降魔宮殿──。

 陽平が北海道で釧と対峙していた頃、ガーナ・オーダの鉄武将ギオルネもまた、出撃の準備を進めていた。
 完成まで後は時を待つばかりの新たな邪装兵を背に、ギオルネは愛機ソードブレイカーをカスタマイズした邪装兵、ソードブレイカーMk2の調整を行う。
 機体の強度は全て無視して出力は常に最大。長時間戦う必要もないため、各駆動系もギリギリ破損しないレベルまで負荷に耐えるよう調整する。
 今作り出している邪装兵が完成すれば、既存の忍巨兵などものの数ではない。
そのためには永きに渡り愛用してきた邪装兵さえも捨てゴマにする覚悟はある。
 ソードブレイカーMk2の調整を終えた頃、突然聞こえたアラームに、ギオルネはパネルからモニターへと視線を移す。
 どうやら宇宙からなにか巨大なものが地球に接近しているらしい。しかも、この速度は異常と言っても過言ではないだろう。
 隕石にしたって、もう少しゆっくりと近づくものだ。
 訝しげな目でそれを凝視するギオルネは、もしものために到達予想時間を割り出しておくと、心臓のように脈打つコックピットに乗り込んだ。
 この戦い、勝っても負けてもソードブレイカーは砕け散る。だが、その戦闘データは次なる邪装兵の中で生き続けるのだ。
「さぁ、いくぞソードブレイカー。風雅の者たちの首、今日こそ信長さまの御許に!!」
 背に大型の翼とブースターを備えたソードブレイカーMk2は、すぐ脇に突き刺さった大太刀を引き抜くと、高い天井を目掛けて飛び上がる。
 降魔宮殿の一角が爆発すると同時に飛び出したソードブレイカーMk2は、何度か急加速と急制動、急旋回を繰り返し、忍巨兵の待つ場所へとようやく飛び立っていく。
 その一部始終を眺めるように監視していた蘭丸は、手にした鏡を収めると、髪飾りの鈴をりぃぃん、と慣らしながら信長の鎧を振り返る。
「信長さま」
 蘭丸の呼びかけに、信長の鎧に青白い火が灯る。
「鉄武将の件、いかがいたしましょう」
 当然、蘭丸はギオルネがなにをしているのかも知っていたし、それが相応の戦力になることも知っている。
 しかしわざわざ彼の失敗にまで目を瞑る理由にはならない。
『鳴かぬなら…──』
 まるで怨念のような信長の声に、蘭丸の肩がビクリと跳ねる。
『…殺してしまえ時鳥』
 それだけ。ただそれだけを告げると、信長の鎧からその強大すぎる気配が消えていく。
 やはり仮初めの鎧では長時間信長を留めることはできないようだ。早急に肉体を手に入れる必要がある。
「生命の奥義書以外にも手を打っておく必要がありそうですね」
 本来の肉体を生み出すまでの仮初めでかまわない。誰か強靭な肉体を持つものを連れてくる必要がある。
「鎧の双武将…」
 呟くようにそう言った蘭丸の背後に二つの気配が現れる。
 信長とは比べるまでもないものの、その力はひしひしと感じられる。
「鉄武将敗れしときは貴公等が風雅を抹殺するんだ」
 その言葉に、双武将と呼ばれた二人はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
 鉄武将を助けろなどと言われたならば逆に激怒していたかのような反応に、蘭丸は当然だとばかりに頷いた。
 錆びた刀に用はない。牙の折れた獣の末路はただひとつ。
「さようなら……鉄武将」






獣岬──。

 同時刻、ここ、獣岬の洞窟にもひとつの影があった。
 影の名は、風雅雅夫。言わずと知れた陽平の父親である。
 彼はここ数日、毎日欠かさずに獣岬の洞窟に眠る力の調査に来ていた。
 獣王クロスでさえもその存在すら知らないその力は、常人の手には余る代物だ。故にこうして雅夫が幾度も調査を続けてきたのだが…。
「…ふむ。そこから投げてもワシには当たらんよ、椿」
