瑪瑙たちの見守る中、勇者忍軍とガーナ・オーダの戦いは熾烈を極めていた。
 互いに一歩も譲らぬ接戦。だが、それは鎧巨兵ガイ・レヴィトが忍巨兵五体に匹敵する性能を秘めていることを明らかにしただけの話。
 変幻自在な攻撃で正面対決を挑む双王を筆頭に、輝王が双王の穴を埋めるように仕掛けていく。森王の援護射撃は鎧巨兵ガイ・レヴィトの攻撃を迎撃。闇王はそんな森王のために足場を作りながら、連結刃を封じようと試みる。あとは天王が気まぐれで攻撃を仕掛けているようだが、積極的に手を出さない辺りおそらく飽きてきたのだろう。
 忍巨兵を模して作られているだけあって、その性能は折り紙付き。先ほどの獣姿よりも動きが鋭いのはあれが本体ゆえか。
 戦いを見守る瑪瑙は、そんな感想を抱きながら悲痛な面持ちで瞼を伏せた。
 どうして二人は──日向と椿はなにも言わないのだろうか。
 てっきり「なぜ戦わない」と責められるものと思っていたが、そういった様子はまったく伺えない。
 むしろ、戦いに参加できない自分たちを恥じているようにさえ映る。
(私は……)
 完全に関わってしまうことを恐れている。もう深く関わってしまったというのに、逃避という名の日常に戻ろうとしている。
 そんな瑪瑙の脳裏に浮かぶのは、自分を産んでくれた父母。そして今のお母さん。
 浮かんでは消えていく大切な思い出たちは、どれもかけがえのないものばかり。
 裏切りたくない。なくしたくない。かつて、どれほどの思い出をなくしたか忘れてしまうほど失ってしまった。
 瑪瑙が見上げる者たちにだってあるはずだ。失いたくないものが、なくしたくない思い出が。
 ふと、悍ましい気配に振り返る瑪瑙は、忍巨兵の召喚同様に空間の歪みを発見した。
 日向も感じたのだろう。焦りの表情を浮かべながらもその様子を伝えようと、忍巨兵たちに大きく腕を振る。
「楓っ、なンかくる!?」
 いち早く気付いた柊の言葉に、皆の注意が歪む空に向けられる。
 歪んだ空は絵の具を滲ませたように部分的に色を変え、あたかも水面に現れるかのようにもうひとつの鎧巨兵が姿を現す。
 巨大な鎧から一瞬で人型に変わると、鎧巨兵ガイ・ヴァルトは遠雷のような雄叫びを上げた。
「新手っ!?」
 咄嗟に弓を構える森王に馬鹿正直に正面から飛び込むと、森王の矢などお構いなしに剛腕で殴り付け、動きを封じようと斬糸を飛ばす闇王の攻撃さえもものともせず、なにかが引っ掛かった低度に容易く引き千切る。
「あいつ……ガイ・ヴァルトッ!?」
 明らかに見覚えのある動きに、柊の表情がより一層険しくなる。
「さっきはマスターを相手に不覚を取ったが、忍巨兵に乗せてなかったテメェら自身を恨むんだな!」
「フウガマスターに瞬殺されたクセに、でっかい口は治らなかったみたいだね。ガイ・ヴァルトっ!」
 双王の蹴りを振り上げた腕で受け止めたガイ・ヴァルトと、双王を通して睨み付ける柊の視線が交差する。
「ほな聞くけど、アンタたちが何人おったらマスターに勝てるんや!?」
 背後から襲いかかる連結刃を分離して回避すると、ガイ・ヴァルトの脇を通り抜けて再び双王へと合体を果たす。
 確かにガイ・レヴィトの言うとおり、たとえ柊が10人いても雅夫には適わない。それほどマスターとは高みの存在なのだ。
 そもそも、本来は当主の危機や有事にしか戦わないはずのマスターが動いたことが例外なのだ。本当ならば双武将の侵攻を食い止めるのは自分たち勇者忍軍の役目だ。
