翌日、国連軍襲撃事件はある程度脚色を加えて世間に公表された。
 手配中の一団の仲間とおぼしき鳥型機動兵器が昨晩深夜に国連軍を襲撃。施設を破壊する他、多数の死傷者を出したというのだ。
 当然その報せは風雅の里に避難していた勇者忍者たちの耳にも入り、すぐに陽平はパートナー忍巨兵である獣王クロスに相談を持ちかけていた。
 闇王のときの例もある。ひょっとしたらまだ見ぬ忍巨兵がガーナ・オーダに利用されていることだって考えられるのだ。
 その場合、仲間同士で戦えと指示を出さねばならない琥珀のことを考えると、とても悠長に待ち構えているなどできようはずがない。
 少しでもいい。彼女が笑顔でいられる時間を作らねばならない。
 森に入り、少し走ってから周囲の気配を慎重に探っておく。
 いつ誰が聞き耳を立てているとも限らない。周囲に人がいないことを確認すると、陽平は獣王式フウガクナイを取り出しクロスに向かって話しかけた。
「クロス、聞きたいことがあンだ」
 陽平の呼び掛けに応じたクロスは自らの巫力で小さな立体映像を生み出すと、フワリと陽平の肩に飛び乗らせた。
『キミとこうして話すのも、最近では日常になりつつあるな』
「だな。琥珀さんにあのことを暴露されて以来、誰かと話してねぇと俺が先に参っちまいそうだからな」
 苦笑混じりに頭を掻き、陽平はいつもすまないなとクロスに対し照れ笑いを浮かべた。
『昨夜の襲撃事件についてだな』
 知っているなら話が早くて助かる。
「クロスに聞きたいのは、俺の知らない残りの忍巨兵三体。その中に鳥型がいるかってことだ」
 名前だけならわかっている。だがその容姿について詳しくを聞かされておらず、どれがどのような獣を象っているのか想像もつかないわけだ。
「どうだ?」
 陽平の問いに答えるべきか悩んでいるのだろうと。少しの間沈黙を守っていたクロスも、致し方なしとようやくその固い口を開いてくれた。
『まず結論から言おう。残りの三体に鳥を象った者がいるか否か。……いるのだ。ただ一人だけ、翼持つものが』
 それ以上を話さなくてもクロスの様子を見ていればわかる。その一人こそが獣王クロスの友にして、初代勇者忍者。人から忍巨兵へと生まれ変わった最初の一人、星王イクスなのだということが。
『だがありえない。彼は我々忍巨兵の中でももっとも人を、命を愛していた。そんな彼が砦の襲撃など……』
「モウガの例もある。操られてる可能性はねぇか」
 わからないと頭を振るパートナーに「そうか」とだけ答えると、陽平は小さく溜め息をついた。
 星王イクス。過去、織田信長に貸し与えられた忍巨兵であり、この数百年にも渡る戦の発端ともなった忍巨兵。あまり考えたくはないが操られている可能性は十分にありえる。
『陽平、ワタシからもキミに頼みがある』
「なんだよ」
 珍しい。素直にそう思った陽平は、肩の立体映像に掌に移動するよう促すと、姿勢を正して友の言葉を待った。
『当主命令を破ってはくれないか』
 クロスの口から出た意外な言葉に陽平も少し驚いた様子で目を丸くする。
 現在、当主琥珀から言い渡されている命令は二つ。この風雅の里から出ないこと。そして単独行動を取らないこと。
 つまりはそのどちらか、もしくは両方を破れということになる。
「あんまり琥珀さんに心配はかけられねぇ」
『わかっている。だが、それを承知で頼んでいる』
「ああ。だから、さっさと終わらせてこようぜ。イクスってお土産も連れて帰りゃ許してくれるさ」
 そうと決まれば善は急げだ。それこそ古くからのお約束というもの。
 ズボンの土を払いながら立ち上がり、陽平は手にしていた獣王式フウガクナイから影衣を解放する。
『待つんだ陽平。動くのは陽が落ちてからにしよう』
「まぁその方が見つかりにくいとは思うけど、俺たちが出ればみんな気づくから結局は一緒じゃねぇのか?」
 そもそも忍巨兵が二体も動いて琥珀が気づかないはずがない。それなら昼間だろうが夜間だろうが大して変わらない。いっそ行動が早い方が動きやすいのではないかと考えたのだが、クロスの意見は違うのだろうか。
