「はぁ、はぁ、はぁ、なっ…、なに考えてやがるクソ親父め!」
 ぜいぜいと息を切らせながら、陽平はそこにいた。
 いったいなにが悲しくてこう一日に何度も全力疾走しなければならないのだろうか。
 虹のようなアーチ状の看板にはパニックパーク≠フ文字がでかでかと描かれ、華やかな音楽と装飾が耳や目に飛び込んでくる。
 きょろきょろと周囲を伺い、守るべき主君と愚かな父親の姿を探す。
「くそっ、どこにいきやがった…」
 母の話では、雅夫が翡翠を小脇に抱えてここで待っていると告げたそうだ。
 どうやら二人は既に園内にいるらしく、周囲にその姿を伺うことはできない。
 まぁ、こんなものまで渡すくらいだ。最初から中にいることはわかっていたが。
 母に渡されたチケットを手に、陽平はもう一度だけ周囲を伺ってみる。
「見事にカップルだらけじゃねぇかよ」
 さすがにひとりは入りづらい。なにゆえこんなときに限って光海はいないのだろうかと自分勝手なことを考えながら、渋々チケットを係員に差し出す。
 視線が痛い。すっごく痛い。なんとなく視線が「なにこいつ。男一人で遊園地とかキモーイ」とか言われている気がする。
 できるだけ顔を逸らすようにしてゲートを潜り、凄まじい喧騒の中へと身を投じる。
 それにしても、遊園地など何年ぶりだろうか。確か、最後に行ったのは中学の夏休みだったはず。
「っと、ンなこと考えてる場合じゃねぇ。翡翠探さねぇと」
 だが、この人混みの中をヒト一人、しかも翡翠くらいの女の子を捜すのは至難の業だ。
 係員に言って園内放送で呼んでもらうべきだろうか。そんなことを考えながらぐるりと周囲を伺ったとき、陽平は見知った姿を見た気がした。
 パニックパークの狐型マスコット、パニックス≠フ隣に今なにかが…。
「………翡翠……だよな」
 まさか雅夫の罠かなにかではないだろうかと警戒しながら、翡翠(?)へと歩みを進めていく。
 こちらの姿を認めたのか、花のように表情を綻ばせた少女に、どうやら間違いないと早足で駆けていく。
「ようへいっ!」
「翡翠、大丈夫か?」
 翡翠の身体を心配しつつも、周囲に雅夫がいないか注意深く伺う。
「翡翠…、親父は?」
 陽平の言葉に、翡翠は知らないとばかりに頭を振る。
「そうか。ったく、あのクソ親父め。なに考えてやがるンだ」

くいくい──。

 突然袖を引かれ、陽平は意図して逸らしていた視線を渋々翡翠に向ける。
「ど…、どうした?」
 努めて平静を装うがいかんせん、声が上擦ってしまった。
 無理もない。いくらなんでも似合いすぎだ。
「ん」
 どう?とスカートをつまみ上げる翡翠に、陽平は苦笑を浮かべると、足先から視線をゆっくり持ち上げていく。
 靴は肉球でもついていそうな獣足。脚は白いタイツに包まれ、身体を覆う服はメイド服のような衣装。手首にピンクのリボンと小さな鈴がついた白い手袋に加え、狐の耳と尻尾まで装備している。
 ここ、パニックパークのマスコットキャラ、パニックスの恋人(?)パニックリンの姿であることは確認しなくてもわかる。
「ようへい…」
 不安そうに尋ねる翡翠に、陽平はガックリと肩を落とす。
 十中八九、雅夫の差し金だろう。しかし、まったくと言っていいほど意図がわからない。
「に、似合うぞ」
 なんとかそんな言葉を絞り出し、陽平は再び肩を落とした。
「とにかくだ。さっさと帰ろうぜ」
 差し出された陽平の手に視線を落とし、翡翠は寂しそうに頭を振る。
 当然だ。普通、こういう場合は少しくらい遊んでいくのが定石というものだが、この鈍感で女心のわからない朴念仁は帰るなどと言い出すのだから。