 そう言ってゆっくりと振り返れば、彼の言葉の通り、そこには手裏剣を構える椿の姿があった。
「やはり敵いませんね」
 まいりましたとばかりにそう呟く椿は、手にした手裏剣を収めると一礼して雅夫に並び立つ。
「どうですか?」
 どう、とは調査結果のことだろう。おそらく風雅の当主に頼まれて経過報告を聞きにきたのだろう。
 雅夫はうむ、とひとつ頷き、自分たちの目の前にあるそれに向き直る。
 サイズは20メートルくらいといったところ。所々が変色しているようだが、おそらくただ土が固まっただけなのだろう。今すぐにでも目を覚ましそうなそれに、椿はそっと手を伸ばす。
 あと少しで触れるというところで静電気のようなものが走り、凄まじい脱力感に襲われる。
 すぐに手を引き振り返る椿に、雅夫はやれやれとばかりに唸りをあげた。
「椿ほどの忍びでもいかんか…。贅沢なやつめ」
 雅夫の言葉にもそれはなんの意志も示そうとはしない。むしろ頑なに心を閉ざしている気配すらある。
戦王ホウガ。彼がいれば戦局は大きく変わるのですが…」
 まさに切り札になるだろう存在に、椿は困ったような表情を見せる。
 獣岬の洞窟の最奥部には、普段陽平たちがいる場所のすぐ近くに水が流れており、その中に眠っていたのがこの戦王ホウガだ。
 しかしどういうわけか、風雅の当主に従い戦王を起こしにきた彼らが見たものは、こうして封印が解けてなお眠り続ける戦王と、共に在るはずの巫女が消えているという事実だった。
「忍器、水晶之笛は彼女に渡してきました」
「うむ。では、ワシはなんとかこやつを叩き起こさねばな」
 しかしどうしたものかと首を捻る雅夫に、椿もまた、考え込むように人差し指で顎に触れる。
「そういえば、必ず彼らの力になると、これを預かってきました」
 そう言って差し出された掌には一つの勾玉が。
「なるほど、忍獣サイハか。しかしあやつらの中に使いこなせる猛者がいるかどうか…」
 捨て身の鉄武将が迫る中、戦王は未だ目覚めない。
 そして…、時非市最期の刻は近い。






時非高校 屋上──。

 またも同時刻、ここには桔梗光海の姿があった。
 左手首の腕輪に触れながら光海は小さな溜め息をつく。
 輝王の件は森王に聞いていたし、巫女も迎えに行かねばならないのはわかる。
 しかし何故自分は置いて行かれたのだろうか。
(声くらいかけなさいよ、まったく…)
 怒りと悔しさが半分ずつ。そんな光海を心配したのか、立体映像の森王が周囲を警戒しながら姿を表す。
『姫、どうか気をお鎮めください。陽平殿もなにか考えあってのこと…』
「ホントにそう思う?」
 なんとかフォローしようとしたところを突っ込まれ、森王は思わず言葉に詰まる。
 陽平の性格上、そういったことを考えている可能性は極めて低い。
『あ、いえ…おそらく』
 忍巨兵でさえ言葉を濁すほどの朴念仁加減に、光海ももはや溜め息を隠そうとはしなかった。
「わかったわ。私だって足踏みしてるだけなんてイヤだもの。どこまでだって追いかけるわよ」
 ただ蹲って泣いているだけの女じゃない。そんな光海の言葉に、森王は安堵の息を漏らした。






 なんとか獣王の潜伏している海岸付近まで退いた陽平は、上空から迫るナイトメアグリフォンに舌打ちする。
 黒い忍獣の背には、釧に付き従う小さな巫女の姿もある。
 どうやら釧に先を越されたらしい。
 獣王が水柱から現れると同時に飛来する銀の忍巨兵に、陽平は影衣を装着しながら吹き飛ばされていく。
「ちぃっ!!」
 くるくると宙返りをしながら見事に着地するシャドウフウガを守るように立ち塞がる獣王に、銀の一角獣──輝王センガもまたナイトメアグリフォンを背に立ち塞がる。
「輝王っ、どういうつもりだ!?」
