正直、かなり先行したつもりでいた。
 だが、陽平の予想を上回り、それは獣王のすぐ後ろにまで迫っている。
「ちくしょう! なんなんだよありゃぁ!!」
 獣王を追いかけているのは、鎧……いや、日本の甲冑のような飛行物体だった。
 しかもそれが二機。間違いなく双武将のものだ。
「なんでわかった。どぉして俺たちの居場所がわかっちまうんだ!?」
「陽平、おそらく彼らは光海をレーダー代わりにワタシの気配を追っているのだ」
 獣王の言葉に、思わず絶句した。
 人質にでも使うのかと思えば、そんな使い道があったとは驚きだ。
「ひとの幼なじみをモノ扱いしやがって…!!」
 だが、これ以上逃げ回るのは不可能だということは理解した。
 ならばいい加減、打って出るしかない。
「柊と楓を途中で降ろして正解だったぜ。クロス、一気に合体だ!!」
「応っ!!」
 獣王式フウガクナイが輝き、前回の戦いから癒えたばかりの紅の翼が舞い降りる。
風雅流奥義之壱、三位一体っ!!
 クリムゾンフウガは獣王を覆う鎧となり、ここに獅子吼える紅の獣王が誕生する。
獣王式忍者合体、クロスフウガぁッ!!!
 クロスフウガの出現に動きを止める双武将に、陽平は怒りを込めて咆哮した。
「てぇめぇら! 光海を返してもらうぜ!!」
 だが、そんな陽平とは裏腹に、双武将は獣王を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
 まるで、獣王の姿を嘲り笑うような二人に、陽平の怒りは更に高まっていく。
「なにがおかしいっ!?」
「いんや〜。そない古くさい忍巨兵でよぉ戦ってきたなぁて感心したんやんか」
 やはり小馬鹿にしている。
 ならばわからせてやるしかない。獣王の、クロスフウガの強さを。
「てぇめぇらこそ、そんな置物みてぇなので戦えるのかよ!?」
「せやねぇ。確かにこの状態は手も足も出んわなぁ」
 確かに、こんなダルマ状態だと言わんばかりの機体では、どう考えても戦闘は無理だ。
 しかも相手は素早い動きがウリな忍巨兵。普通に考えれば相手になるわけがない。
「じゃあ見やがれ!! これがオメェを屠る姿だ!!」
 訝しむ陽平の目の前で、突然双武将の機体が変形を始める。
 鎧から人の姿へと変わるそれは、どこか忍巨兵を思わせる雰囲気を醸し出す。
 角飾りと共に引き出された頭部は、双武将を象っているのか、どこか獣のような印象を受ける。
「見たかよ! これがオレサマたちの邪装兵──いや、鎧巨兵とでも名乗るか?」
 ケケケ、と笑うヴァルトに、レヴィトまでもがそれはいいと馬鹿笑いする。
 どこまでもこちらを小馬鹿にするような言動に、陽平はシュートブラスターの引き金を引く。
「おぉっと!」
「当たらねぇよ、バァーカ!!」
 想像以上に運動性は高いらしい。
 まさかあのタイミングでかわされるとは思ってもみなかった。
(鎧の双武将なんて言いやがるから、バリアでも使うかと思いきや…)
「落ち着け、陽平。あそこには光海がいるのだぞ」
「わかってら…」
 仮にも双武将。あれしきの攻撃が通じるとは思っていない。もし攻撃が通った場合は、そのまま動けぬまでバラバラにしてから光海を助け出せばいいだけのこと。
 狙うは鎧巨兵の手足。
「そっちがそのつもりなら、遠慮はしねぇッ!! くたばりやがれ、風雅ぁ!!」
 それを合図に鎧巨兵と忍巨兵が飛び出した。
 基本的に戦闘方法は変わらないのか、ヴァルトの機体は徒手空拳。レヴィトは鎖のように連なった、異常なまでによく伸びる奇剣だ。
 襲いくる奇剣をかい潜り、ヴァルトの拳と斬影刀が交差する。
「ケケケ、旧式がいつまでも出しゃばるンじゃねぇよ!!」
「てぇめぇこそ!! 亡霊が戯れ言ぬかしてンじゃねぇ!!」
 再び襲いくる奇剣に、弾かれるように離脱すると、刃翼──裂岩を切り離す。
「くらいやがれっ!!」
 十字に組み替えた裂岩を双武将めがけて投げつける。
 だが、これもレヴィトの奇剣に弾き返され、その間にヴァルトの拳が襲いかかる。
(遠くから攻撃すりゃあ奇剣が防いで拳が飛んでくる。近くに行きゃ、拳に止められ奇剣に襲われる!)