 もしこの場に光海がいようものならば、今頃陽平は蜂の巣にされているに違いない。
 そんな翡翠の心情に気づいたのか、陽平は少し考え込むように頭をかく。
「ようへいは」
「ん?」
「ようへいは…、わたしとでーとは……いや?」
 絶句した。
 まさか翡翠の口からデートなる言葉が出てくるなどと誰が考えただろうか。
 やはりこれも雅夫の入れ知恵かと苦笑を浮かべる陽平に、翡翠が催促するかのように袖をぎゅっと掴んでくる。
「…翡翠は俺とデートしてぇのか?」
 陽平の言葉に、まるで親に叱られた子供のように控えめに頷く翡翠。
 どうやら決意は固いらしい。
 こういうことも姫を守る内に入るのかは気になるが、陽平は改めて翡翠に手を差し出した。
 帰るのだと思っているらしく、小さく頭を振る翡翠に、陽平はやれやれとため息をついた。
 というか、誰もいないからこそなにも言われないが、いたら確実に、やれやれはお前だ、とツッコミを入れられているに違いない。
「ほら、遊ぶンだろ?」
 その言葉であっと言う間に、翡翠の表情がぱぁ、と明るくなる。
「ようへいっ!」
 髪と尻尾を揺らし、翡翠は陽平に飛びついた。






 正直、帰るなどと戯けたことを口にした自分を蹴たぐり倒したくなった。
 しかし、これほど喜ばれるとは思いも寄らなかった。
「ようへい、つぎ!」
 笑顔の花を咲かせ、必死に手を振る翡翠の姿を微笑ましく思いながら、陽平はゆっくりと翡翠の下へと歩いていく。
「待てって。アイスいいのかよ?」
「たべる!」
 差し出したアイスを受け取らず、陽平の腕を取ってアイスを一舐めする。
「つめたくておいしい♪」
「おいおい…」
 そうは言いながらも、陽平自身それを嫌とは感じていなかった。
 普段、あまり子供らしく無邪気に笑うようなことのない翡翠の新しい一面をようやく見れた気がした。
「ようへい、あれにのる!」
「ん? 大爆走、水中パニック≠」!?」
 ようするにジェットコースターなのだが、なんでも密閉型のコースターらしく、水中に潜ったり飛び出したりといった動きがウリなのだとか。
(ってか、なんでもパニック≠チてつけりゃいいとか思ってねぇか、ここ)
 メリーゴーランドはパニックゴーランド=B名の通り幸せの世界ではなく乗る人をパニックに陥れるメリーゴーランドだった。
(普通のメリーゴーランドはロデオ風に動いたりしねぇ…)
 コーヒーカップはやはりパニックカップ=B
(コーヒーカップが倒れて転がり回るなんて、ここくらいだろ…)
「ようへい……いや?」
「そんなことねぇよ。ほら、並ぼ──」
 刹那、背中に悪寒が走り、陽平は勢いよく背後を振り返る。
 首を傾げる翡翠を余所に、陽平の勘は確かになにかを捉えていた。
 どこかねっとりとして不気味な視線を向けられているような気分だ。
「…………」
 注意深く周囲を伺うが、それらしいものはない。
(それでも視線が消えねぇのはどういうことだ)
「ようへい?」
 袖を引く翡翠の顔に、陽平は気持ちを切り替え、なんでもないと頭を撫でる。
「…いくか」
「うん♪」
 少し後ろ髪を引かれるような思いのまま、陽平は翡翠の手を握りしめる。
 仲睦まじく歩く二人の後ろ姿は、兄妹ではなく、確かに恋人に見えた。






 そんな二人を監視するように追いかける瞳が6つ。
 桔梗光海、椎名咲、安藤貴仁、いわゆる数少ない陽平の友人3人組である。
 どういうわけか、安藤貴仁が唐突に遊園地に行こうなどと言って、半ばムリヤリ連れてこられたわけだが、その意図がようやく理解できた。