 憤慨する獣王に、輝王はまるで興味がないと言うかのように視線を逸らす。
「輝王っ!!」
「獣王……闇王はどうした」
 突然の質問に獣王は言葉を詰まらせる。
「答えろ獣王。それともオマエが答えるのか、獣王の忍び」
 輝王の問いに、陽平は自ら進み出る。
「闇王は…、闇王は俺のミスでガーナ・オーダに奪われちまった…」
 輝王の瞳に宿る怒りに、陽平はやるせなさと申し訳なさから視線を落とす。
「俺がもっと巧く立ち回っていればこんなことにはならなかった…。だからってわけじゃねぇけど、モウガは俺が絶対に助け出すから…だから!」
「銀【しろがね】を愚弄するなッ!?」
 そんな陽平の言葉に、輝王の角の一撃が地面をめくり上げ、内側から爆発させるようにして獣王とシャドウフウガを吹き飛ばしていく。
「オマエごとき…、皇が裁くまでもないッ!!」
 怒りの言葉と共に人型に変化する輝王に、獣王も変化して落下する陽平を受け止める。
「消え失せろ、名ばかりの勇者っ!!」
 マスクで口元を覆う輝王が印を組む。
 森王がレイ・ストームを放つ際に行うものと同じ、忍巨兵が巫女から発せられる巫力を術に変換する行為だ。
「火遁閃輪ッ、サイクロンフレアぁッ!!!
 右肩の一角が回転と同時に白い炎を発現する。
 炎は刃の渦となり、周囲を切り刻みながら徐々に獣王の逃げ場をなくし追いつめていく。
「センガ、俺の話を聞いてくれ!!」
「聞く耳もたん!!」
 陽平の叫びも虚しく輝王のサイクロンフレアが獣王を包み込んでいく。
 炎の渦と刃が装甲を焼き、全身を切り裂いていく。
「よ、陽平…!」
「ちくしょう! 結局こうなっちまうのかよ!!」
 振り上げる獣王式フウガクナイから溢れる光が炎の渦を吹き飛ばし、獣王と輝王の間に忍獣クリムゾンフウガが現れる。
三位一体っ!!
獣王式忍者合体っ、クロスフウガァッ!!!
 すぐさま合体を果たして輝王を弾き飛ばし、クロスフウガは上空のナイトメアグリフォンを睨みつける。
「……釧!」
「無様だな、風雅陽平」
 見下ろす釧の瞳は透き通ったガラスのようで、それでいて研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
 付き従う少女はどこか不安を隠せない様子だが、釧の傍を離れる気はないらしく、その意志は見ていれば誰にでもわかるほど強い。
(ダメだ、俺がかけられる言葉がねぇ…)
 輝王に対しては謝ることしかできず、巫女に対してはかける言葉さえ浮かばない。
「撤退しよう…」
「陽平っ!?」
 パートナーの突然の言葉に、さしもの獣王も驚きを隠せなかったらしい。
 確かに陽平の言葉の意味はわかる。しかし、それで諦めてしまうのはあまりにいつもの陽平らしからぬことだ。
「どうしたというんだ、陽平」
「少なくとも、俺がモウガを手放しちまったことは事実なんだ…」
 たとえ、それが望まぬ結果だったとしても。
「モウガのこと、助け出さなきゃセンガに申し訳が立たねぇ…!」
「わかった。君がそこまで言うならば…」
 だが、相手はみすみす逃がすつもりはないらしい。
 飛び去ろうとする退路をナイトメアグリフォンが塞ぎ、更には黒衣の獣王カオスまでもが姿を現す。
「獣王クロスフウガ…、そして風雅陽平! ここで仕留めるっ!!」
ふ、風雅流召忍獣之術ぅ!
 少女が薙刀の石突き側にはめ込んだ金色の勾玉が光の渦を生み出し、その中心から梟型の忍獣コンゴウが姿を現す。
 どうやら森王のセンキと同質の忍獣らしいそれは、頭にある耳のように長い羽毛を鞭のようにしならせて獣王を弾き飛ばす。
三位一体ッ!
風雅流、武装巨兵之術ぅ!
 釧とカオス、そしてナイトメアグリフォンがひとつになり最凶の忍巨兵が再び陽平の前に現れる。
獣王式忍者合体…、カオスフウガ!!
