潮の香りと打っては返す波の音に心地よさを感じていた。
彼にしては珍しくうたた寝をしていたらしく、雲の切れ間から差し込む月明かりに釧はゆっくりと瞼を開く。
獣岬の洞窟。まさかこんな目と鼻の先に釧がいるなどとは誰も思っていなかったのだろう。もうかれこれ二週間近く釧はここに住み着いていた。
洞窟の壁に背を預けながら立ち上がった釧は、月明かりに誘われるように洞窟の外へと進んでいく。
吹き抜ける風が髪を揺らし頬を撫でる。
ここに来てからというもの、不思議と悪夢に悩まされることがなくなったために研ぎ澄ませていたはずの気持ちが穏やかになりつつある。
もっとも、復讐のためだけに戦うつもりもなくなった以上、悪いことばかりでもないのだろう。
あの日、復讐に目が眩んだ釧を止めたのは、尊敬していた師匠の死だった。
すべて失った。もうなにも自分には残っていない。そんな風に思っていた釧は失う怖さから近づく者を遠ざけ、傷つけ、一人きりであろうとした。自分から遠ざけることで守れるものがあると信じたから。
しかし実際に守れたものと言えばちっぽけでしかない自分の古傷くらいのもので、結局奪われて失ってを繰り返した。
師は受け入れろと言った。弱い自分も脆い自分も怖がりで強がりな自分も受け入れることで、初めて真の強さを手にすることができるのだと。誰かのために強くなり、唯一の人のために最強であり続ける。これこそが風雅の、リードの民の生き方なのだと教えられた。
孤独から手にした力など所詮は独りよがりでしかなく、陽平が手に入れた力、獣帝マスタークロスフウガを目にしたとき釧はそれを痛感させられた。
それに気がつけば、いつの間にか自分の傍には失いたくないと感じることのできる者たちがいたことに釧は驚きすら感じていた。
健気にも小さな身体を酷使してまで尽くしてくれようとする幼い巫女や、どれほど突き放しても手を差し伸べることをやめない妹姫。そして他の者には気づかれないよう陰ながら釧を支援し続ける幼い頃に別れたきりのもう一人の肉親。
失ったものはいずれ必ず戻ってくる。そんな奇跡のような言葉を体現しているかのようだった。
ならばいずれ彼も釧の元に帰って来るのだろうか。釧にとっての唯一で、すべてを失って尚、釧と共に在り続けたパートナー。陽平の竜王に敗れ、釧を庇い命を落とした混沌の獣王カオスフウガ。
思えば師、鏡が死んだとき、執拗なまでに陽平の命を狙ったのは、負けたことに対する復讐心よりもカオスフウガを失ったことへの怒りが強かったような気がする。
月明かりに照らし出された銀の仮面に指先で触れた釧は、僅かだが仮面が弛んでいることに困惑の色を見せた。
自らの優しさを殺した証として左半面を覆う銀の仮面が弛むなど、今の今までなかったことだ。
まさか復讐心が揺らいでいることが関係しているのだろうか。そんな風にひとりごちていると、突然釧の頬を不快な風が撫でていく。
汚物に素肌で触れるような不快な風に、釧は獣岬を離れ、接近する強大な気配を探して夜の岬を走り抜けていく。
夜の闇など釧の妨げにもならない。それ以上に目を瞑っていたとしてもこんな気配を見失いはしないだろう。
感覚としては巨腕の忍邪兵や腐王カオスケラードストライカーに酷似している。そんな気配を持つものが敵でないはずがない。
「これか」
海面の一部が濁って見える。どうやら海中にある何かがこの不快な気配の主のようだが、それにしても得体が知れない。
そもそも風雅の戦う織田信長とはいったい何者なのだろうか。
この星の時間にして四百年以上も前になるが、報告を受けた時点ではただの人間だったはずだ。それが忍巨兵をも凌駕する力を振るい、肉体を失って尚存在し続ける。
信長とはもはや人ではなく仙人や妖怪の類いなのかもしれない。そんな結論に釧は苦笑を浮かべた。
「これはいったい……」