(ヨーヘー、私に内緒で翡翠ちゃんと遊園地なんて…)
 自分だって陽平と遊園地に行ったのは中学の時、このメンバーで来た一度きりだというのに。
(しかも二人きりなんて…)
 光海の怒りゲージがMAXになる前に、咲はどうどう、と光海をなだめにかかる。
「それにしても、安藤くんはなんで風雅くんたちがここにいるって知ってたの?」
 もっともな疑問だが、当の貴仁はというと、なにやら携帯でメールを打ち込みながらニヤリと怪しげな笑みを浮かべている。
「なぁに。蛇の道は蛇っちゅーことや」
 いつもながらどんな蛇と知り合いなのかが気になるところだが、それを問うたところで答えが返ってくることがないのはわかりきっている。
「で、結局私たちは風雅くんたち尾行しに来たの?」
「ワイはそうするつもりやけど、別に二人は遊んでくれてえーよ? 奢りやし」
 相変わらずの言葉に、咲は小さく溜め息をつく。
「まぁ、仕方ないよね。じゃあ光海、私たちは──」
「尾行るわよ」
 咲の言を寄せ付けないかのごとく呟く光海の目は決して笑ってはいなかった。
「み、光海?」
 少し驚いた様子を見せるが、長いつきあいだ。光海の心情は手に取るようにわかる。
 やはりこれにも仕方ないか、と小さく溜め息をつく。
「おっけぇ。じゃあ安藤くん、案内よろしく♪」
「あいよ。ほな、バレへんように手っ取り早く着替えとこか?」
 そう言って貴仁の指さす先には、翡翠が着ているのと同じ衣装がずらりと並んだ売店がある。
 いわゆる貸し衣装屋なのだろう。サイズも種類も実に豊富な上、更衣室も完備しているらしい。
「コスプレかぁ…。光海はどうするの?」
「そ、そんなの着れるわけないでしょ!?」
 咲が手にした衣装を見て声を荒げる光海に、貴仁はじゃあとりあえず、と狐耳を装着させる。
「ちょ、ちょっと、なにしてるのよ!?」
「まぁ、ええやん♪ 早ぉ着替えんとあのアホ見失うで」
 貴仁の言葉に渋々衣装を手にする光海に、咲は内心、だったら着替えずに追いかければいいのに、と苦笑を浮かべる。
「ねぇ、こんなことしててホントに大丈夫?」
 ひそひそと小声で尋ねる咲に、貴仁は当然だとばかりに頷いた。
「実は見失ぉても追いかけられる仕組みになってんねん」
 いけしゃあしゃあと言ってのける貴仁に、咲は光海を振り返る。
(まぁ、楽しまなきゃ損だよね)
「じゃ、私も着替えてくる」
「あいよ。ワイはその間に陽平たち捕捉しとくわ」
 更衣室に押し込まれる形になった光海と、楽しまなきゃ損をモットーに動く咲を背に、貴仁はポケットから携帯電話を取り出す。
 受信したメールを開き、表示された内容に、貴仁の口元がニヤリと歪む。
 そんなメールの差出人欄にはどういう意味なのか、風のエレガンス≠ニ書かれていた。






 あれからどのくらいのアトラクションをこなしただろうか。
 とりあえず一通りの絶叫系は看破したはすだが、この遊園地には隠れた絶叫マシーンが多すぎるため、そのすべてを回ったとは言い切ることができない。
「それにしても、めちゃくちゃ疲れたな」
 ベンチに腰掛けた陽平の隣で、翡翠は大人しくジュースを飲んでいる。
 やはり疲れただろうかと顔を覗き込むと、翡翠はにっこりと笑顔を浮かべる。
「ん、どうした?」
 尋ねる陽平に、翡翠は尻尾を振りながら満面の笑みを浮かべ、
「ようへいといっしょだから♪」
 そんなことを口にする。
 そういえば釧と戦ったあの日から、自分は強くなることばかりで、翡翠とこうして話をすることも忘れていた気がする。
 隣にいる。声をかける。手をつなぐ。ただそれだけのことに喜ぶ翡翠に、陽平は自分の失態にようやく気がついた。
