイザーファングラムはその身体を金色に輝かせ、全ての力を振り絞ってボールを投げました。
 しかし…………。
──カーーーン!
 無情にもカリバーンXのエクスカリバーからはボールを打つ音が聞こえ、ボールはバックスクリーンへ急速に向かいながら天高く舞い上がっていきました。
 サヨナラ逆転満塁ホームラン、誰もがそう感じていました。
 しかし、その時奇跡が起こったのです。 なんとバックスクリーンへと飛んでいったボールはまるでブーメランの様に戻り、そのままキャッチャーをやっていた私の手へと入りました。




「この奇跡の投球、グラニ投法で投げられた球は絶対にキャッチャーミットに入りました。その後、ジークは伝説の投手と称され、その後我々ヴァルキリーは5連覇をし、誰も打てないからとの理由で野球会自体終わってしまいました」
「無理無理無理! この際、大昔に野球があったんか! とか、何で地球上の勇者神が集まって野球大会やってんだ! とか、そんなどうでもいい場面で最終回演出するな! とかはいいからそんな物騒な投げ方で投げないでよ! どうやったら助かるんだよ!」
「桐斗君、あなたはとてもいい人でした。あなたの事は絶対に忘れません」
「待てぇぇ! 可能性を護る勇者神だろぉぉぉ! 可能性護れぇぇぇ! こうなったら神も仏もあるものか!! 僕の可能性は僕自身が護ってやる! うおおおお!!!!」
 桐斗の走る速度は更に上がっていた。
「ねぇ、どうしてそんなに頑張るの?」




「えっ!?」
 突然声に気付いた桐斗はいつの間にか真っ暗な闇の中を走っていた。それは先程も現れた金色の髪をした女性が桐斗の横を走りながら問いかけてきた。
「この世にはどんなに望んでも、どんなに努力しても、どんなに頑張っても必ずいい結果になるとは限らないのに。可能性を信じて頑張るから絶望が生まれるのに……どうして君はそんなに頑張ろうとしているの?」
「昔僕のお祖父ちゃんが言っていたんだ。神様はただ人の可能性を護ってくれる存在ではないと。神様は一途に頑張っている人の勇気に答えて可能性を護ってくれるんだって。 だから僕は諦めない。勇気を信じながらギリギリまで戦い続け、心が勇気でいっぱいになって自分自身が勇者になった時、神様は絶対に僕の可能性を護ってくれるんだから!  だから僕は自分自身が今出来る事を全力でする……走り続けているんだ」
「君は強いんだ。……じゃあ……神の可能性は誰が護ってくれるのかな? それとも……神は護るためだけの存在なの? 」
「…………それはわからない。でも……もし神様が悩んでいるのならば……僕が動くよ。僕は神様みたいに凄い事は出来ない。でも、出来ないなりに誰かのために何かしてあげられると思うんだ。気持ちしかないかもしれないけど、気持ちだけは神様も人も関係無いと思うんだ」
「………………君ならあの娘を……救えるかもしれないわね…………」