釧が海に近より、切り立った崖ぎりぎりの位置で海面を見下ろそうとしたそのとき、空間に滲み出るようになにかがこの場に現れた。
これは忍巨兵だ。初見でそう感じた釧はその姿に自分の知るすべての忍巨兵の姿と重ねて見るが、どれひとつとして当てはまるものがない。
「やはり奴らか」
いつぞや刃を交えたガーナ・オーダの武将が忍巨兵に酷似した忍邪兵を作り出していたが、驚くべきことに、今度のものはあれ以上に忍巨兵寄りの姿をしている。
見たところ満身創痍という言葉が似つかわしいほど傷ついているようだが、ダメージの様子から察するに相手は風雅陽平だ。
追い詰められてここまで逃げて来たのだろうか。いや、海中に見えるなにかを取りに来たと見るのが正しいだろう。
これほど傷ついて尚取りに来るのだ。よほど重要なもの、もしくは奴の切り札的ななにかに違いない。
だとすれば、わざわざ陽平の到着を待つ必要はない。
「来い、真獣王ッ!」
獣王式フウガクナイの光が紅の獅子を呼び、獅子──クロスガイアは刃翼の忍獣サイハを交えて人型に変わる。
「真ッ獣王式忍者合体! ガイアッフウガァッ!!」
鬣をなびかせ舞い上がるガイアフウガが釧の叫びと重なり咆哮を上げる。
謎の忍巨兵こと煉王ジェノサイドダークロウズが振り返ったときには既に胸から切り離した刃、双獣牙を手に、ガイアフウガは斬りかかっていた。
だが腐っても鯛というべきか、満身創痍に関わらずガイアフウガの一撃を大鎌で受け止めたジェノサイドダークロウズに、釧は感嘆にも似た驚きの声をもらす。
「なにッ!」
「おのれ、炎獣かッ!」
聞き慣れない炎獣という言葉に顔をしかめると、左の刃で大鎌の柄を反らしながら右の刃で突き、それすらかわすジェノサイドダークロウズを返す左の刃で斬り伏せる。
「確かに早い。だがその得物の大きさは命取りだ!」
振り回した大鎌の柄を潜り、左の刃でジェノサイドダークロウズの腕を跳ね上げ、右の刃で左胸を突く。
だが相手も一筋縄ではいかない。身体を捻るだけでガイアフウガの突きを避け、その勢いで回転すると自身を守るように大鎌を振り回した。
首を狙われている。今からではとてもかわしきれない。
瞬時に間合いを読みきった釧は、ガイアフウガの頭を獣型に変えると眼前まで迫り来る刃を火遁の爆発で受け止める。
こんな間近で爆発させれば自分も無傷では済まないが、それでも無防備に刃を通すよりは幾分かマシだ。
間髪入れずに体当たりでジェノサイドダークロウズの体勢を崩すと、振り上げた右腕で大鎌を跳ね上げ左腕のロケットギミックを零距離から打ち出す。
鎖の繋がった拳でジェノサイドダークロウズを海面に叩きつけると、頭部を鷲掴みにして宙に放り投げる。
「雷遁、フウガパニッシャーッ!」
高密度に圧縮された雷球をガイアフウガの口から発射すると、釧は左腕を引き戻して双獣牙を構える。
あまんじてあれの直撃を受けるとは思えない。だとすると忍巨兵ならではの高速機動で回避してガイアフウガに接近するはず。
しかし、もし迂闊にもこちらに近づこうものなら真獣王の牙が待ち構えている。こうなると相手の取れる行動は距離を置く以外にない。
だがこの忍巨兵モドキの力は釧の想像を上回っていた。
迫る雷球を直視すると、無謀にもこれを迎撃に入ったのだ。
雷遁のフウガパニッシャーは火遁のものよりも強力なため、これを迎撃しようものなら爆発の余波だけで大きなダメージを受けることになる。
それにも関わらず大鎌を振りかぶったジェノサイドダークロウズは、左目で雷球を直視するとその強大な巫力を解き放つ。
「雷の術だろうが……"切れろ"!」
その言霊が雷球を縛り、大鎌の一閃でフウガパニッシャーが二つに切り裂かれる。
爆発するより早く通り過ぎたジェノサイドダークロウズに舌打ちすると、釧は双獣牙を交差して大鎌の一撃を受け止めた。