『ワタシは件の襲撃、イクスの仕業ではないと思っている』
「え、でも……」
『キミは聞いていないかもしれないが、昨夜の鳥型忍巨兵らしき目撃情報は二つある』
 クロスが言うには、昨夜国連軍の他にもそれらしき機影を目撃したという数件の情報が一般からあったのだという。
 その情報によれば鳥型は二機いたらしく、そのうちの一機は先行する機影を追いかけていた様子だったという。
「ってことは、だ。イクスかもしれねぇのは追いかけてた方。そう言いてぇわけだな」
『ああ。そして先行していた機影の撃墜情報がないということは、またそれを追って現れる可能性もある』
「ガーナ・オーダの目的が偽忍巨兵を使って国連軍を攻撃、大多数の人間に風雅を敵対視させることならたぶんもう一ヵ所、沖縄にある基地も狙うはず……」
 国連軍の沖縄基地は兵器開発を主とした施設になっている。さらには東京湾基地に次いで各国首脳陣などの出入りが多いため、攻撃対象としてはうってつけというわけだ。
 偽忍巨兵の正体をできるだけ曖昧にしたいのなら、次も闇夜に乗じて襲撃するに違いない。そしてそれを追うイクスも現れる可能性は高い。
 襲撃者にせよ追撃者にせよ、それがイクスじゃない可能性だってあるのだが、もっともそこは友の勘というものを信じる以外にない。
「敵がイクスだった場合斬れるのか? なんて聞かねぇからな。クロスの友達なら俺にとっても同じことだ。どんな小さな可能性にだってしがみついてやる」
 救うことを諦めない。それはただ一人琥珀の決意を聞いた陽平にとって、義務のようなものなのではないかと思う。
 翡翠を守るためなら犠牲を出すことさえいとわないと考えていた以前とは明らかに違う思考に自分自身が戸惑いつつも、そうでなければ誰かを救う資格などないと苦笑する。
「守るンだ。絶対に……」
 琥珀を救い、翡翠を守り、釧を連れ戻す。そんな強い決意を胸に秘め、陽平は握り締めた自らの拳をじっと見つめていた。





 深夜、陽平とクロスは作戦を実行した。
 一人、闇に遮られた森の中を吹き抜ける風のように駆けていく陽平は、獣王式フウガクナイから影衣を解放すると、同時にあらかじめ勾玉に封じていた獣王と竜王を召喚する。
 紅い獣王クロスフウガと蒼い竜王ヴァルフウガが風に乗って夜空に舞い上がる。
すぐに隠行機能を起動させた二体は、その姿を景色へ溶け込ませるように夜の闇へと消えていく。
 進路を南西に取り、雲海の中を泳ぐように飛行する二体の忍巨兵は、哨戒中の軍関係機と出会わぬよう注意を払いつつも、その意識はお互い別の方を向いていた。
 先ほどから無言のクロスフウガはおそらく星王イクスのことを考えているのだろう。対して陽平の思考は、近頃奇妙な動きを見せるガーナ・オーダに対して向けられていた。
 最近のガーナ・オーダは今まで直接攻撃の多かった武将たちとなにかが違う。陰で動き回り、間接的だがじわじわと風雅忍軍を追い詰めていく。森蘭丸の戦略と似ているような気がするが、蘭丸はなにかをする際はいつも自らが動いていた。
 姿の見えない敵というものの恐ろしさは、こちらが一切の抵抗ができないことにある。なにをされているのかわからなければ、なにが起こるか予測も立てられない。常に神経を張り巡らせ、絶えず緊張感を保っていなければならない。これは想像以上に疲れる行為であった。
 だからこそ琥珀は陽平たちに日常を満喫することを義務付け、できるだけ疲労を減らそうとしていたのだろう。そういうところでも琥珀に守られていると思うと、なんだか本来守るべき立場の自分が情けなくなってくる。
 少しでいい。ほんの少しでも、自分が周囲の人たちの力になってやれたのなら、きっとなにかが変わるに違いない。それがたとえ、変え難い未来であっても。
 夜の空を疾駆する二体の忍巨兵は、徐々に増えてくる監視網に舌を巻きつつも、雲海という隠れ蓑を頼りに沖縄基地上空まで移動することに成功した。
 東京湾基地が襲われたことで、次にこの沖縄基地が襲われることを予測したのはなにも陽平だけではなかったということだ。
