アークセイバーは劣勢に追いやられていた。
 勢いに任せて飛び出したはいいが、ソードアークセイバーで追いつけなかった相手をこの姿で捉えられるわけはない。
 忍邪兵の運動性の前に、アークセイバーのブレイバーソードが何度も空を切る。
「くそッ! どれが本物なんだ!!」
 分身の術なのか残像なのかもハッキリしないトリッキーな動きに、和真の疲労は次第に大きなものになっていく。
「ツイィン……──」
 アークセイバー両脚に装備されたキャノン砲が頭上で重なり、巨大なビーム砲になる。
「カノンッ!!」
 ビーム砲を構え、忍邪兵に照準を…
「なっ!?」
 照準器の向こうで複数に分身する忍邪兵に、和真は歯噛みする。
「くそ、またかよ!!」
 狙いの定まらぬビーム砲を乱射しながら、徐々に後退する。
 もう少し待てばガーディアンズが到着する。EGOのマックスコマンダーとも連携で戦えば例え忍邪兵が相手でも互角以上に戦えるはず。
「アークセイバー!」
「待たせたな!!」
「来たか! ガーディアンズ!」
 アークセイバーの頭上を飛び越えながら2人のガーディアンが人型に変形する。
 続けて地球軍EGOのコマンダーチームが戦場に姿を現すと同時に、拡声器で増幅された、それでなくともよく通る声が響き渡る。
「遅くなった。これより貴君らを援護する! 各機フォーメーション!」
 EGOの士官、鳳 明日香の声に4機のコマンダーチームもまた人型へと変形する。
「「フォーム、アップ!!」」
 ガーディアンズの掛け声に合わせ、6機ものメカが同時に合体フォーメーションを描く。
 刹那、風切音と共に黒い機影がガーディアンズとコマンダーチームに襲い掛かる。
 ビートガーディアンへのドッキングに入ったガーディアンズが、忍邪兵の炸裂弾に吹き飛ばされ、マックスコマンダーに合体する各接続部に黒光りするクナイが投げ込まれる。
「「「「な、なにぃッ!?」」」」
 ガードビートルとスタッグ、ティガーとホークが驚愕の叫びと共に1機、また1機と墜落していく。
「そんなバカなッ!?」
 あまりに衝撃的な光景に、鳳が声を荒げて拳を壁に打ち付ける。
 今まで幾度となく成功していた合体を破られ、ガーディアンズもコマンダーチームも動揺を隠し切れぬまま膝を立てる。
 それでも戦意を失わないのは流石勇者といったところか。
 意思を持たぬはずのコマンダーチーム、ディンゴとクロウもまたゆっくりと立ち上がる。
「くそ、もう一度だ!」
「落ち着けスタッグ! このまま合体しても同じ結果に──ぐわっ!!」
「新手かっ!?」
 上空から降り注ぐ砲弾の嵐に、鳳が険しい目を向ける。
 どうやらデス・ゲイムスの量産機らしく、無数の機影の背後にはミミクリーの愛機メイガス・ミミクリーの姿が見える。
 おそらく忍邪兵相手に勇者たちが苦戦していることに感づき、これ幸いとばかりに手勢を率いて責め込んで来たというところだろう。
「勇者を先に始末なさい! あの黒いメカはできるだけ破壊するな!」
 ミミクリーの指示でデス・ゲイムスの量産機が一斉に降下を開始する。
「あわよくばあの未確認機を捕獲する気か! コマンダーチーム各機応戦せよ!」
「ガーディアンズもそのまま頼む! 来い、ガンナーレオン!!」
 各自応戦を開始する勇者たちの背後からガンナーレオンが駆け込んでくる。
「武装合体!」
 ガンナーアークセイバーに合体すべく、ガンナーレオンがアークセイバーの背を覆うように駆け上がる。
 しかし、またしてもガンナーレオンとアークセイバーの間に忍邪兵が入り込み、鋭利な鎖鎌を振り下ろす。
 合体モードのために完全に無防備だったことが災いした。ガンナーレオンの腹部が大きく裂け、仰け反るようにして倒れこむ。
「レオンッ! くそ、ヤツの動きが早すぎる!!」
 闇雲に振り下ろされるブレイバーソードと、忍邪兵の鎖鎌が交差する中、和真は苛立ちを露わにする。
(負けるか! こんなことくらいで負けるものか!)
 劣勢を強いられる中、和真の心が雄叫びをあげた。