 忍獣コンゴウがパーツごとに分離。盾、頭飾り、そしてユニコーングレイブを三叉戟・金剛槍に変化させる。
「…ぇ、えいっ!」
 マスクを外す輝王の額飾りに、巫女の少女が飛び込み、輝王忍者は輝王之槍手へと姿を変える。
輝王之槍手センガ、参るっ!!」
 ミサイルのように突っ込んでくる輝王之槍手に、腰を捻ってその一撃を避ける。
 紙一重のタイミングだったが完全に避けきった。すかさず斬影刀に手を伸ばし引き抜──
「あ、あの…、その避け方じゃ危ないです!」
 そんな場違いな孔雀の声が聞こえたと思った瞬間、獣王は脇腹に強烈な打撃を受け、問答無用で岩場に叩きつけられる。
 刺突を避けた瞬間、円運動の体捌きと梃子で攻撃の軌道を変えることで、刺突の後の隙をなくす。
「な……ぁがっ、はっ!」
 脇腹の一撃で息ができない。肺が新鮮な空気を求め、陽平は何度も噎せかえる。
 素人の動きじゃない。これがあの少女の実力だというのなら、正直侮っていた。
「くっそぉ!」
 背後から襲いかかるカオスフウガの獣爪を、広げた翼で受け止める。
 その場で回転すると同時に遠心力で振り回した腕の獣爪を引き起こす。
「くっ、釧さまはだめですぅ!!」
 腕を振るクロスフウガに合わせて三叉戟を地面に打ち付け、跳ね返る反動で獣爪を切り飛ばす。
 爪を失った腕が空を切り、二機の追撃を避けて跳躍する。
「振り切れない!?」
 こちらと同等以上の性能と、敵陣突破用忍巨兵が相手では逃げることさえ容易ではない。
 否、実力でさえこの2人には敵わない。
(これが風雅の…、リードの戦士の力!?)
「クロスフウガ、空だ! 空ならカオスフウガしか追ってこれねぇ!!」
「この輝王之槍手を甘くみるなっ!!」
 手にした盾を翼に変化させると、それを背中に装着することで輝王が空へと舞い上がる。
「センガには飛行能力まであるのかっ!?」
「彼らを相手に撤退は難しい。陽平、打って出るんだ!」
 クロスフウガの言葉に舌打ちすると、迫り来る輝王に向けてクロスショットを撃ち散らす。
 盾を背に装備したことで防御力が落ちているはず。単発の威力は低いが速射性の高いクロスショットならば相応の効果が見られるかと思ったが、ここでも孔雀は陽平の想像を上回った。
 突然ブレーキをかけると、体を回転させることで射撃を回避しつつ、槍の届く位置へと移動する。
「浅はかな。この輝王、伊達や酔狂で巫女を選んだと思うな!!」
「そちらこそ、我が忍びを甘く見すぎたな!!」
 金剛槍が振り抜かれた瞬間、クロスフウガの姿が霞がかったように薄らいでいく。斬ったのが残像だと気づいた時には既にクロスフウガが輝王の背後を取っていた。
「許せよっ!!」
 背中の盾目掛けてシュートブラスターを発射。爆発と同時に輝王を地面へ向けて蹴り落とす。
 刹那、落ちる輝王をかわしながら上昇するカオスフウガとクロスフウガの刀が交差する。
「くそっ!? こいつだけは振り切れねぇ!!」
「死ね、風雅陽平っ!!」
 カオスフウガの空いた手が生み出す炎がクロスフウガを包み込み、怯んだ僅かな隙に絶岩が嵐のように襲いかかる。
「くそっ! 裂岩──」
「させんっ!!」
 裂岩を切り離す間もなく放たれる輝王のサイクロンフレアにその身を焼かれ、クロスフウガが海面に叩きつけられる。
 おかげて鎮火には成功したものの、ダメージは確実にクロスフウガを削り取っていく。
「ダメだ。俺たちだけじゃあの二人に勝つことも、逃げることもできねぇ…」
 せめて、せめて森王が、光海がいてくれたなら…。
 無い物ねだりを済ませたところで陽平は呼吸を整える。
 おそらくこのまま隠形しながら海中を逃げてもすぐに追いつかれる。そもそも忍巨兵同士には隠形は意味をなさない。