「ジョーカーやエースばかりが強いカードではありません」
「ジャックやクィーンだって、十分に強いってことを証明してやるよっ!」
 そう言って鎧巨兵二体を相手に身構える双王に続き、輝王之槍手がガイ・レヴィトの背後を取る。
 海面を足場にする森王之射手が弓を構え、闇王の指先では斬糸が生き物のように動き回る。
 誰一人として戦意を失っていない。誰もが信じているのだ。風雅陽平は必ず来る……と。そして彼と共に勇者忍軍が戦えば、負けることなどありえない常勝の布陣なのだと。
「まぁいい。まずは牙王とクソガキ……」
「鳳王とウチの小鳥ちゃんを仕留めるのが先やな」
 舌なめずりが聞こえてきそうな発言に思わず身震いする楓に、双王が「苦労するな」と苦笑を浮かべる。
「翡翠ちゃんを返してっ!」
「そ、そうですぅ! 無駄な抵抗はやめてください!」
 勇ましい巫女の言葉にすっかり機嫌を良くしたか、ガイ・レヴィトとガイ・ヴァルトが互いに背中合わせで構えると、各々の武器で空気を震わせる。
 片や腕の甲から伸びた連結刃。片や鋼鉄さえも打ち砕く炎の拳。遠近両方に対応し、攻守共に隙はない。
「……貴方も行って」
「えぇ〜……」
 瑪瑙の指示に対してあからさまに嫌そうな反応を示すのは、仲間たちから少し離れて様子を伺っていた天王だ。
「ボクがいなくたって四人もいるんだよ、四人」
 あの数で負けたら恥。そう言って笑う姿に、瑪瑙は僅かに怒りの表情を浮かべる。
「なんでさ」
 天王の唐突な質問に、瑪瑙は小さく首を傾げる。
「メノウだってあいつらキライだって言ったよね? なんで助けるのさ」
 義務でも責任でもない。翡翠が囚われたからといって、助けてやるような義理もない。
 戦いを始めた四対二が徐々に激しさを増していく。
 双王の変幻自在な攻撃がガイ・レヴィトの連結刃に阻まれ、ガイ・ヴァルトの拳が輝王之槍手を捉えきれずに空を切る。
 森王之射手のミサイルが敵と味方の間を割き、闇王が見えない糸で奇襲を仕掛ける。
 そんな攻撃の余波から瑪瑙たちを庇いながら、天王は再び疑問を口にする。
「キライなやつを助けてなんになるのさ」
「それは……」
 思い悩む瑪瑙に助け船を出したのは、やはり彼女の姉、日向であった。
 瑪瑙を庇うように前に進み出る日向に気を悪くしたのか、訝しげな視線を向ける天王に、日向はスッと指をさす。
「では、どうして貴方は私たちを助けたんですか?」
 幾度となく攻撃の余波や飛び火した力を、天王は撃ち漏らすことなく迎撃している。瑪瑙だけを守るつもりなら彼女を連れて逃げればいいのだ。そんな簡単なことをしないのは、きっとなにか理由があるはず。
「どうしてですか?」
「メノウが逃げないから仕方なく──」
「本当に?」
 間髪入れずに問い返す日向に、天王は面白くないと顔を背けてしまう。
「天王サイガ。その疑問の答えは彼が……風雅陽平さんが持っています」
 天王よりもその名に反応を見せたのは瑪瑙だった。
 厳しい表情を見せ、白くなるほどに唇をキツく閉じる。
 浩介に会いたいと、想えば想うほど陽平に対して怒りが沸き上がってくる。
「瑪瑙……。あなたの陽平さんに対する怒りがどこから来るものなのかはわからない。でも、彼の戦う姿を見て少しでも気持ちが動いたなら教えて。あなたの気持ちを……」
 そう言って空を仰ぐ日向につられて瑪瑙が徐に視線を上げていけば、そこを一陣の風が通り過ぎた。






 ガイ・レヴィトの連結刃に腕を取られた双王に、ガイ・ヴァルトの拳が迫る。