「ありゃあのときの忍邪兵じゃねぇか!」
 遠く戦場に見える見覚えのある姿に、陽平は手にしたばかりの缶を握りつぶす。
 先ほど知り合った少女、麻紀は街中でたまたま見かけた陽平のことが不思議と気にかかったらしく、(ようするに怪しかったらしい)それでつけまわしていたらしい。
 だが、おかげでこの世界のことも少しだが理解できた。
 その返礼にと、少しくらいなら質問に答えると言った矢先、遠目で戦闘が起こるとは…。
 しかもその中には見覚えのある機影が混じっている。
 紛れもない。この世界に飛ばされる原因となった忍邪兵だ。
「ああ! アークセイバーが!」
「アークセイバー?」
 自販機から戻ってきた麻紀の言葉に、陽平は思わず聞き返した。
「あいつか…」
 陽平の目に映る青と白を基調とした巨大ロボットは、他のロボットに比べ善戦しているがこのままでは間違いなく数に押される。
 しかし、まったく忍邪兵の動きに対応しきれていない。
 性能的な問題もあるが、焦りからまったく冷静な判断が出来ていない。
 そもそも、忍邪兵は元が別の生き物なだけに、学習能力が非常に高い。例えば同じタイミングに同じ武器を同じ角度で放てば、ほぼ確実に回避される。
 先ほどからロボットが合体に入るのを邪魔しているようだが、おそらくクロスフウガとの戦闘、そしてソードアークセイバーとの戦闘から得た経験がそうさせているに違いない。
(こうして第3者になってみると、意外と周りが見えるもンだな…)
 普段熱くなって突っ込む傾向があるだけに、陽平は少し反省する。
(だが、どうする。俺が手を出しちまっても大丈夫なのか)
 ここは自分のいるべき世界ではない。それは麻紀から聞き出せた情報でなんとなく察することができた。
 だからこそ可能な限り隠密に行動し、翡翠を見つけて早々に帰るつもりだったのに。
「…どうすりゃいい」
「陽平くん?」
「くそっ! らしくもねぇ!! 西宮、お前の質問に答えるのはまた今度だ!」
 吐き捨てるような言葉を残し、陽平は懐から黒光りする大振りのクナイを引き抜く。
「いいか。ここで見たことは全部忘れろ!」
「え?」
「影衣着装ッ!!」
 麻紀に背を向けて走り出す陽平の足元から影が浮き出し、全身を覆う忍装束になる。
 飛躍的に向上した跳躍力でビルの壁を駆け登り、遠い戦場を見据える。
「クロス、いけるな!」
『問題ない。クリムゾンフウガも共に在る』
 パートナーの言葉に力強く頷き、影衣を纏った陽平──シャドウフウガは獣王式フウガクナイをビルの屋上に突き立てた。
「風雅流忍巨兵之術っ!!」
 ドンッ! という音と共に、ビルの屋上を包み込むほどの煙幕が噴出していく。
 黒煙の中、キラリと輝く黄色い石。そして呟くようにシャドウフウガが唱える。
「風雅流奥義之壱、三位一体…」