 ゆっくりと水面から浮かび上がっていくクロスフウガの前後へカオスフウガと輝王之槍手が回り込む。
 どうあっても逃がすつもりはないらしい。
「陽平、どうする…」
 ここで命を諦めるつもりは毛頭ない。そして、突破口がないのならば作るしかない。
 手にした斬影刀を逆手に、もう一振りの刀も抜き放つ。
「親父との修行で見つけた技のヒント…。試してやる!!」
「ようやくその気になったか…」
 釧の呟きにさぁな、と不適な笑みを浮かべると、陽平は右を逆手、左を順手に霞斬りを構える。
 クロスフウガの霞斬りではカオスフウガの皆伝霞斬りには勝てない。それを知るはずの陽平があえて構えたことに、釧は訝しげな視線を向ける。
「だが! なにを企もうとキサマの死は揺るぎはしない!!」
 そう言うと、クロスフウガを挟み直線上に立つ輝王之槍手に、釧は右手を突き出した。
「来い、輝王よ!!」
 釧の言葉に陽平の表情が強ばる。
 同型の森王には、バスターアーチェリーという武装形態が存在した。ならばこの輝王もまた…
「まさかっ!?」
 陽平の想像を肯定するかのように、孔雀は手にした忍器を振り下ろす。
 刃が二つに割れ、はめ込まれた勾玉に風雅の印が浮かび上がる。
風雅流、武装巨兵之術ぅ!
 勾玉から送り出された術が、忍器という媒介を通して輝王の全身を駆け巡り、忍獣を送還すると同時にその身体を二つのパーツに分解する。
 変形した一角獣の上半身がカオスフウガの右腕を包み、下半身が背中に装着される。
 巫女、孔雀の身体はカオスフウガへと転送され、釧の隣に……落ちた。
「あうっ!」
 どうやら鼻をぶつけたらしく、涙を浮かべながら立ち上がる。
「す、すす…すみま─あ、申し訳ありません!!」
 孔雀の姿を一瞥すると、釧は自らの感覚を輝王へと繋げていく。
 細いながらも鋭い先端の回転衝角、いわゆるドリルと、突撃用の推進力を補う大型ブースターを装着したカオスフウガは、右腕を突き出すと同時に翼を大きく開く。
輝王式旋角合体、カオスフウガ・ストライカーッ!!!
 回転する角が金色の粒子を放ち、スパイラルホーンの切っ先が幾重にも分かれて見える。
輝震灯幻槍ッ【きしんとうげんそう】!!!
 あたかも無数に分身して見えた切っ先は、文字通り無数の竜巻を同時に生み出していく。
 そのどれもが凄まじい圧力を放ち、それが幻などでないことを物語る。
 おそらく一発でも掠れば他の竜巻の餌食になる。
「くっ、なんつー攻撃力だよ!?」
 紙一重でかわせば装甲を根こそぎもっていかれかねないという恐怖に、まさしく手も足も出ない。 かと言って、いつまでも逃げ続けるのは不可能だ。
「これだけ連射してやがるのに威力が落ちねぇなんて…」
 もしこの力を一点のみに使用すれば…。その結果はあまり想像したくはない。
「くそっ!!」
 なんとか後方へと飛びながら退路を探す。このままではいつかは風穴だらけにされかねない。
 ふと、なにかが光って見えた。
 それは先ほど自分たちのいた海岸付近。光ったのは…
「ぐっ!!」
「ひゃあぁぁ!!」
 突如、背中に命中した矢でカオスフウガの攻撃が緩む。
 これほどの距離で、尚且つピンポイントで矢を命中させられる人物を陽平は数人しか知らない。その中でも、忍軍仲間には彼女をおいて他にはいない。
「光海かっ!?」
「光海か!? じゃないでしょ!! いつもいつもいつもいつも──」
 どうやら相当頭にきているらしい。なんの脈絡もなく怒り出す光海に、陽平は思わず苦笑を浮かべる。
「本当にあんたってどうしていっつもそうなのよ!!」
「わ、わりぃ」
 勢いに負けて思わず謝罪の言葉がついて出た。
「と、兎に角。こっちも合体だぜ!!」
「後で覚えてなさいよ! 風雅流、武装巨兵之術っ!!