「なぁ、寂しかったか?」
 思わずそんな言葉がついて出る。
 しかし翡翠は頭を振ると、陽平の腕にしがみつき、
「今は、ようへいがいる」
 そう言ってまた、嬉しそうにストローに口をつけた。
(今は……か)
 やはり自分の失態を後悔せずにはいられなかった。
 今日の出来事もおそらく、見かねた両親のお節介なのだろう。
 お土産くらいは買っていかないとバチが当たる。そんなことを考えながら、陽平は先ほどからずっとつきまとっている視線に意識を戻す。
 雅夫が出歯亀でもしているのかと思ったが、雅夫ならばこちらに悟られるようなヘマはしない。
 どちらかと言えば、こちらに気づいてほしいような、そんな気配さえ感じる。
 ふとそこで気がついた。
 自分はいったいいつからこれほどに敏感になったのだろうか。
 以前は殺気や怒気など、敵意や害意にしか反応できていなかったはず。
 ここ数日の目隠しがようやく成果として現れ出した。そんな実感が持てた瞬間だった。
「ようへい」
 袖を引く翡翠に、陽平は努めて穏やかな表情で振り返る。
「なんだ?」
「ん。ここ、なにかいる」
 言っている内容のわりに怖がっている様子はない。つまり危機を察知しているわけではないらしい。
「えっと、なにかって……なんだ?」
「忍巨兵」
 翡翠の回答に、思わず陽平の表情が凍りついた。
 今、翡翠はなんと言った。
 もう一度、確認のために尋ねておくことにする。
「な、なにがいるって?」
「ん。ここに、忍巨兵がいる」
 ゆっくりと区切って答える翡翠に、陽平は文字通り頭を抱えた。
 いったいなんだって遊園地なんかに忍巨兵がいるのだろうか。
(そもそもどこにいやがる…)
 声もなければ姿もない。ひょっとすると、先ほどから感じていた視線の主が忍巨兵なのだろうか。
「なぁ、やっぱり忍器と忍びがいなけりゃ忍巨兵は目覚めないのか?」
 陽平の問いに翡翠は小さく頭を振る。知らない、ということだろう。
 まぁ、無理もない。翡翠は400年もの間、ずっと眠っていたのだ。それより前に地球に来ていた忍巨兵のことを知っている方がおかしい。
「まさか…、埋め立てられたとか言うんじゃないよな」
 そんなことを呟きながら思わず足下を見下ろしてしまう。
「まぁ、いつものパターンだと、忍器を持った忍びか巫女が忍巨兵を呼び出すんだろうけど…」
 ちらりと表情を伺うが、翡翠は依然としてストローに口をつけている。
「って、こら!」
 思わず翡翠の頭をぺし、とはたく。
 なにをしているのかと思えば、ストローで氷を吸って持ち上げていたらしい。
「ったく、行儀ワリィぞ」
「ひま」
「わーったよ。確かにいい時間だしな。観覧車でも行こうぜ」
 そう言って立ち上がる陽平に、翡翠も駆け足でゴミ箱まで走ると、反転して陽平に飛び込んでくる。
「元気だなぁ」
「うん♪」
 その瞬間、近くで殺気が爆発したような気がした。
 妙に覚えのあるものだけに陽平も首を傾げるが、とりあえずは姿が見えないためよしとする。
「この時間だと、丁度頂上あたりだな…」
 やたらと手の込んだアトラクションが多いここ、パニックパークで、一番バカバカしいものがこの観覧車だ。
 当然ながら、ここが一番空いている理由も陽平は知っている。
(この時間の観覧車乗るヤツは相当な暇人か、やましいこと考えてるヤツくらいだよな…)
 一瞬、しっかり乗りに来ている自分がどちらに分類されるか思案したが、3つ目の選択肢、物好き≠ェあることに今更ながらに気がついた。
「ほら、さっさと乗っちまおーぜ」