 刹那、鼻先擦れ擦れに飛来した卍手裏剣がガイ・ヴァルトの動きを止め、それを追い抜いていった風がガイ・レヴィトを蹴り飛ばす。
「お前ェッ!?」
 睨み付けるガイ・レヴィトの目は、一瞬の出来事にせよ蒼い忍巨兵の姿を捉えていた。
 チャンスとばかりに追い討ちをかける双王の蹴りで海中に叩き込まれ、大きな水柱を立ててガイ・レヴィトが沈んでいく。
「待たせたなっ、みんな!」
 蒼い忍巨兵──蒼天の竜王ヴァルフウガの姿に、仲間たちの視線が集まる。
「アニキっ!」
「先輩、助かりました」
 寄り添い並び立つ双王とサムズアップを交わし、竜王は自身の背後に迫るガイ・ヴァルトに意識を向ける。
「風遁……」
 掌に集まる風が、小さな竜巻を生み出していく。
「旋風掌之術っ!」
 握り締め、押さえ付けるように放つ風は突風となってガイ・ヴァルトの身体を押し返していく。
 咄嗟に顔を庇うガイ・ヴァルトに、これまたチャンスとばかりに森王之射手のミサイルと輝王之槍手のサイクロン・フレアが直撃する。
「ヨーヘー……!」
「あの……、おまちしていました」
 光海と孔雀に頷き返し、陽平は海面を突き破って襲いかかる連結刃を巧みに回避していく。
「なッ、なんで当たらんッ!」
「反応速度と勘の差だよ」
 あっさりと言い切る竜王に連結刃が大きく震え、まるで茨の檻のように複雑に絡み合っていく。
 実際はただの残像にせよ、視覚的には間違いなく刃の塊が襲いかかってくる。
「風雅流……」
 竜王の拳に巫力が宿る。力は拳を駆け巡り、指先に流れ込むよう分散していく。
「角牙ぁッ!」
 中国拳法の崩拳のように打ち込まれた拳は、接触と同時に溜め込まれた力を拡散放出して連結刃の壁を左右に散らしていく。
 その瞬間、隙間だらけな刃の壁を通り抜け、ガイ・レヴィトに炎の羽──鳳凰裂羽が突き刺さる。
「お見事」
 竜王に触れる前にもんどりうって転がっていく鎧巨兵の姿に、陽平は背後に立つ双王参式を振り返る。
「いえ。先輩こそ……」
 竜王は他の忍巨兵に比べて全体的に能力が高い。それを最大限に活かすには、竜王自身がフォローに徹することがポイントだ。
 仲間たちのフォローで戦う以上に、自身がフォローする方が何倍も効率はいい。それは今の戦いで証明されている。
 竜王が技を捌き隙をつく。そうすることで、勇者忍軍は損害を最小限にとどめて勝利することが可能となる。
「なるほどな。やるなぁ〜……元・獣王」
 動きやクセから気付いたか、そんなことを口走るガイ・レヴィトに陽平は眉をひくつかせる。
「せやけどその程度で勝ち誇るんはちょぉ気ぃ早いで」
「勝ち誇るかよ。確実にてぇめぇらの息の根を止めるまではなッ!」
 そうだ。獣王に続き、竜王でまで負けるわけにはいかない。
「さぁ、今すぐ撃ち抜いてやっから覚悟しろッ!」
 拳を合わせ、両腕の遁煌で陣を組む。竜王最強の武器である風遁煌陣──ヴァルファングインフィニットを構える陽平は、睨み付けたまま狙いを定めるようにゆっくりと拳をずらしていく。
 確実に倒すには頭を潰すに限る。それは自身の身体で学んだことだ。
「まずは猫娘から──」
 その瞬間、竜王の動きがピタリと止まった。信じられないものを見たような陽平の表情に、ガイ・レヴィトは今思い出したというかのように不気味な笑みを浮かべる。
「な、なんでそんなとこにいるンだよ……」
 それは鎧巨兵ガイ・レヴィトの額にある水晶体。濃い紫に輝くそこには、氷の柩で眠っているような少女の姿が在った。