 光海の矢が放つ術が森王の全身を駆け巡り、クロスフウガの背中へと合体する。
 巨大な二門の砲を携えた獣王に光海が転送され、陽平はそっと光海の身体を抱き止める。
 僅かに頬が熱いのは巫女装束が恥ずかしいからと自分に言い聞かせ、なんとか意識しないように陽平から視線を反らす。
森王式剛弓合体っ、バスタークロスフウガッ!!!
「森王と合体したか。だがっ!!」
 バスタークロスフウガに向けられたドリルが再び回転を始め、先ほどは広がっていた光が一点に集中していく。
一閃ッ!!
 右腕を矢のように引き絞り、金色の粒子が全身から溢れ出す。
必中奥義っ!!
 光海の引き絞る弦が、バスターアーチェリーの銃口を赤く染める。
 光海の見据える先で、釧の闘気が爆発した。
螺旋金剛角ッ!!!
光矢一点っ!!!
 バスタークロスフウガが吹っ飛ぶほどの反動で、矢のようなビームが放たれる。対して、カオスフウガ・ストライカーは自身が矢のように飛び出した。
 刹那、光矢一点と螺旋金剛角がぶつかり合い、僅かな拮抗が生まれる。しかしそれも束の間。驚くべきことに、スパイラルホーンが光の矢を突き破りながらも、その勢いを殺すことなく迫ってくる。
 すぐに次の矢をつがえるが間に合わない。だが…
「簡単にやられるかよっ!!」
 避けず下がらずバスタークロスフウガを飛び込ませる。スパイラルホーンがバスタークロスフウガの胸を捉えようとした瞬間、身体を捻ることて切っ先を反らし、スパイラルホーンの下に潜り込む。
 左肩を抉られ顔を歪めるが、それでも迷うことなく体当たりでカオスフウガに飛び込んでいく。
「やるなっ!! だがっ!!」
「てぇめぇっ!!!」
 互いに空いた手で刀を抜き、頬に触れあえそうな至近距離で何度も斬り結ぶ。
 速度もパワーも競り負け、カオスフウガ・ストライカーの絶刀がバスタークロスフウガの胸を切り裂いた。
「くううっ!!」
「トドメだ!!」
 振りかぶる必殺の一角に光が集まり、今まさに振り下ろさんという瞬間、バスタークロスフウガが背面のブースターを全開にする。
「光海っ!!」
「光矢……、一点っ!!」
 バスターアーチェリーに集まる力は不完全ながらも、この距離で撃てば互いに無事では済まない。
 さしもの釧もこれには驚いたか、正気を疑うかのように目を見開いた。
「キサマ、死ぬつもりか!?」
 放たれる光に顔をしかめながらも、スパイラルホーンを突き出して砲撃を防御する。
「ちいぃッ!!」
 相殺しきれなかった威力が両者の中心で爆発を起こし、バスタークロスフウガは海岸に、カオスフウガ・ストライカーは海面に激突して派手な飛沫をあげる。
「痛ぅ…。光海、無事か!?」
「な、なんとか…ね」
 身体を起こしながらも、ダメージに膝をつくバスタークロスフウガに、陽平も大きく肩を上下させる。
「無茶がすぎるな…キミは」
「悪ぃ。さぁ、今の内にずらかろうぜ」
 陽平の言葉にバスタークロスフウガも頷き立ち上がる。
 その瞬間、背筋が凍り付きそうなほどの殺気が走り抜け、陽平は弾かれたように振り返る。
 刹那、バスタークロスフウガの上を駆け抜けるそれに、陽平は見覚えがあった。
 間違えようもない。あの鎧武者のような銀のシルエットはガーナ・オーダの鉄武将、ギオルネの駆る邪装兵ソードブレイカーだ。
「こんなときにっ!!」
 忌々しいとばかりに悪態つく陽平に、ギオルネはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。












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