「ばかめ! キサマは"切れろ"!」
その言霊に双獣牙も縛られたのか、刃同士がぶつかり合う音が響くより早く大鎌が双獣牙を切り込み、釧は舌打ちをしながら左右の双獣牙を引くと自ら無理やり武器砕いた衝撃によって難を逃れた。
しかし大鎌は尚も迫り来る。手持ちの武器は砕け、拳で受け止めるのは限りなく不可能に近い。サイハを武器にしようにも体勢の崩れた今の状態ではそれすら自殺行為だ。
「炎獣、その首もらったぞッ!」
やられる。生死の境において僅かでも迷ったのは致命的だった。ただの復讐者だった頃の釧なら片腕を犠牲にすることすら迷わなかったはず。
戦いにおいて優しさは不要。そう言い放っていた自分がなんたる様だろうか。
だが、ただでは切られない。今ここで切られると言うのなら、自分の鬼眼にその姿、動き、弱点を焼き付ける。
以前、師や両親に教えられたことがある。鬼眼の中には所有者同士の記憶を共有できたものもあるという。もしそれが本当ならば、それを持つのは間違いなく勇者忍者たる風雅陽平だ。
獣王が選び、翡翠が選び、琥珀が認め、そして時代がもたらした勇者忍者。
皇である自分もいずれは認めなければならないのだろう。
この戦いを終え、互いの決着をつけたあかつきにはそんな未来もあったのかもしれないが、どうやら復讐に身を染めた者に未来はないらしい。
だが冷たい刃が首に触れ、釧が最期と目を見開いたその瞬間、突然超スピードで飛来したなにかがブレーキ代わりにとジェノサイドダークロウズを殴り飛ばしていく。
蒼い竜をその身にまとい、最強の称号を欲しいままにした勇者忍者の忍巨兵。
「おのれもう現れたかッ!」
「獣帝、マスタークロスフウガ……!」
獣帝に飛ばされたジェノサイドダークロウズが海面に激突すると、派手に上がった飛沫が熱くなったガイアフウガの身体を濡らしていく。
突然現れたというのに圧倒的な力と存在感を撒き散らす獣帝に、釧は思わず息を呑んだ。
「てぇめぇを倒すのは俺、だからな」
そう言って不敵な笑みを浮かべる陽平を、釧は複雑な心境のまま無言で睨み付けた。
「そう睨むなよ。俺はお前も守りたいって思っちまったンだからさ」
「余計な世話だ。キサマは翡翠を守っていればよかろう」
そう。翡翠だけを命懸けで守る姿こそ風雅陽平の最強の姿だ。だからこそそれ以外の者を守り、陽平が全力での戦えるようにするのは自分の役目だ。
そのはずが、また陽平に助けられるとはあまりに無様だ。
「俺は翡翠が幸せであれる場所を守りたい。それにはお前や琥珀さん、仲間たちが欠けるようなことがあっちゃいけねぇンだ」
まっすぐで強烈な意志が正面からぶつかってくる。どうやら陽平が強くなったと感じたのは間違いではなかったようだ。
「とにかく無事で良かった。お前には琥珀さんを止めてもらわなきゃならねぇからな」
「琥珀を……止める?」
「二人とも、来るぞ!」
獣帝の声に振り返り、海面を突き破って襲い来る刃翼をかわす。
サイハの翼から一枚を切り離して手にしたガイアフウガは続けて飛び出してきた大鎌を下から掬い上げるように弾き飛ばすと、時間差を利用して真下から現れたジェノサイドダークロウズに先ほどのお返しとばかりに強烈な蹴りをお見舞いする。
「ぐううッ! おのれ調子づきおってッ!」
「そりゃ調子に乗りもするぜ。なんたって……!」
獣帝の拳が割って入り、またも海面に激突するジェノサイドダークロウズに釧は陽平に聞こえぬよう小さく舌打ちした。
「最強タッグだからな」
「勝手にほざいていろ」
ちらりと振り返れば陽平の視線とぶつかった。奇妙な間は一瞬。次の瞬間二人は弾かれるように交互に飛び出した。
「殺すなよ! それの中にいる人を助け出す!」
無茶を言う。ガイアフウガとジェノサイドダークロウズの力は拮抗していると言ってもいい。そんな相手に対して殺すなとは無理難題を押し付けられたようなものだ。