 見間違うはずがない。あれは陽平が命に代えても守り抜かねばならない少女の姿だ。
「翡翠ぃッ!」
「おっと、そこまでだぜ。随分とデカい口叩きやがって……」
「その技で助けられる思わん方がええよ。他のンはあんまし効かへんかったけど、そない強力な攻撃やとお姫様も一緒にドカンやで」
 嘲笑いながら並び立つ鎧巨兵に、竜王は渋々陣を解く。
「そーやそーや。それでええ」
「そのまままな板の上の魚みてぇに動くんじゃねぇぞ」
 ゆっくり近寄るガイ・ヴァルトを睨み付けながら、陽平は翡翠の状況を必死に頭に叩き込んでいく。
 額の水晶体に直立するように収められた翡翠は、当然ながら正面から攻撃した場合、水晶もろとも潰してしまう可能性がある。
(やるなら……あの水晶だけ切り落とすしかねぇ)
「いけ好かねぇ目だ」
 手を伸ばせば触れられる距離まで接近したガイ・ヴァルトに、竜王は油断なく身構える。
 おかしい。どうして今の今まで翡翠を盾にして戦わなかったのだろうか。翡翠がいれば陽平たちは手が出せないのはわかっているはず。
「先輩」
「ああ。俺も今気付いたぜ」
 つまり、双武将にとっても翡翠をこの位置に持ち出すのはリスクが高い行為だということだ。
 奪い返される可能性があり、かつ死なせてしまうかもしれない場所。
 翡翠の持つだろう生命の奥義書。なにがなんでもこれが欲しい双武将にとって、翡翠が死ぬというのはマイナス以外のなにものでもない。
「てぇめぇらデカブツを守るのに、翡翠は小さすぎるってなァッ!」
 竜王の咆哮に空気が震え、周囲の温度が一瞬で蜃気楼を生み出すほどに高まっていく。
「暴ぉ竜ッ! 咆ぉ哮ォォッ!」
 両の拳を打ち付け、同時に四基全ての遁煌を発動させる。
 蒼天の竜王が深紅の暴竜へと姿を変え、解放された爆発的な力が圧力となって鎧巨兵を押さえつける。
 刹那、熱風となった竜王の拳が一回りは巨大であろうガイ・ヴァルトを高々と殴り飛ばす。
 殴られた当の本人さえ気づけなかったのか、声を上げる間もなく落下すると海面に派手な飛沫をあげる。
「そんなアホなことが……ッ!?」
「まぁだまだァッ!」
 突き抜けるような竜王の蹴りがガイ・レヴィトの腹部に突き刺さる。
 それが以前、釧が放った技であることに気づいたのは、受けた当人である柊だけであった。
 膝で顎を突き上げ、仰け反ったところに再び蹴りを突き刺す。くの字に折れたガイ・レヴィトの後頭部目掛けて肘を叩きつけ、こちらも海中へと叩き落す。
「休ませるかよッ! 風遁煌陣ッ、疾け抜けろ熱風ッ!」
 振りかぶり合わせた拳を中心に竜巻が起こり、振り下ろすと同時に海が割れる。
 暴竜の熱を帯びた赤い竜巻は、双武将を拘束すると同時に装甲を次々と剥ぎ取っていく。
「ブレイジングゥゥ……インフィニットぉォッ!」
 自らの竜巻に吸い込まれるように加速する竜王は、真上からの落下を合わせてガイ・レヴィトの額に拳を叩き込む。
 あらかじめ装甲を削り、脆くなったところを救出、そのまま相手を撃破する。そのはずだった……。
 必殺の拳が届く瞬間、ガイ・レヴィトが確かになにかを口走った。それを確認する間もなく竜王の拳は砕け散り、行き場を失った爆発的な力が鎧巨兵と竜王を共に包み込んでいく。
「な──ッ!」
 視界が白に染まっていく。まるで地上に太陽が落ちたような輝きが、全てを包み込み全てを白に染め上げる。
 何故だか一瞬、空が見えたような気がした。