 ビルの頭をすっぽり覆うほどの煙幕は、戦場にいるアークセイバーたちにも視認されていた。
「な、なんだあれは!?」
「また新手かよ!」
 襲い来る機影を切り伏せたガーディアンズが振り返り、その声に戦場の目が、敵味方問わず黒煙へと一斉に集まる。
 刹那、黒煙の向こうから放たれた真っ赤な光が、デス・ゲイムスの量産機を巻き込みながら戦場の空を突き抜けていく。
 咄嗟のことに反応できなかった半数近くを削り取った赤い光に、ミミクリーが怒り露わに舌打ちする。
「何者だ!!」
 黒煙の向こうで、4つの瞳が煌々と輝く。
「何って、ただの通りすがりの獣王式忍者合体…」
 徐々に黒煙が晴れ、獅子を胸に携えた紅の鎧が姿を現す。
「…クロスフウガ、見参!」
 ビルの屋上で膝を突く紅の忍巨兵に、忍邪兵があからさまな反応を見せる。
「やっぱりあのときの野郎か。クロス、今度は逃がすなよ」
「わかっている!」
 その言葉と共に、紅の獣王クロスフウガが屋上を蹴って飛び出した。
 あっという間に戦場のど真ん中へ入り込むと、同時に刃翼──裂岩を周囲に向かって射出する。
 デス・ゲイムスの量産機を数機同時に屠り、裂岩を回収すると同時に後ろ腰から鍔なしの忍者刀、斬影刀を抜き放つ。
「いつまでボーっとしてんだよ、アークセイバーさんよ!」
「なッ!? なぜ俺を!」
「有名人ってのは辛いねぇ。ほら、わんさか寄って来たぜ!」
 シャドウフウガの言葉通り、いつしか2人は無数の機影に取り囲まれていた。
 だが、その程度で怯むわけでもなく、シャドウフウガは不敵な笑みを浮かべる。
「まだ動けンだろ?」
「当たり前だ!」
 アークセイバーとクロスフウガが背中を合わせ、互いにブレイバーソードと斬影刀を構える。
 そして機影の大半が周囲に集まったことを確認すると、2人は弾かれたように飛び出した。
「でえぇぇいッ!!」
 ブレイバーソードで敵機の壁を抉るように斬り込み、両脚のツインカノンが更にその傷を深くする。
「遅いな」
 クロスフウガは突然敵機の眼前で急停止しながら素早く屈んで下段を切り払い、垂直跳躍と共に刃を上へと奔らせる。
「ツイィィン…──」
「火遁…──解放!!」
 アークセイバーが頭上で組み合わせた大型のビーム砲を構え、クロスフウガが胸の前で印を組む。
 まるで示し合わせたかのうように、アークセイバーが引き金を引くのと、クロスフウガ胸部の獅子が、超圧縮した火遁を直線状に解放するのが重なる。
「──カノンッッ!!!」
「フウガパニッシャーァァッ!!!」
 アークセイバーとクロスフウガを中心に、凄まじいエネルギーの奔流と真っ赤な光が互いに半周する。それと同時に2人を取り囲む全てのデス・ゲイムス機が爆発四散していく。
 ミミクリーの驚愕した瞳が大きく見開いたまま、立ち昇る炎を見つめる。
 その中心に並び立つ2人の勇者が、一歩、また一歩と歩み寄る。
「さぁて、次はアンタだ…」
「忍邪兵も相手しねぇとな」
 だが、2人の気迫に押されミミクリーが僅かに後ずさった瞬間、その間を割るように巨大なな衝撃波が奔り大地を引き裂いていく。
「危ねぇ! 跳べ、アークセイバー!」
「くぅッ!! この攻撃はアイツかッ!?」
 互いを突き放すように横へ跳び、バク転を繰り返し着地するクロスフウガと、転がるように起き上がって身構えるアークセイバーは、歩み寄る紅蓮の巨人へと睨みつけるように鋭い視線を向ける。
「やっぱりお前か…。アゴーンッ!!」
 まるで和真の声に応えるように、アゴーンの愛機メギド・アゴーンが巨大な鉈を肩に担ぐ。
「あんなもンまともに喰らったら、傷だらけのアークセイバーなんか一発でおしまいじゃねぇか…」
 逆手に構えた斬影刀を握り締め、クロスフウガがメギド・アゴーンに刃を向ける。
「きさまか。我の相手は…」
 担いでいた鉈をゆっくりと振り下ろし、地面へと突き立てる。
「よせ、お前の敵う相手じゃ──!?」
「ここは我らに任せ、今のうちにキミは仲間たちのところへ」
「そーゆーこと。ってわけだから…アゴーンとか言ったっけ。俺たちの相手をしてもらう……ぜッ!」
 言い終わる前に一気に間合いを詰め、斬影刀で斬りかかる。
 甲高い音が響き、陽平が小さく舌打ちする。
「こ、こいつ…!?」
 これほど巨大な鉈を、いったいいつの間に振り上げていたのか。
「若いな」
 鉈を振り下ろす勢いでクロスフウガを弾き飛ばし、メギド・アゴーンは追い討ちをかけるように飛び込んでいく。
(こいつ、ギオルネと被る…!?)
 ガーナ・オーダの刺客にして、鉄の武将を名乗るギオルネ。そのギオルネが駆る愛機ソードブレイカーもまた、このメギド・アゴーンと同じく凄まじい剛剣の持ち主だった。