 見たところまだ襲撃者の類は現れておらず、周囲に在る怪しい影といえば自分たちくらいのもの。しばらくはこうして隠れながら待つ以外にないのかと肩を落としたところで、クロスフウガと陽平の知覚領域に何者かが侵入した。
 国連軍の戦闘機などではなく、もっと邪悪な意思を持つ者。速く、鋭く、まるで振り下ろされた刃のようにまっすぐこちらへ向かってきている。
「クロスフウガ、まさか……」
「どうやらそうらしい。この反応はまさしく忍巨兵だ」
 飛行型の忍巨兵が迫ってくる。その事実が陽平とクロスフウガに僅かながら動揺を与える。
 東京湾基地のときと同様、謎の忍巨兵は国連軍の機体を残らず叩き落してからこちらへ来るつもりらしい。雲の下で起こる爆発の数はすでに二桁を越えている。
「好き勝手しやがって。クロスフウガ、止めに入るぜ!」
「オウッ!」
 共に翼を広げ、厚い雲の壁を突き破った二体の忍巨兵は、変わらず目の前で繰り広げられる破壊劇に憤りを感じずにはいられなかった。
 敵は……いた。黒い翼の忍巨兵が周囲の戦闘機を切り刻み、一機残らず地上へ叩き落している。
 慌てて逃げようと反転した戦闘ヘリ目掛けて追撃する黒い忍巨兵に、陽平は舌打ちをしつつ急いで竜王を間に割って入らせる。
「そうはさせねぇ。これ以上は俺たちが相手になるぜ、この偽者野郎!」
「観念するんだな。キサマにもう逃げ場はない」
 黒い忍巨兵を挟み背後を取るクロスフウガは、斬影刀を引き抜くとその切っ先を謎の忍巨兵へと突きつける。
 どうやら逃げ場はないと悟ったのだろう。謎の忍巨兵は翼を折り畳むとその場で人型に変化することで自由落下を始め、少しでも距離が開いたと思った瞬間に翼を広げて再び舞い上がる。
「野郎!」
「逃がさん!」
 陽平もヴァルフウガに蒼天之牙を引き抜かせると、弾かれたように飛び出したクロスフウガと同時に黒い忍巨兵へと切りかかった。
 クロスと同等サイズの忍巨兵にしては出力が高いのか、謎の忍巨兵は取り出した太めの槍を構えると斬影刀と蒼天之牙を同時に受け止める。三体の動きはそれだけに留まらず、一合、二合と剣戟を合わせ、そのたびに甲高い音が響き渡る。
 距離を取り、クロスフウガの裂岩とヴァルフウガの蒼裂が飛ぶ。それらを交互に叩き落した謎の忍巨兵は、手にした槍を頭上で回転させ、その切っ先の狙いをピタリとこちらへ合わせてくる。
 不思議と見覚えのある動きだった。決して少なくはない数、この使い手と刃を交えたことがある気がする。それは陽平だけならずクロスフウガも同じだったようで、二人は刀を構えたまま慎重に謎の忍巨兵の動きを捉えていた。
「てぇめぇ、いったい何者だ」
「我々が知らぬのだ。忍巨兵というわけでもあるまい」
「ダンマリかよ。なんとか言ったらどぉだよ、偽者野郎!」
 しばらく無言で通していた謎の忍巨兵も偽者呼ばわりされたことが頭にきたのか、それともまったく別の意思なのか、突然くっくっくっと喉を鳴らしたかと思うと、今度は打って変わって高らかに笑い声をあげた。
 なんとも不気味な声だった。まるで二人の人間が同時に話しているかのように微妙なズレを持った声は、ひとしきり笑い続けると口元を歪めたままクロスフウガを指差した。
「お前が知らぬのも無理はない。だが、このオレが忍巨兵ではないだと? 違うな。オレは間違いなく忍巨兵だ」
「ばかな! リードの生み出した忍巨兵は十四。この地球で生まれた忍巨兵は二。その中のどれにもお前のような者は存在しない!」
 だが、カオスフウガのときのようにこちらが知らぬだけという可能性も捨てきれない。見れば見るほど忍巨兵に見えてくるのだ、この目の前の人型機動兵器は。
 まさかと思いつつも陽平は数多くの可能性を考えていく。まぼろしの十五体目。ただのハッタリ。だが、一番高い可能性は目の前の敵を忍巨兵として肯定することになる。
「……創ったってのか、ガーナ・オーダが」
「忍巨兵を倒すには忍巨兵以外にあるまい。故にオレはこの身体を手に入れた」
 ガーナ・オーダ製の忍巨兵。忍邪兵でも、邪装兵でもない。忍巨兵として生み出された敵側の忍巨兵。