 全身が落ちるような感覚に包まれたとき、陽平の意識は、そこでぷつりと途切れた。






「ヨーヘーっ!」
 竜王と鎧巨兵が光に包まれた瞬間、誰よりも早く森王が飛び出していた。
 だが、孔雀は見た。迫る光の持つ圧力が、触れた物を片っ端から塵に変えている。もしもこんなものに触れれば、たとえ忍巨兵でも無事では済まない。
 これが竜王の持つ破壊力なのかと、今更ながらに痛感させられる光景であった。
「ねーさま、さがってくださいっ!」
 飛び出しそうになる森王を制し、盾を持った輝王之槍手が一人前へと進み出る。
 獣岬全域を守り抜くことは事実上不可能。ならば自身が盾となってでも力を逸らすしかない。
 しかし、あろうことかその輝王さえも守ったのは、その場にいた誰にとっても意外な者であった。
「風雅流戦舞、翔風【かけかぜ】!」
 下から吹き上げるような突風が壁となり、押し寄せる光を逸らしていく。
 迫る圧力に、舞手の翼が激しく揺れる。
 守るように立ちふさがる白い背中に、誰もが同じ疑問を抱いた。
どうしてあなたが?
 そんな言葉をかけられることを恐れてか、振り返る素振りも見せない天王之舞手は、迫る光を両手に構えた扇──恋舞を光に突き立てると、さも当然のように左右に引き裂いていく。
 二つに割れた光が恋舞の一振りで霧散すると、辺りの木々まで驚いたかのように時非海岸に久方振りの静寂が訪れた。
 荒れ狂っていた水面は穏やかさを取り戻し、辺りは風一つない静けさを保っている。
「天城さん、どうして……」
 想像通りの言葉をかけられたことに苦笑を浮かべるものの、すぐにいつもの無表情を取り戻して忍巨兵たちを振り返る。
 誰もが信じられないものを見ているような顔をしている。
 無理もない。あれだけ頑に協力を拒み続けていたのだ。突然助けに入れば理由くらい問われるだろう。
「どうして……」
 呟くように投げかけられた疑問を反復する。
 どうして。その答えが光の中に消えていった少年にあると答えたら、皆はどれほど驚くだろうか。
 仲間たちを救おうと、颯爽と飛び込んできた瞬間の彼には、正直何の感慨も沸かなかった。
 しかし彼の行動の端に感じる気持ちは、間違いなく優しさだ。仲間を想い、翡翠を常に気にかけていた。
 憎らしいことに、その姿は、あの日、瑪瑙の前から姿を消した星浩介に重なって見えた。
 誰かのために自身を削り、傍から見れば無茶なことばかりに足を踏み入れていく。
 どうしてそう他人のために心を割き、自らを差し出せるのか。その答えは、思いの外近くで見つけることができた。
 数年前、育ての母、天城弥生が命懸けで瑪瑙を救ってくれたとき、彼女はいったい何と言っていただろうか。
 彼女は笑いながら、「そんなの当たり前のことじゃない」と答えた。
 困っている人がいれば助けてあげる。聖人君子でなくとも、それは生きていく上で当たり前のことなのだから。
 そんな助け合いが絆を生み、その絆が失いたくない大切なモノたちを作っていく。
 全ては当たり前の事で、誰だって知っている事なのだ。
 だから瑪瑙は、「どうして」という疑問には、こう答えると決めていた。
 少しはにかんだように笑った瑪瑙は、スッと人差し指で唇に触れると当たり前のように一言だけ
「教えて……あげません」
 そんな意地悪じみた言葉を口にするのだった。












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