 人々の可能性を護る勇者神ヴァルキリーが眠っているが、今は桐斗の未来の可能性を奪いかねない悪魔の石と化したサガストーンは空気との摩擦によって赤く輝きながら更に桐斗に近付いていた。 桐斗がどんなに一生懸命走ろうが、その距離は離れるどころか近くなっていた。
 それでも桐斗は走り続ける、決して諦める事はしなかった。運命は可能性によって変わると信じて。可能性のため、そして明日のために。
「死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 僕は……僕は生きるんだぁぁぁぁぁ!!!」
 その時、一瞬桐斗は背中を誰かに押された感覚がし、更に1歩進んだ。
──ドォォォォンッ!
 そして、サガストーンは桐斗の1歩後ろの地面に落下した。
 そしてその衝撃で桐斗のズボンのポケットから先程手に入れたヒルドの眠るサガストーンが落ち、そのまま転がっていったのを桐斗は気付かなかった。
「…………生きてる…………し……死ぬかと思った…………。今、誰かに押された…………誰だったんだろう?」
 桐斗は振り返り、辺りを見渡したが、桐斗の背中に手が届きそうな範囲には誰もいなかった。
「……誰だったんだろう…………って、こらー! ファングラム!」
 九死に一生を得た桐斗がファングラムに向かって叫ぶと、ファングラムはすでにダザンと再び戦っている時であり、ダザンの吹き出した炎の弾にファングラムが被弾していた。
「ダザン、ナイス! このまま忌まわしき勇者神にトドメを刺すんだ! って、いかんいかん、つい巨人を応援しちゃったよ」
 桐斗は我に返り、ファングラムから投げられたサガストーンを拾い上げた。
「でも……サガストーンがあってもここでただ目覚めの言葉を言ってもヴァルキリーは目覚めないし……このままじゃ危ないよ」
 ファングラム、トールガーディアン、トールランナーの3体が束になってもダザンの猛攻を止める事は全く出来ない。 そしてダザンはヴァルキリーを相手にしながらもスルトの言った最初の命令、この辺りを焼け野原にする事も忠実に守っており、ヴァルキリーを攻撃しながら炎や尻尾で建物を破壊していた。
「街が……街が燃えておる……」
 ハーメンはごく一般的な市民であるが、自分の先祖は誇り高きこの地の領主、領主とは領民が安心して暮せられるようにする事が使命であった。現にこの地に残る書物には日照りや洪水の際、先祖が様々な手を尽くして領民を救った事が記されている。 その中には命を落とした先祖もいたが、彼らは皆領民の命、そして未来へ続く道を護るために戦ってきた。 その偉大な領主の祖先である自分がただ手を拱いてこの惨劇を見ているだけで許される筈がない。 何か……何か自分でも出来る事があるのではないか? 怪物と戦うためのロボットをもっていない自分が…………。
「そ、そうじゃ!」
 ハーメンは何かに決心し、急いで家の中へ走って行った。
「……ハーメンさん、どうして家に?」
──ズドォォォォン!!
 しばらくして轟音と共に地面に穴が開き、穴からドリルタンクが飛び出して来た。
「これは地下にあったドリルタンク!!」
 コクピットハッチが開き、中からハーメンが顔を出した。
「ハーメンさん! 一体何を!?」
「わしがこのドリルタンクに乗ってダザンの足の下に落とし穴を作るのじゃ!」
「そ! そんな事をしたらハーメンさんが巻き込まれちゃうよ!!」
「この世界が平和になり、若い人たちの未来の可能性が開けるのならばこの老いぼれの命などいくらでもくれてやるわ!! 桐斗君、せっかくのドリルタンクを無駄にしてすまない。サガストーンには他の乗り物を融合させてくれ」
 ハーメンはコクピットハッチを閉め、ドリルタンクは再び地面を潜った。
「ハーメンさん!!!」
──ズボッ!!!
 ダザンの片足が地面に埋まった。
「ハーメンさーーん!! そうだ! 今ならいける! ヴァルハラに眠りし、ヴァルキリーよ、ヴゥルグリンドを開き、ヴィグリーズに集え!!」
 突然桐斗が持っているサガストーンがダザンの足が埋まっている穴の中に入り、緑色の光が穴の中から出てきた。
「ご老人は無事だぞ!」
 地面の中から聞き覚えの無い声がした。
「えっ!!?」
──ズドォォォォン!!
 突然ドリルタンクがダザンの脚が埋まった穴とは別の地面から地上に出てきた。
「チェーンジ!」
 ドリルタンクは声を発し、人型ロボットに変形した。
「世界が平和になるならこの老いぼれの命などいくらでもくれてやる! ご老人、あなたの言葉には未来へ生きる者の可能性を護る意志が感じられた。しかし、ご老人、あなたにもまだ未来へ生きる可能性がある。我はその可能性を護るために目覚めた」
 ドリルタンクから変形したロボットは手の平に乗せたハーメンを地面に降ろした。
「き、君もヴァルキリーなの?」
 桐斗はロボットに呼び掛けた。
「そうだ。我の名は攻撃神トールファイター!」
 攻撃神トールファイター。
彼が3番目のトールの名を持つ勇者神である。
「トールファイター、目覚めたんだな」
「ああ。ファングラム、それにトールガーディアンにトールランナーか。懐かしいが、今は過去を懐かしんでいる場合ではない。奴の鱗が硬くて皆の攻撃が通らないのだな。我に任せろ! ドリルナックル!」
 トールファイターは肩のドリルを手に装着した。
「とおっ!」
 トールファイターはジャンプしてダザンの胸にドリルを突き立てた。
「うおおおおおっ!!」
──ギュィィィィンッ!
 ドリルは音を立てて回転し、鱗を次々と削り破った。
「ファングラム、ここから奴の身体を貫くのだ!」
 トールファイターはダザンを蹴り、その反動で地面に降り立った。
「わかった! カイザーバーン、もう1度行くぞ!」
 ファングラムは再びカイザーバーンの背中に飛び乗りカイザーバーンは天空へと飛び立った。
「行くぞ! カイザーバーン!!」
 カイザーバーンの羽が金色に光り、カイザーバーンは大きく羽ばたいて、更に高く飛んだ。
「カイザァァァスパイラル!!」
 カイザーバーンは羽を折りたたみ、ドリルの様に回転しながらダザン向かって急降下した。
ダザンは逃げようとしたが、足が穴から抜け出せなかった。
──ドシュッ!!
 カイザーバーンがダザンの破壊された鱗を通り、ダザンの身体を貫通した。 身体に大きな穴が開いたダザンは光に包まれて消滅した。
「浄化完了」
 ファングラムは地上に降り立った。