 単純なようで実に見事なチームワークだ。
 個々の能力が高いために、風魔の兄妹をも上回る連携になっている。
 ロケットのように飛び込んでくる拳をいなし、蛇のように執拗な攻撃をしかけてくる奇剣の嵐をかわし続ける。
 いつの間にか防戦一方になっている。
(ダメだ、打って出ねぇと勝ち目はねぇ)
 だが、こう激しくては近づくこともできない。
「ちくしょう、また無い物ねだりかよ!」
 こんなとき、森王の援護があればなどと考えた自分に嫌気がさす。
 そのためにも光海を助け出さねばならないのだ。
「戦闘中に考え事かよッ!!」
 拳でガードを吹っ飛ばし、抉り込むような蹴りが腹に突き刺さる。
 くの字に折れるクロスフウガを、鞭のようにしなるレヴィトの奇剣が弾き飛ばす。
 とっさに獣爪でガードしていなければ、首が落とされていたかもしれないと思うと、正直生きた心地がしなかった。
 おそらく双武将は一人でもギオルネ級の実力者なのだろう。まだ手加減されているのは薄々気がついている。
(どうする。このままじゃ勝ち目がねぇ!)
 鬼眼が発動すれば、あるいは…。しかし我が事ながら、まったくそれらしい兆しはない。
 かといって小細工が通じるような相手でもない。
 徐々に追いつめられながらも、なんとか反撃の機会を伺うものの、回避するだけでやっとの状態だ。
「ちくしょう! まだ……まだだっ!!」
 両肩のクロスショットを散らせながら、クロスフウガは霞斬りを放った。






 光洋は走っていた。
 恩人、風雅雅夫と数年ぶりに言葉を交わしていた彼の元に、国連軍日本支部東京湾基地からエマージェンシーコールが届いたのはつい先ほどのこと。
 内容が、光海の通う時非高校にガーナ・オーダと呼ばれる侵略者が現れたという報告だけに、光洋は脇目も振らずに駆けだしていた。
 国際連合平和維持機関に存在する国際連合統一保安軍──通称・国連軍は、過去、日本だけならず世界をもおびやかした存在に対して、あまりに脆すぎた地球の守りを固めるために組織されたものである。
 当時、侵略者という存在に出会ったことさえ初めてであった人類は、その存在に対してあまりに無力であった。
 結果、勇者と呼ばれた存在に頼るだけの形となった人類は、せめて今後このような事態が起こった場合を想定して、地球の統一軍、国際連合統一保安軍を設立した。
 しかし、それでも人類は丸裸同然の存在であった。
 入隊したての光洋に突きつけられた現実は、国連軍の未知の侵略者に対しての脆弱さであった。
 現代の科学力をどれほどつぎ込もうとも、勇者の兵器に勝るものが生まれることはなかった。
 いざというときには母なる大地を滅ぼしかねない核兵器に頼るしかない軍に、光洋は絶望した。
 そして、今年の春。ガーナ・オーダなる存在の侵略が始まったとき、桔梗の家も、光海も自分が守ってみせるという夢は脆くも崩れ落ちたかに見えた。
 9年という歳月で、光洋は昇れる地位まで上り詰めた。そんな彼の元に、一つの任務が下された。
現在、富士の樹海に潜伏中のライオンメカと、その操縦士を逮捕せよ
 白いライオンメカよりも遅れて現れた黒いライオンメカは、基本的には隠れているものの、自分が見つかってもさらに逃げるような動きは見せていなかった。
 白いライオンメカと敵対関係にあると想定されていた黒いライオンメカだ。あわよくば研究対象か戦力として上層部は欲しがったのだろう。
 結局、光洋は20名の隊員を率いて現場に向かった。まずは実際に見てみるのもいいかもしれない。その程度の考えであった。