 陽平に手を引かれ小さなゴンドラに入り、翡翠は期待に目を輝かせる。
 ゆっくりと昇っていくゴンドラ内で、陽平はそれとなく窓から眼下を見下ろす。
 別に意図したわけではなかったのだが、奇しくも自分たちのゴンドラからいくつか離れたゴンドラに、見慣れた3人組が乗り込む瞬間だった。
「さっきの視線はあいつらか…」
「だれ?」
 陽平の呟きに、翡翠は身を乗り出すように窓に貼り付く。
「光海だよ。それと、俺のダチが二人」
「みつみも、でーと?」
 そんなはずはないだろうが、陽平は邪悪な笑みを浮かべると、そうかもな、などと根拠のない発言をする。
(っつーか、なんて格好してンだよアイツら)
 ちらりと翡翠の姿を盗み見る。
 どう考えてもこれと同じ姿をしていた気がする。
 溜め息をつき、視線をゆっくりと遠くへと動かしていく。
 もう、かなり暗くなってしまった。時間は7時を回っている。無理もない。
(そろそろか…)
 陽平がそんなことを考えた瞬間、ガコンッ、という重たい音と共に観覧車がその動きを止めた。
 初めての人間なら何事かとパニックになるところだが、さすがにタネがバレていれば気にするようなことでもない。
 案の定、翡翠もしきりに首を傾げている。
「驚いたか?」
「うん」
 陽平の問いに、翡翠は素直に頷く。
 しかし意外と落ち着いて見えるが。
「この観覧車な、この時間に必ず起こるイベントがあるんだよ」
「いべんと?」
「ああ。事故を装って観覧車を止めるんだ」
 正直、微妙にバーが上がる(すぐに戻るが)フリーフォールや、浸水するギリギリまでゴンドラが沈んでいく(結局は沈まないが)ウォータースライダー、落とし穴のあるお化け屋敷(心臓の弱い方お断り)などに比べると、インパクトはいまいちだ。
 故に大した人気もなく、宙で無駄に時間を潰すことを避けるため、空中の密室に用のある者しか乗らなくなったわけだ。
「まぁ、まだやってるとは正直、思ってなかったンだけどな」
 貴仁に教えてもらったのがかなり前だっただけに、情報としても不安だったわけだが。
 聞いた話では止まっているのはほんの5分程度。それまではゆっくりと景色を満喫させてもらえばいい。
 陽平は背後の窓に頭をつけ、照明がきらきらと輝く遊園地を見下ろすが、対して翡翠は陽平の隣に座り、小さく袖を引く。
「ようへい」
 上目遣いでこちらを伺う翡翠に、陽平はどうした? と頭を撫でてやる。
「あのね、わたしようへいにあやまりたい」
「謝るって……それなら俺が先だろ」
 翡翠に寂しい、悲しい思いをさせてしまった。
「ちがう。ようへいのこと、きらいじゃないのにきらいって言ったから…」
 ふと考える。そんなことを言われた記憶がないのだが。
 むしろ、好きという言葉をよく聞くためか、嫌われるなどと考えたこともなかった。
(嫌い……翡翠が嫌い? ……あ)
 ようやく合点がいったとばかりに、陽平はああ、と声を漏らす。
「俺はそんなこと全然きにしてねぇからさ。翡翠ももう気にすンなよ」
「うん」
「んじゃ、俺も。ごめんな、寂しい思いさせちまって」
「うん!」
 満面の笑みを浮かべる翡翠に、一瞬ドキリとさせられる。
 観覧車という場所がそうさせるのか、こんな少女にときめくとは思ってもみなかった。
「ようへい、あのね」
「ん?」
「わたし、ようへいのこと──」
 翡翠がなにかを告げようとした瞬間、まるで割って入るかのように大きな揺れが襲いかかった。












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