そもそも相手を殺さずに仕留めるなど、釧の経験では限りなくゼロに近い。
獣帝が先回りして防御を崩すと、脇下に位置する銃口から飛び散った光がジェノサイドダークロウズの身体を撃ち抜いていく。
「まがい物の忍巨兵、これで終わりだッ!」
竜王の風遁煌陣のように拳を組み合わせ、雷遁をまといその身体を一筋の雷光と化す。
風牙のひとつ、雷牙。釧のもっとも得意とする風牙であり、風牙の中でも別格扱いの技。
雷光となったガイアフウガが一瞬でジェノサイドダークロウズを打ち抜くと、陽平がやったとばかりにパチンと指を鳴らす。
どうやら一瞬の出来事に関わらず、獣帝となった陽平には打ち抜いた際に釧が玻璃を助け出した姿が見えていたらしい。
忌々しいと思いながらも掌で眠る少女に視線を落とし、その姿に釧は目を見開いた。
「翡翠……だと」
よもや翡翠を奪われていたとは思いもよらず、釧は殺意を込めて陽平を睨み付ける。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そいつは翡翠じゃねぇ! ガーナ・オーダが生み出した翡翠のクローン……複製みてぇなもんだ」
「翡翠を写し取っただと。キサマ、なぜそんな者まで助けようとする」
「そんなの決まってンだろ。俺が助けたいと思った子だったからさ」
ガイアフウガの手から玻璃を受け取り、陽平は当たり前だとばかりにそう言ってのけた。
翡翠一人を守っていればいいものを、この男はどうしてこういちいち自分の仕事を増やしたがるか理解に苦しむ。
いや、決して理解できないわけではない。釧が民を守りたいと思っていた、願っていた気持ちときっとなにも変わらないのだ。
「助けたいのなら急ぐんだな。それには一片の巫力も残されていない。放っておけば確実に命を落とすぞ」
大方ジェノサイドダークロウズの核として巫力を吸収され続けたのだろう。なにをどうすればここまで巫力を消耗させることができるのかはわからないが、この少女があれの戦闘力の要であったことは容易に想像がつく。
「なんだって!? 巫力切れなんて、そんなのどぉすりゃいいンだよ」
「死なせたくなければキサマの巫力でも分け与えるんだな」
狼狽える陽平は釧の言葉になにを感じたのか、掌から落とさないよう大事に包み込むと獣岬の方へと離脱を始める。
どうやら本気であの少女を助けるつもりらしい。
だがそれはあまりに分の悪い賭けだ。なにせあの少女は自身の命を支える巫力さえも搾り取られている。例えるなら身体中の水分が抜け干からびている状態なのだ。
それを救うとなると、自分自身が死ぬ覚悟で巫力を与える以外に方法はない。
このまま放置すれば陽平が死ぬかもしれない。傷を癒すのとはわけが違うのだ。
そう思った瞬間、自分でも気づかぬ内に釧は獣帝の背中を追いかけるように足を向けていた。
「待て、風雅──」
陽平を呼び止めようと声を発した瞬間、突如二人の間を割くように大きな水柱が立つ。
それは何者かの怒り。明らかな敵意を撒き散らすそれは、水柱の中から確かにこちらを見据えている。
「くっ!」
手にしたサイハを盾に身構えた瞬間、水柱から現れたなにかが鋭利な刃でガイアフウガの残像を両断する。
とっさに構えていたサイハを変わり身に利用したことが幸いした。
嫌な予感を信じていなければ、今頃サイハもろともガイアフウガも釧も二つに両断されていた。
「何者だッ!」
ジェノサイドダークロウズは倒した。事実、玻璃は助け出され忍巨兵の身体は海中に沈んでいる。
では、この目の前に在る巨大な鎧武者はいったい何者なのか。
忍巨兵の倍近い巨体のそれは、全身を包み込むほどの量の紫の気を放っている。