 夜の樹海に足を踏み入れた光洋を待っていたのは、なにやら戦いの傷跡らしい荒れた樹海と、その陰でたき火をする風変わりな青年だった。
 年の頃は24、5歳。おそらく自分と同じくらいだろう。服装は上から下まで黒一色で統一され、左反面を不気味な仮面で覆っている。
 こちらに気づいた様子もなく、焼いた蛇という味気のない食事を口にしながら、彼はたまに空を見上げるだけ。
「突入しますか?」
 隊員の発言を片手で制し、光洋はその様子を監視する。
 これといって仮面以外に変わったところは伺えない。どこから見ても人間そのものだった。
 隊員から受け取ったナイトビジョンを通して見ても、やはり変わったところは──
「…ッ!?」
 今、一瞬視線がぶつかった。
 そんなはずはない。こちらは肉眼でなんとか確認できる程度の距離に潜んでいる上に、暗闇からナイトビジョンで監視していたのだ。
 もし、そんなことが可能なのだとすれば、それは人間の領域を逸脱していることになる。
 だが、なにを考えたのだろうか。突然、謎の男の背後に黒い壁が──いや、あの黒いライオンメカが現れる。
 そこに来たというよりも、その場に浮きだしてきたような姿に、光洋は技術の差を目の当たりにした。
 いわゆる光学迷彩機能なのだろうか。とにかく、前々から姿を消してそこに潜んでいたのだろう。
 現れた黒いライオンメカに、光洋だけならずほかの隊員にも動揺が走る。
 しかし、ここで光洋は、自分でも思いもよらない行動に出た。
 動揺する隊員たちを制し、見つかることも厭わずに立ち上がる。
「大尉、どちらへ…」
「奴と話がしたい。巧くいけば味方に引き入れられるかもしれん」
 嘘だ。そんなものは建前にすぎない。
 事実、光洋の目は男ではなく黒いライオンメカを凝視したままだ。
 魅入られた。そう表現するといいのかもしれない。
「危険すぎます!」
 そんな制止の声も無視して、光洋は一歩、また一歩と男に歩み寄っていく。
 やはり気づいていたのだろう。近づく光洋に視線さえも向けずに、男は蛇に口をつける。
 重たい空気が満ち満ちていた。どちらからともなく視線を交わし、そしてその視線は光洋の背後へと移っていく。
 刹那、黒いライオンメカ──混沌の獣王カオスが動いた。
 瞬く間に隊員たちのもとに降り立ったカオスの鋭利な爪が隊員も機材も薙払っていく。
 ほんの数秒で悲鳴は消え、辺りには再び静寂が訪れた。
 ゆっくりとこちらを振り返るカオスに、光洋は今までにない高揚感を感じていた。
 息苦しいほどに緊張しているのがわかる。
「20人…」
 今、口を利いたのは黒いライオンメカだろうか。
 思わずカオスを見上げる光洋に、カオスは再び「20人」と口にする。
 どうやら、連れてきた隊員の数を確認しているのだろう。光洋は迷うことなく肯き、懐の無線機と発信機を取り出すと、勢いよく踏みつぶす。
 これで彼らを見ている者も、聞き耳を立てている者も存在しない。
「話がある」
 光洋はそう切り出すと、焚き火を挟んで仮面の男──釧の正面に座り込む。
「このメカが欲しい」
 カオスを指す言葉に、釧は僅かに眉を動かした。
 この手の輩は大抵が力欲しさに忍巨兵を欲する。しかし、光洋の言葉は更に続いていく。
「俺には守りたいものがある。だが、オマエにもわかるように、地球の武器では侵略者には勝てない。守りたいものを黙って蹂躙されるしかないんだ」
 光洋が身の上話から桔梗家のこと、光海のことを事細かに話していくにつれて、釧はどこか感慨深く光洋を観察していく。
 国連軍は無力だということ。自分は無能呼ばわりされるために軍に入ったわけではないと語る光洋は、次第にヒートアップしていく。