 だが、問題なのは忍巨兵であるためには何者かの意思が存在しているはずなのだ。この黒い忍巨兵には確かに人のような意思が存在している。
 誰だ。いったい何者なんだ。少なくとも、自分はこの相手に出会ったことがある。そして戦ったことがあるはずなのだ。
「二対二、忍巨兵対忍巨兵、条件は同じだ。今度こそ負けはせんぞ、獣王!」
「今度こそって……こいつ、まさか!?」
 凄まじい踏み込みで距離を殺し、槍の一振りでクロスフウガとヴァルフウガを弾き飛ばす。
 今の一撃が証明してくれた。この相手は以前倒したガーナ・オーダの武将、武将帝イーベルだ。そして……
「その程度でかわしたつもりか!」
 斧のように振り下ろされた切っ先がヴァルフウガの肩を僅かに掠める。
 なるほど。どうやらこの忍巨兵には鉄武将ギオルネも混在しているらしい。
「ギオルネとイーベル。わざわざあの世から戻ってくるたぁご苦労なこった」
「凄まじい執念。いや、ここまでくれば怨念とでも言うべきか」
 思わず感嘆の声を漏らすクロスフウガに、陽平も冗談じゃないと苦笑を浮かべる。
「今のオレは、ギオルネでもイーベルでもない。オレこそが……、この姿こそがガーナ・オーダ最強の武将。暗黒の忍巨兵、煉王ダークロウズ!!」
「煉王【れんおう】だぁ? 勝手に忍巨兵作った挙句、王まで名乗りやがって……」
 だが、構えた槍の切っ先をこちらの眉間に定めるダークロウズの放つ気迫に、それらがハッタリなどではないことを容易に納得させられる。
 獣王クロス級のサイズでありながらこれだけの出力を誇る煉王ダークロウズ。おそらくこの場で叩いておかねば、必ず後の脅威になる。
「一度倒した相手だからって手加減はしねぇ! 一気にたたみかける!」
「オウッ!」
 クロスフウガが投げつけた裂岩を避けずに槍で弾き飛ばしたダークロウズに蒼天之牙を袈裟切りで振り下ろす。
 長い柄が跳ね上げられるだけでこちらの刃を反らされる。どれほど切れ味の良い業物でも、刃筋が立っていなければ切ることなどできはしない。
 ヴァルフウガの振り下ろす蒼天之牙を押し返す槍の下から怪しい光を放つ瞳がこちらを覗き見る。ふいに不気味な気配を感じ、左手で掌底を打ち込む勢いで距離を取ると、ダークロウズの頭上で回転する槍から逃れるように頭を低くする。
「ここだ!」
 陽平の合図で背後に控えていたクロスフウガが、斬影刀を逆手に目視できない速度まで一気に加速する。
「霞斬りッ!!」
 絶妙のタイミングで神速の一閃を繰り出すものの、下から上へ跳ね上げられた槍に斬影刀ごとクロスフウガの身体が打ち上げられる。
「その技、いったい何度見たと思っている!」
 もう慣れたとでも言いたげなダークロウズに言葉に歯噛みするクロスフウガの脇を通り抜け、ヴァルフウガの蒼裂が乱れ飛ぶ。
 だが、それさえも容易く弾き返す強固な槍に、陽平は蒼天之牙を逆手にヴァルフウガを加速させる。
「これならどうだ! 疾風斬りっ!」
 霞斬り同様に迎撃しようと振り回す槍を器用に掻い潜り、蒼天之牙がダークロウズの脇腹を一閃する。だが、手ごたえがない。すぐに分身だと気づいた陽平はヴァルフウガの翼を広げ羽ばたいた勢いで風遁を生み出すと、複雑に重なり合ったカマイタチの束を背後に迫るダークロウズに叩きつける。
 カマイタチの束をとっさに槍で受け止めたものの、勢いを殺しきれなかったダークロウズがよろめたのをクロスフウガは見逃さなかった。
「ここだッ!」
 狙ったように頭上へ移動していたクロスフウガのシュートブラスターがほぼゼロ距離でダークロウズを捉えた。
 直撃した威力で落下するダークロウズを追いかけて降下していくクロスフウガとヴァルフウガは、足元に風を巻き起こしながら国連軍沖縄基地の滑走路脇へと着地する。
 追いついたときには既に槍を杖代わりに起き上がり、こちらに向けて怒りの視線を向けるダークロウズに、陽平はギオルネやイーベルに似てよくよくタフなやつだと嘆息する。
 しかしそれも束の間。蒼天之牙を納めると、ヴァルフウガが両の拳をダークロウズへ向けて重ね合わせる。
「さっさとトドメを刺させてもらうぜ。これ以上強力になられても困るンでね」