陽平が見ていればこれが煉王の正体とすぐに気づいただろうが、生憎釧はこの紫の鎧武者、死装兵ダークマターを初めて見るのだ。
死という死をありったけ吸収し続けたダークマターの力は過去で陽平が戦ったときの比ではない。
兜の影から鬼のような顔が覗いた瞬間、それは巨体に見合わない速度でガイアフウガに接近する。
「的が大きくなっただけだッ!」
とっさに雷遁のフウガパニッシャーを発射するが、あろうことかそれは手を伸ばせば届きそうな距離にも関わらず高速で飛来する雷球かわしてみせる。
「なにッ!?」
驚きの声をあげるのも束の間、ダークマターの手に現れた大鎌が唸りを上げて襲い掛かりガイアフウガの防御などものともせず海中へと叩き落す。
目は追いついている。しかしもどかしいことに身体が反応についてこない。人間ならば当然のことだが、それが可能な者を知っているだけに悔しさがこみ上げてくる。
だが、まだだ。まだ果てるわけには、倒れるわけにはいかない。
海中でサイハを両手に構え、海面の天井を突き破った勢いのままガイアフウガはダークマターに襲い掛かる。
「ばかめ! この死装兵ダークマターの前に炎獣など何の役にも立たぬわッ!!」
耳に響く気味の悪い声。どうやらこれがジェノサイドダークロウズの正体なのだろう。
大鎌の一撃を交差したサイハで受け止める。あまりの重さに顔をしかめるが、次の瞬間には大鎌の柄がガイアフウガの顎をかち上げる。
「がはッ!」
「目障りだ。消え失せろッ!!」
突き出された左手から放たれる紫の光弾が迫る。
顎を打ち上げられた釧は満足に反応できず、ガイアフウガももはや限界に近い。
今度ばかりはかわせない。そう確信した瞬間、横合いから割り込んだなにかが突き飛ばすようにしてガイアフウガの身体をさらっていく。
釧はこの白い機体に覚えがあった。鳥型から人型へ変化したそれは、サイズ差のあるガイアフウガを庇うように立ち塞がる。
「おのれ、またも邪魔をするか。死にぞこないの星王が!!」
「星王、イクスだと!」
「ダークマター。お前にこの人は殺させない。いや、もう誰も殺させはしない!」
星王イクス。獣王に次ぐ第二の忍巨兵で、過去の戦で行方不明になったままと聞いていたが、こうしてジェノサイドダークロウズを追うようにして現れたところを見ると両者が因縁多き間柄なのだということがわかる。
だがいかんせん、性能が違いすぎる。ガイアフウガと並ぶほどの性能を有しているならいざ知らず、このダークマターは獣帝クラスの忍邪兵。旧式の、しかも合体すらかなわない忍巨兵では戦力にもならない。
案の定、ダークマターの猛攻を避けきれずガイアフウガもろとも撥ね飛ばされる星王は、空中で砲台に変化すると落下するのも構わず術のミサイルを撃ちまくる。
ミサイルの爆煙がダークマターを包み隠したのを確認すると、イクスは忍者刀を抜いて煙の中心へと飛び込んでいく。
「ボクという忍巨兵から生まれた最初の忍邪兵ダークマター! 今こそお前との因縁を断ち切る!!」
「断ち切られるのはキサマだ。旧き忍巨兵!」
いつの間に星王の背後に回ったのだろうか。大鎌を振りかぶるダークマターに舌打ちすると、釧は間にガイアフウガを割り込ませる。
「穿牙ッ!」
螺旋回転を描く巫力をまとった刃で大鎌を迎え撃つがいかんせん、元々の攻撃力が違いすぎる。
星王もろとも大鎌に薙ぎ払われたガイアフウガの身体が悲鳴をあげる音に、釧はもどかしい気持ちを抑えられずにた。
今ここに、自身の分身ともいうべき忍巨兵がいないことが、カオスフウガを失っていることはこれほど苛立たしく、もどかしいものなのか。
海面に激突した衝撃に身体が揺さぶられながら、今あるはずのない、しかし本来あるはずの力を求めて釧はその名を呟いていた。
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