「頼む。オレにあのメカをくれ」
 語ることがなくなったのか、ようやく訪れた沈黙に、釧はなにを思ったか、手にした蛇を差し出した。
「食え」
「貰おう」
 不思議なことに意志疎通は成功したらしい。
 間もなくして、立ち上がる釧はカオスを振り返り光洋に告げた。
「これはキサマのものではない。だが、キサマに扱える忍巨兵ならばいるかもしれん」
「シノビキョヘイというのか。では、それをオレに譲ってくれ」
 釧の瞳が光洋を射抜いていく。まるで心を見透かすような深い瞳に、光洋は思わず自分の胸ぐらを鷲掴みにする。
「キサマの守りたいものとやらを守れるかなど、キサマ次第だ…」
 ついてこいと背を向ける釧に、光洋は砂をかけて焚き火を処理すると、見失わないように釧の背中を追いかけていく。
「キサマに忍巨兵の忍びたる資格があるか……試してやる」



「そしてオレはついに、地上最強の力を得た」
 左手首に光る海の色をした腕輪には、同じく海の色をした勾玉が二つはめ込まれている。
 どういうわけか、本来の持ち主が既に白骨化していた以上、無用な詮索をするつもりはない。
 しかし、この力は……忍巨兵は確かに光洋のものとなった。
 忍巨兵は言った。己は戦をするつもりはない、と。
 光洋も言った。関係ない。自分には元よりそのつもりはない、と。
 光洋が忍巨兵を欲したのは、あくまで桔梗の家や光海を守る力を求めたからだ。
 実際は力そのものにも、興味はない。必要なのは、己の未来を脅かす輩を抹消できるという確証だけだ。
「準備をしろ。オマエたちの出番だ」
 その言葉に応えるように、勾玉がチカリと光を放つ。
 結局、光洋が軍に戻ったのは、その方が都合がいいからだった。権力も情報も、多いにこしたことはない。
 任務失敗についてはガーナ・オーダや忍巨兵の情報を命辛々に得たと伝え不問となり、部隊を全滅させた件については、一週間の独房入りでカタがついた。
 しかし、その一週間は有意義に情報収集をさせてもらった。
 忍巨兵から伝え聞いたことで大まかなことは理解したつもりだ。
 惑星リードのこと。ガーナ・オーダのこと。そして風雅忍軍のこと。
 そして、その風雅忍軍の新たなメンバーには光海らしき人物がいるということ。
「どこの誰かは知らんが、光海をたぶらかしたことを地獄で後悔させてやる…」
 殺意を込めた視線が遠い空を見つめる。
 そこに見える紅の忍巨兵に、光洋は確かな敵意を燃え上がらせた。
 風雅忍軍もガーナ・オーダも関係ない。自分の描く未来に立ちふさがるというならば、手に入れた力の前に屈服させるまでだ。
 戦場までもう少し。そして、そう遠くない未来で彼は風雅を敵視することになる。






 時非から遠く離れた出雲の山中。ここにはある一族が古より守ってきた隠れ里があった。
 一族の名は風雅
 400年もの時を越え、現代に甦った忍びの一族である。
 その里の一番大きな屋敷。つまり当主の家にあたる場所に、陽平たち風雅忍軍とは縁の深い者の姿があった。
「椿」
 名を呼ばれ、風魔の長女は流れるような黒髪を揺らして振り返る。
「お待たせしました。風王と炎王の修繕、今終わりました」
 絶世の美人がそこにいた。
 椿でさえ標準を上回る容姿をしているというのに、この女性はそれに輪をかけた美人だ。
 巫女服に身を包む清楚なイメージの女性に、椿はありがとうと二つの勾玉を受け取る。
 年の頃は20代前半といったところか。幼い顔立ちながらも、身にまとう雰囲気が大人びた印象を与える。
 いうなれば、どこか現実離れしているのだ。
「無理を言ってごめんなさい」