 横薙ぎに振りぬかれる鉈を跳躍でかわし、突き出す足で顎を蹴り上げる。
「いい動きだが、パワーが不足しているな…」
「頑丈なヤツ…」
 呆れたような物言いとは裏腹に、正直このタフさには舌を巻かされる。
 そもそもメカの作りが違うのだろう。基本的に邪装兵であっても忍邪兵であっても、パワーよりも運動性が重視されている傾向がある。だがそれは、獣王たち忍巨兵の運動性に対抗するためのもの。このメギド・アゴーンはアークセイバーというまったく別の存在を相手にしている以上、パワーを重視に調整されていてもなんら不思議はない。
「そうガッカリするなよ。これから楽しませてやっからさ…」
 構え直すクロスフウガに、メギド・アゴーンもまた、その手にした鉈を両の手で握り締める。
 そんな姿を目の当たりにしながら、アークセイバーは傷ついた身体を押して仲間たちと合流していた。
 誰もが満身創痍で、このままではとても戦闘続行は不可能だ。
 なにより、忍邪兵を相手にしていたことが災いした。エネルギーがもう残り少ない。
(派手に撃ちまくったからな…)
 だが、そこでようやく気がついた。あれの姿が戦場のどこにも見えない。
 突然周囲を窺うアークセイバーに、ガーディアンズも不思議そうに目を向ける。
「みんな、あの忍者メカはどこだ!?」
 和真の言葉に、誰もが己の周囲に視線を廻らせる。
「あいつ! 逃げやがったのか!?」
 声を荒げるガードスタッグに、アークセイバーは静かに頭を振る。
 今、この状況は自分たちを全滅させる絶好に機会。そうそう逃すとは考えにくい。
「あそこだ!!」
 鳳の指差す先。そこにはミミクリーの駆るメイガス・ミミクリーに腹を突き破られた忍邪兵の姿があった。
 油断も隙もない。おそらくなにかしらの事情で戦場を去ろうとした忍邪兵に気づき、ミミクリーが先手を打ったのだろう。
「さぁて。このまま壊れてもらっちゃ面白くないからね。新しい装置の実験に使わせてもらうわよ」
 その言葉を示すようにメイガス・ミミクリーが怪しげな光を放つ。
 神々しいとさえ感じる黄金の光に包まれ、メイガス・ミミクリーと忍邪兵とが徐々に溶け合っていく。
「まさかッ!?」
 アークセイバーの叫びと、突如放たれた黄金の光に、クロスフウガとメギド・アゴーンも刃を交えたまま視線を向ける。
「あいつまさか…」
 徐々に収まっていく光の中、黒い忍者…もとい、くのいちを連想させる姿となったメイガス・ミミクリーが姿を現す。
 刹那、その姿が掻き消え、アークセイバーの背後でズンッ、と重厚感のある音が聞こえる。
「なにぃ…!?」
 振り返ったそこでは、背中を割かれたディンゴとクロウが物言わぬ躯のように倒れ、鳳が驚愕の目を向ける。
 続けて2度、3度。その度に倒れていく仲間たちに、アークセイバーがブレイバーソードを振り回す。
「くそッ! どこだミミクリー!!」
 そんな和真を嘲笑うミミクリーの声は、アークセイバーの四方八方から聞こえてくる。
「ここよ、勇者さん」
 突如足元から聞こえた声に、アークセイバーが大きく跳躍する。
「遅いね!」
 アークセイバーの影から飛び出したメイガス・ミミクリーは、アークセイバーを追い抜くと、手にした鎖分銅を投げつける。
 頭部に直撃を受け、仰け反るように落下したアークセイバーを、メイガス・ミミクリーが追い討ちとばかりに踏みつける。
「がはっ…!!」
 打ち付けられた衝撃で思わずむせかえる和真に、ミミクリーがさも楽しげに笑みを浮かべる。
「こいつはいいねぇ、成功だよこの装置は。あのアークセイバーがまるで子供扱いじゃないかい」
「やめろ! 今すぐ忍邪兵との融合を解くんだ!!」
 メギド・アゴーンの振り抜いた鉈を利用して、一気にアークセイバー付近まで後退した陽平の言葉に、ミミクリーはばかばかしいと鼻で笑う。
「聞け!! あんたがどんな方法で融合したかは知らねぇが、忍邪兵はやばいんだ!!」
「ふざけたことを…──ん?」
 ふと、自分の手に触れたものにミミクリーは訝しげな視線を向ける。
「なぁに、コレ?」
 突如、ミミクリーを覆うように飛び出した触手が、腕の、脚の、身体の自由を奪っていく。
 悲鳴をあげる間もなく頭部も押さえ込まれ、ミミクリーの顔が恐怖に歪む。
 中で起こっただろう出来事に舌打ちし、陽平はその切っ先をメイガス・ミミクリーへと向ける。
「赤い戦士よ。きさまの相手は我であろう」
「こんな状況でよくもまぁ…」
 歩み寄るメギド・アゴーンに、獣王がもう一振りの刀を抜き放つ。
「こうなったら徹底的にやるっきゃねぇ…」
 メギド・アゴーンと、忍邪兵に取り込まれたメイガス・ミミクリー。両者に向けて獣王が獅子の咆哮をあげる。
「いっくぜぇ!!」