 両腕の遁煌が生み出す風遁を重ね合わせ、ヴァルフウガ最大の秘技を打ち出す陣を敷く。
 荒れ狂う気流が交じり合い、風は鋼鉄さえも引き裂く竜の牙へと姿を変えていく。
「風遁煌陣っ! ヴァルファングインフィニットっ!!」
 ヴァルフウガの拳を中心に大砲のように放たれた竜巻が極太の槍となってダークロウズに襲いかかる。
 決まった。陽平は確信をもって内心で叫んでいた。神であろうとも避けられはしない完璧なタイミング。ダークロウズの体勢が不十分な上に風遁煌陣はその技の特性上、竜巻によって生まれる気流に阻まれて動きを制限される。もはや今のダークロウズに風の牙から逃れるすべはない。
 だが、今まさに竜巻がダークロウズを呑み込もうというその瞬間、突如陽平の視界の端から何かが割って入った。しかし風遁煌陣は何者であろうとも砕いて通る。ダークロウズを守るというのならばまとめて打ち抜くまで。
 しかし次の瞬間、陽平の表情は驚愕に塗り替えられた。
 あろうことか、それは巨大な翼を一閃させるとヴァルファングインフィニットの竜巻を文字通り真一文字に切り裂き、風遁煌陣の威力を完全に無力化させてしまったのだ。
 陽平やクロスフウガが驚きの声を上げる間もなく襲い来る暴風に、二人はとっさに距離を取ることで正体不明の脅威を回避すると、そこに現れた圧倒的な存在感に目を大きく見開いた。
「さすが、鬼眼を持つ者の成長速度は侮れん。危うく様子見で殺されるところだったぞ、忍巨兵」
 ダークロウズを守るように立ち塞がるそれは、巨大な翼を持つ漆黒に彩られた双頭の怪鳥。そしてその頭部に佇む人影は、陽平の動揺を誘うには十分すぎた。
「なんで、なんでそんなとこにいるンだよ……」
 それは見間違うはずもない。陽平が守るはずの小さな主の姿。
「翡翠ぃッ!!」
 その名を叫ぶ陽平に、怪鳥の頭部で少女がピクリと肩を震わせる。
 左目の包帯が彼女の痛々しさを際立たせ、身に着けた烏の羽のような着物がいつもの翡翠以上にその存在を儚く見せる。
「翡翠……。いや、あれも偽者……なのか?」
「そう見えるなら、そうなんだと思う」
 陽平の疑問にたどたどしく答える少女の声に、陽平は心臓を鷲掴みにされるようなショックを受けた。
 偽者にしてもあまりに似すぎている。どことなく話し方が違うようだが、陽平には彼女が偽者とは到底思えなかった。
 ただ、唯一翡翠とは違う点を上げるなら、彼女は翡翠以上に寂しそうな瞳をしているということだけ。
「玻璃【はり】、十分だ。キサマの力で我が衣ジェノサイドレイヴンを起動させよ」
「は……い」
 玻璃と呼ばれた少女は黒塗りの勾玉を取り出すと、それを握り締め、ありったけの巫力を込めて足元の忍獣に吸収させていく。
「陽平、あれは忍獣だ!」
「まさか……合体っ!?」
 驚く二人に不敵な笑みを浮かべたダークロウズは、額の水晶から毒々しい赤の光を撒き散らし、周囲を赤黒い空間に染め上げていく。
「三位一体」
 呟くように口にした言葉は、言霊となってダークロウズと忍獣、そして玻璃自身を包み込んでいく。
 なんと禍々しい輝きなのだろうか。この背筋を刺すような不気味な感覚は、かつて対峙した忍巨兵と忍邪兵の融合態、腐獣王カオスケラードストライカーを彷彿とさせる。
 ダークロウズの上半身が反転して、胸部にあった鳥頭が翼の中心に移動すると、背面になった胸部へ両腕が折り曲げられる。
 ジェノサイドレイヴンと呼ばれた双頭の刃翼鳥はクリムゾンフウガ同様にパーツへ分解され、それらがダークロウズの脚を、後ろ腰を、背面を覆うと、ギオルネに良く似た頭部が起き上がる。
 額の水晶に玻璃が取り込まれると、右目の輝きに併せて左目の眼帯が砕け、まるで本物の眼球のように生々しい瞳がぎょろりと動きまわる。
「煉王式魔将合体ッ!!」
 クロスフウガとは違う弧を描くような刃翼を広げ、暗黒の忍巨兵がその産声を上げる。
「ジェノサイドッ! ダァァァクロウズッ!!」













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