 先の戦いで風雅忍軍と忍巨兵は手痛い深手を負わされたのだが、中でも双頭獣ダブルフウマは大破を通り越して全壊に近い状態だった。
 巫女の治癒もなく、自己修復も弱い双頭獣にとってあまりに深刻な事態に、椿はこうして風雅の本拠地とも言えるここ風雅の里に足を運び、技師たちの手によってダブルフウマを修復してもらったのだった。
「親友の頼みですもの。聞かないわけにはいきません」
 そう言って笑みを浮かべる女性に、椿は嬉しそうに歩み寄る。
「本当にありがとう、琥珀」
 琥珀と呼ばれた女性は、小さく頭を振ると、そっと椿の唇に指先で触れる。
「それ以上は…」
「ええ。でもあっちに支障はないの?」
「心配はいりません。日向は優秀ですから」
 日向とは、ここ風雅の里に住まう少女で、優秀な忍巨兵の技師だ。
 椿も双頭獣の件や忍獣サイハの件で世話になっているために、よく顔を合わせている。
 大人しそうな印象のわりに、とても明るく賑やかで、それでいて頼りになる子。それが椿の持つ日向のイメージであった。
「そう。彼女にもお礼を言わなきゃね」
 風雅の里において、極秘で進められている計画が二つある。その両計画の中核を担っているというのに、双頭獣を修理させるなどという大仕事を頼んでしまったのだ。椿でなくとも心苦しく感じてしまう。
「大丈夫です。日向も、いい気分転換になったと言っていましたよ」
「相変わらず忙しそうね」
 多忙極まる。といったところか。
 自分よりもいくつも年下なのにと感心してしまう。
「ときに椿…」
 琥珀の見せる不安な表情に、椿は首を傾げる。
「勇者さまは…」
「陽平くんね。彼はまだまだ強くなる。けど…」
 だけど椿も感じていた不安がある。
 陽平の成長速度には目を見張るものがある。しかし、それゆえにそろそろ越え難い壁が現れるはず。
 正直、今の陽平に乗り越えられるかは些か不安が残る。
 以前、陽平を指導したことがあるからこそわかる。陽平の欠点は一度ぬかるみにハマると抜け出せないことだ。
 これ以上の成長を促すには、やはりなにかしらのきっかけが必要になりそうだ。
「そのための蒼天…」
「椿、私たちは彼にすべてを押しつけている気はしませんか?」
 勇者忍者だからこうあれ。勝つためにはこうあれ。確かに陽平のキャパシティ以上のものを求めすぎているかもしれない。
 いかに勇者忍者に選ばれたとはいえ、普段の陽平はごく普通の高校生だ。
「牙王と鳳王を目覚めさせるにはいい機会かもしれません」
 琥珀の言葉に、椿は大して驚いた様子はなかった。むしろ予想していた節さえある。
 真なる忍巨兵は風雅のもの。果たして風魔の兄妹に扱えるかどうか。
 疼く掌の古傷に、椿は胸が締め付けられるようだった。
 ちょうど二人の間に沈黙が流れたとき、一人の巫女が息を切らせながら駆けてきた。
 その様子からなにかただならぬことが起きたのは言うまでもない。
 彼女の息が整うのを待ち、二人は思わず顔を見合わせる。
「獣王が…、ガーナ・オーダ鎧の双武将とたった一人で交戦中です!」
 巫女の報告に二人の目が険しいものに変わる。
 鎧の双武将とはまた最悪の相手が出てきたものだ。いや、逆を言えばそれだけ陽平たち風雅忍軍が邪魔なのだろう。
「今の陽平くんに双武将は荷が重すぎる」
「椿、なんとか蒼天が目覚めるまでの刻を…」
 琥珀の悲痛な願いに、椿は手にした勾玉を発動させる。
 飛び去るサイハを見送りながら、琥珀は控えたままの巫女を振り返り…
「私もかの地へ赴きます」
 その言葉に巫女は深々と頭を垂れた。


















<NEXT>