「やったー!」
 桐斗は喜び、その場にジャンプした。
「よくも俺様の可愛いペットを殺してくれたな」
 どこからともなくスリュムの声だけが聞こえた。
「スリュム! 隠れていないで出て来い!」
 ファングラムは辺りを見渡してスリュムを捜すものの、スリュムの姿を見付ける事は出来なかった。
「残念だが、今日は止めておく、それに目的は達成できたからな」
「何だと!?」
「良いダークストーンが手に入ったという事だ。せいぜい今という時間を大切に過ごすのだな。ハハハハハ!!」
 笑い声が段々小さくなり、遂にスリュムの声が止んだ。
「畜生! 相変わらず逃げ足の早い奴だ!」
 トールランナーは拳を握りしめた。




「ハーメンさん、ちゃんとドリルタンクに融合出来て良かったね!」
 桐斗はハーメンの元へ走って行った。
「そうじゃな。それに命拾いもしたのぉ」
 ハーメンはカカカと笑い出した。
「ご老人、あなたが用意してくださったこの身体、有効に使わせていただきます」
 トールファイターはハーメンの目を見ながら、自分の右手を自分の胸の前に当てた。
「おお! トールファイター、お前は大活躍間違いなしじゃ! なんじゃって最強の乗り物ドリルタンクなんじゃから。ドリルは漢の浪漫じゃからな。お前のドリルで敵を突け!」
 どうやらハーメンはよっぽどこのセリフを気に入っているようだ。
「トールガーディアンが戦車、トールランナーがレーシングカー、そしてトールファイターがドリルタンクなんて強力な乗り物揃いだね!」
「桐斗君、カイザーバーンが回復したからそろそろ帰るよ」
 ファングラムはいつの間にかジークに融合解除しており桐斗に語りかけた。
「うん。ハーメンさんいろいろありがとうございました」
「何々、これからもこの世界のため頑張ってくれ。わしはこれからも出来る限りの協力をするからの」
「今回は大収穫だったよ。サガストーンが2つも手に入ったんだから…………えっ!!」
 桐斗がズボンのポケットに手を当てるとようやく異変に気付いた。
「どうしたんだい桐斗君?」
「無い!」
「無いって何が?」
「地下で見付けたヒルドって女神様が眠っているサガストーン!」
「ええっ!?」
「確かファングラムが僕の所にサガストーンを殺人的なパワーで投げてきて、生きるために走っている時にポケットから落ちちゃったんだ」
「……桐斗君、ちゃんと持っていようよ」
「確かに持っていて落としちゃった僕にも非はあるよ。だけど元はと言えばサガストーン投げるジーク兄ちゃんが悪い! 下手したら死んじゃう所だったんだから! こんな所で僕の可能性が終わるのは嫌だよ! 可能性を護る神様ならちゃんと護ってよ!」

──ガタッ
「うんしょ」
 突然金色の髪をした桐斗と同じ歳の女の子が瓦礫の中から這い出て来た。
「はぁ、苦しかった」
 この少女は戦いに巻き込まれたこの地の少女なのだろうか?
「君、大丈夫? 怪我とかしてない?」
 桐斗は少女の下へ駆け寄った。
「ジーク!」
 少女はジークの顔を見るなり嬉しそうにジークの名を呼んだ。
「え、ジーク兄ちゃんこの女の子と知り合い?」
 桐斗は振り返ってジークの顔を見た。ジークは久しぶりに仲間に会う様な、先程トールファイターが目覚めた時にファングラムがしていた表情をしていた。
「ヒルド、久しぶりだね」
「ヒルド……ああ、さっき言っていた女神様、トールファイターと同じ様にサガストーンから目覚めていたんだ…………」
 納得しかけた桐斗の頭の中では先程ジークの言った言葉が再生された。 ヒルドは現在良く知られているヴァルキリーのイメージらしいヴァルキリーらしい。 この女の子は金色の髪をしている。 そこは紛れも無く合格である。 次に、彼女は青色の鎧ではなく布で作られた普通の服を着ている。 そこは……着替えれば合格である。 しかし…………最大の問題がある。 そう、小さいのだ。 単に背が低いという訳ではない、幼いのだ。 一般的なヴァルキリーは大人の女性である。しかし、この少女は桐斗と同じ10歳位の見た目である。 桐斗導き出した結論、彼女はヴァルキリーらしいヴァルキリーではない!
「……って、ええーーーっ!!」











次回予告

ジーク
「サガストーンから目覚めた少女、ヒルド、彼女に秘められた謎とは一体? そして、2つの闇が覆う時、トールチームが1つとなり、雷の戦神へとなる。

次回、勇者神記ファングラム

SAGA・7『トール』


 今、新たな神話が記される」













<NEXT SAGA>