 薄れ行く意識の中、和真は剣戟の音を聞いていた。
 それは素早く鋭い。アークセイバーにはない能力。
(俺にも…あんな力があれば…)
 強く、強く望んだ。
 風を追い抜く脚を、風を切り裂く刃を。

汝はそれほどに望むか、疾き姿を…。

(誰だ…)

疾き姿は諸刃の刃。勇者の身体に多大なダメージを与えることとなる。

(構わない。俺はみんなを…この世界を守ると決めたんだ)

それは勇者としての心構えか…

(違う。俺がそうしたいと思ったからそうするんだ)

誠面白き男。故に精霊を纏うか…

 それが近づいた気がした。眠る自分に歩み寄り、小さく鼻を鳴らす。
「お前は…」
 かろうじて搾り出せた言葉に、それは応える。
 その名を握り締め、和真は──アークセイバーは立ち上がる。
「寝てばっかじゃ申し訳ねぇよな…やっぱ」
 アークセイバーの見つめる先では、獣王が2人を相手に防戦を繰り返している。
 無理もない。デス・ゲイムスの四天王2人が相手なのだ。撃墜されていないだけマシというもの。しかし体力的に限界なのか、それも危うくなり始めている。
「助けられたまま、カリも返さずに終わらせられるか!」
 胸に浮かぶその名を和真は高らかに叫ぶ。
「来い! シャドウウルフッ!!!
 それは風を切って地を駆ける。黒い姿に赤い瞳を輝かせ、シャドウウルフは空に向かって遠吠えをする。
 突如、昼間だった世界は月明かりの照らし出す夜の闇へと姿を変え、シャドウウルフはアークセイバーへと走り出す。
「武装合体ッ!!」
 ウルフの爪が両の腕と足先に装備され、アークセイバーが地を駆ける。
 胸部にウルフの頭部が、背中と両肩に変形したウルフの身体が合体し、地を穿つことでブレーキをかけたアークセイバーは、膝を突いたまま鋭い眼光を向ける。
シャドウアークセイバー…見参!!
 突如現れたその姿に、戦場の視線が一斉に集まっていく。
 最初に飛び出したのはメギド・アゴーンだった。振り上げた鉈をシャドウアークセイバーめがけて徐に振り下ろす。が、鉈は空を切って大地を割り、シャドウアークセイバーの姿を完全に見失う。
「ここだぜ、アゴーン! フェンリルクラッシュッ!!」
 頭上から振り下ろされる爪を受け、メギド・アゴーンの巨体が僅かによろめく。
 続いて飛び掛るメイガス・ミミクリーの攻撃を難なく捌き、高速回転をかけた踵落としをお見舞いする。
「できる…」
 アゴーンの呟くような一言に、和真は不敵な笑みを浮かべる。
「当然だろ。今の俺は風より早いんだぜ」
 しかし長時間戦い続けるだけの余裕はない。和真の身体はシャドウアークセイバーが動く度にぎしぎしと悲鳴をあげている。
(これだけの動きをしてるんだ。当然といえば当然か…!)
 振り上げた鉈の一撃を跳躍でかわし、シャドウアークセイバーは狼の体毛を表すように背中に装備された5つの大クナイを1つ取り外すと、空中で姿勢を変えてそのまま振り下ろす。
 咄嗟に防御に入った鉈と、シャドウアークセイバーの大クナイがぶつかり合い甲高い音が鳴り響く中、アゴーンが鋭い視線を向ける。
「よもやあの体勢から…」
「それが忍者ってもンさ!!」
 居を突いて飛び上がる獣王は裂岩を切り離し、巨大十字手裏剣に組み替え、メギド・アゴーン目掛けて投げつける。
 迫り来る裂岩十字を咄嗟に腕で払い除け、深く切り込まれた装甲にアゴーンが舌打ちする。
「こっちも喰らえ!!」
 シャドウアークセイバーもまた、3つの大クナイを大手裏剣に組み替え投げつける。
「このアゴーンを…甘く見るなッ!!」
 巨大な鉈を振り下ろした威力で大手裏剣を弾き飛ばし、周囲に広がる衝撃波は獣王とシャドウアークセイバーを弾き飛ばす。続くメイガス・ミミクリーの鎖鎌を大クナイで叩き落し、回転しながら着地する。
「なら、こいつで…──どうだぁッ!!」
 獣王の姿が一瞬で目視できぬ速度まで加速する。
 獣王クロスフウガの必殺剣霞斬りは、メイガス・ミミクリーの頭部を切り飛ばし、一瞬で背後まで切り抜ける。
 だが、忍邪兵が融合したことで増した生命力は、メイガス・ミミクリーの頭部を繋ぎ合わせあっという間に再生を果たす。
「それなら、再生できないくらいに吹き飛ばす!!」
 和真の叫びと共に、シャドウウルフが分離、変形を始める。変形と呼ぶにはおこがましいが、後ろ足をアークセイバーの右肩に固定して、狼の頭部をもったキャノン砲へと姿を変える。
フェンリルスマッシャーッッ!!!
 照準機越しにメギド・アゴーンとメイガス・ミミクリーを見据える。完全にその姿を捉えた瞬間、和真は徐に引き金を引いた。
ファイヤぁぁぁッ!!!
 刹那、凄まじい衝撃と反動にアークセイバーの脚が大地を穿ちながら後退する。放たれたエネルギーの奔流は僅かに狙いを反れたものの、着弾と同時に巨大な火柱を上げ、夜の闇を照らし出す地上の太陽のごとく盛大に爆発を起こす。
「やった…のか?」
 歩み寄る獣王に、アークセイバーは静かに頭を振る。
 それを肯定するかのように、炎の中からメギド・アゴーンが姿を現し、手にしたメイガス・ミミクリーのコックピットブロックから2人の勇者へと視線を向ける。
「見事だ…」
「見事もなにも、あれに耐えられたらお終いだってぇの」
 悪態つく陽平に不敵な笑みを浮かべ、アゴーンはゆっくりと背を向ける。
「アゴーンッ!」
 叫ぶ和真にアゴーンは動きを止め、振り返らぬまま笑みを浮かべる。
「アークセイバー…お前はまだまだ強くなる…」
 頷くアークセイバーに満足したのか、それだけを言い残して、メギド・アゴーンの姿は霞みのように消えていく。
 あっという間に戦場は静けさを取り戻していた。
 シャドウウルフの能力で夜になっていた空も、今ではゆっくりと夕日が沈んでいく。
「シャドウウルフ…」
 いつの間にか消えていた精霊の名を呼び、和真は呟くように「ありがとう」と口にする。
 どこかで狼が吠えたような気がした。
 静かな戦場に残された2人は互いに歩み寄り、なにも言わずに固い握手を交わす。
 混乱から始まった戦いは、ようやく終わりを迎えた。






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